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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #39

丸山に連絡をとる。たつやについての情報を聞こうと思った。
丸山は一度たつやから、一緒にボートチャンネルをやらないかと誘われた。ならば他の誰かに声をかけていてもおかしくない。
既にYouTubeチャンネルを持っているところまで憶測していたため、その辺りを探るように頼んでいた。

「何も無いっすねえ」

素っ気ない返事に「そうか」と電話を切る。
完全に音が途切れる直前、ジャラジャラと騒音が聞こえてきた。おそらく彼は今パチンコ屋にいるのだろう。一度店から出て私と通話した後、戻りながら電話を切った。
電話が切れるよりも一瞬早く店のドアが開いたため、店内の音が漏れてきたのだ。

「何も無いか…」

予想はしていたが、落胆した。確かに何かあれば丸山の方から連絡があったはずなのだ。

「まずいな」

頭の中を整理する。
狙いはまず、ササノとたつやに視聴者に嫌われてもらうことにある。そして裏ではお互いがお互いを裏切り合い、その事実をこっそりと発信していく。しっかり嫌われていれば、もっとやれと視聴者は沸くだろう。
それを、炎上の瞬間まで盛り上げていく。

彼らの裏切りとはつまり、別の人間とYouTubeチャンネルをつくることにある。
ササノは馬の企画への気持ちが消化できていないはずで、そこを利用し、裏でチャンネルをつくるつもりだった。

たつやは言うまでもなくボートチャンネルで、正直、こちらの方が容易だと考えていた。丸山に声をかけてきたように、自分から動いているためそのうち相手は見つかるだろうと踏んでいた。
もし見つからなくても、最悪、丸山が組めばいい。

とそこまで考えたとき、ん? と思った。
丸山がたつやと組むという提案を、私は過去に話さなかっただろうか。
いや、話したはずだ。そのとき丸山はどういう反応を見せただろう?

『僕はやめといた方がいいと思いますね』

確かそう言ったはずだ。
裏切りがバレてもし解散となったら彼らの動画が観れなくなる。だからやらない。
彼の意思はそうだった。

しかし今、私たちはササノとたつやを裏切らせ合おうとしている。当然、それらがバレたら解散のリスクもあるだろう。
にも関わらず、丸山は今、協力している。

舌がざらりとした。
なぜだ?
丸山は今、たつやに近づき仲を深めているはずだ。何か有益な情報があれば教えてくれるはずだと、そちらは完全に任せていた。
ひねくれた見方をすれば、彼は私に与える情報を操作できるわけだ。

「…考え過ぎ?」

もし本当に操作しているとして、丸山の企みは何だ?

皆目見当もつかない、というわけではなかった。
あまり考えたくはないが、一つだけ完全に否定できない可能性がある。
たつやには、兄に600万円盗られたという苦い過去がある。自分の夢のために真っ直ぐに頑張って貯めたお金だ。
そういった過去を背負ったたつやを、私は炎上させようとしている。

丸山はああ見えて情に厚く、たつやの過去は彼の柔らかい部分を刺激するだろう。
ならば、彼が私の企画を壊そうとすることも有り得るかもしれない。

私は急いで出かける準備をし、玄関を開いた。
これはよくない。
丸山のことは絶対的に信用している。これからも信用したいし、もはや彼無しで計画の進行は不可能だ。

あかんわ、これは。

丸山を疑う自分が嫌過ぎて一刻も早くその気持ちを拭いたかった。
彼のいる場所はわかっている。
車に乗り込む。一度深呼吸した後、ハンドルを指でトントンと叩き、アクセルを踏んだ。

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