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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #40

学生時代仲の良かった友達の大半は大人になってから疎遠になる。
十年以上経った今でも気軽に連絡を取り合うのは、考えてみれば丸山だけだった。
親友というような間柄ではないが、私にとって希少な存在であることは間違いない。

初めて彼と会話したのは高校三年の夏休みだった。補修授業があり、その日私は学校へ行った。
授業が終わり下校途中、私は地元のドン・キホーテへ寄り道した。
目的の売り場へ向かう最中、『大特価』と大々的に書かれた商品ポップが目に入った。ポップの下にはたこ焼き機が何重にも重なり派手に陳列されていた。
その棚の前で、じっと顔をしかめる同年代の男がいた。彼も制服を着ていたため、同じ学校の生徒だとわかった。

「すいません先輩」

すれ違う瞬間その男に急に話しかけられ、私はひっくり返りそうになった。

「は?」

「たこ焼きって球体じゃないですか? でもたこ焼き機の鉄板の穴は半球体というか、半分しか丸くないのに何でたこ焼きはきれいな球体になるんですか?」

知るか、と思ったがそのあまりに自然な口ぶりに戸惑い、すぐには言葉を返せなかった。

「え、ごめん、誰?」

「丸山なんですけど、やっぱ無理ちゃいます? 球体につくるの。焼けたらクルッとひっくり返しますよね? でも、で? て感じでしょ? だってひっくり返って下になった部分、平じゃないっすか。やからドーム型にしかならないと思うんですよ。言ってる意味わかります?」

「中身が固まる前にひっくり返すんやろ。それやったら中身が鉄板にドロドロ落ちて球体になるやん」

「うわあ!!」

「なんやねん」

「なるほどと思って」

「リアクションおかしいやろ」

それから学校内ですれ違えば彼は声をかけてきた。変な奴だったため私はなるべく距離を置いて接していたが、なんとなく彼は癖になる性格をしていた。
だから話しかけられれば相手をしたし、連絡先を聞かれても拒否はしなかった。

高校を卒業してからの道は私は大学、丸山は専門学校と分かれた。ほとんど会うことはなくなったが、LINEや電話で定期的に連絡は取り合った。内容は概ね、丸山の愚痴だ。そのときから彼は私にストレスを吐き出すことを趣味としていた。

就職してからは学生時代の友人と連絡を取ることはなくなった。職場の人間と仲良くする気にもなれず、空いた時間に暇を潰せる何かを見つけなければ、と始めたのがパチスロだった。
不思議なもので、同じようなタイミングで丸山からパチスロを始めたと連絡があった。
それから一緒にパチンコ屋へ通うようになった。

予定を合わせて店へ行くこともあれば、一人で行って偶然会うこともあった。
遊戯を終えた後は一緒にラーメン屋や居酒屋で薄っぺらい時間を過ごし、日付が変わる前に解散した。意思を確認せずともそれが、いつの間にか二人のルーティーンになっていた。

当時から、私たちの通うパチンコ屋は変わらない。

「今日に限って違うパチ屋とかやめてやマジで」

呟きながらハンドルを切り、私は大阪市西淀川区にある「ラクエン」を目指す。

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