「預金はもったいない」思う人が見落とす3つのポイント
###この投稿は、筆者が東洋経済オンラインに投稿した記事を一部変更して転載しております###
先日、インスタグラムの質問ボックスでこんなことを聞かれた。
「1000万円ほど預金したままです。もったいないですよね?」
さて、この記事を読んでいるあなたは、この質問をどのように解釈しただろう。無意識に「投資しないのはもったいない」と読みとっていないだろうか。
この質問者さんもそういう意図で聞いてきていたのだが、本来お金は使うときに効力を発揮するもの。それなのに、「使わないともったいない」と考える人は今や少数派になっている。
一国の総理が「貯蓄から投資へ」を掲げ、今年は新NISAも始まる。投資をしないと取り残されるのではないかという不安にかられている人も多いようだ。
経済教養小説『きみのお金は誰のため』の主人公優斗の母親も、その1人。新年こそは投資を始めたいと考え、年末に近くの書店に駆け込む。
投資をするのは大いに結構なことだが、十分理解したうえで始めないと足をすくわれたり、本来目指していた結果につながらなかったりする。今日は見落としやすい3つのポイントについてお話しします。
ポイント1:投資をすすめる人の情報にはバイアスがある
投資をすすめる人の言葉の裏には、さまざまな本音が隠されている。それに気づかずに表面的な情報を信じていると、知らないうちに相手の思いどおりに動かされる。
たとえば、「預金で眠らせているのは、もったいないです。新NISAも始まりますし、投資運用したほうがいいですよ」とすすめる銀行員の言葉にうなずいていないだろうか? 彼らの本音は別のところにある。
そもそも預金は銀行の金庫で眠ってなんかいない。銀行の仕事は金庫の中でお金を保管することではなく、個人や企業に融資したり債券や株などの金融商品を買ったりして運用することだ。
ところが、日本には資金需要が少ない(新しい事業や会社を始めるために、お金を借りたり投資をしてもらったりする人が少ない)ため、預金されたお金が有効活用されず運用することが難しくなっている。自分たちが運用するのが難しいから、預金者に投資をすすめて手数料で稼ごうとしているといっても過言ではない。
投資をすすめてくるのは銀行だけではありません。SNSでもネット記事でも書店に並ぶ本でも、もうけ話は溢れている。
「コツさえわかれば株なんて簡単だ。100万で買った株が、300万で売れたよ。1カ月で200万円も儲けた」
こんな話を聞かされると、やっぱり自分も株式投資を始めようかなと思ってしまう。しかし、こうした情報には自己顕示欲による偏りがあると思ったほうがいいだろう。
世の中には、儲けている人たちだけではありません。株を100万円で買って300万円で売った人の裏には、100万円で株を売った人と300万円で株を買った人が必ず存在しています。必ずです。
そして、損している人は、「株なんて難しいぜ。俺は200万円も損しちまったぜ」なんてつぶやいたりはしない。
僕らが手にする情報は自然と偏っていく。これは、僕が長年トレーダーとして働いてきて学んだ最も重要なことの1つだ。
客観的な数字を見る場合でさえ油断は禁物。
「過去15年間、こんなに値上がりしているんですよ」と株や投資信託のグラフを見せられることがある。しかし、その情報も、さらに遡って30年分の動きを見ると別の真実が見えてくる場合がある。
情報は歪んでいるかもしれないと疑ったほうが賢明だ。
ポイント2:投資をしても日本は変わらない
政府は「貯蓄から投資へ」をスローガンにしている。経済を成長させるため、企業を応援するためにも投資が重要だという声もあるが、ただ投資マネーが増えても、経済が成長するわけではない。
バブル崩壊から30年以上たっても、日本の株価は当時の水準をいまだに回復していない。一方で、アメリカの株価は10倍以上に上昇している。
日本の株価が回復しない理由として、「日本人は預金ばかりして投資をしなかったからだ。1000兆円の個人預金が投資に回れば日本は成長する」という声も聞こえるが、これはいささか無理がある主張だ。
なぜなら、お金は簡単に国境を越えて移動できるからだ。これまでも日本に魅力的な企業が存在していれば、投資マネーはためらうことなく、海を渡って日本に流れ、株価が上がっていただろう。
根本的な問題は、日本には投資先として魅力的な企業が少なかったことにある。アメリカの株価上昇を牽引してきたのは、GAFAなどの新興企業。GoogleやAmazonなどに投資マネーが流れて、新しい産業が次々に生まれた。それが時価総額の上昇としてアメリカの株価に反映されたのだ。
これは、パナソニックやソニーなどの電機産業やホンダやトヨタなどの自動車産業が、日本の高度成長期の経済を牽引してきたのと同じことだ。
経済が成長するには、ただ投資マネーが流れるのではなく、そのお金を受け取って新しいことに挑戦する人々や企業の存在が必要になる。しかし、さきほども書いたように、資金需要の乏しい日本では株の購入の99.8%は、他の株主から株を買っているだけで、株を発行する会社にはほとんど流れない。
そういった状況の中では、「株を買って、会社を応援する」というのも、実態からはかけ離れているように思える。
逆の立場で考えてみれば明らかだろう。株式会社で働いている人は、自分の会社の株主が佐藤さんから田中さんに変わったときに、「自分は応援されている」と感じて、仕事をいっそう頑張ろうと思えるだろうか。それよりも、自分の会社の商品を買ってもらったときのほうが、よほど応援してもらっていると思うのではないだろうか。
ポイント3:投資するより働いて稼いだほうがいい
最後の3つ目として伝えたいのは、投資がお金を増やす近道とは限らないということだ。
働くことより投資をがんばろうと思う人が増えているのは、「r>g」というピケティの不等式の影響もある。フランスの経済学者のピケティは世界の格差が拡大していることを、この不等式によって理論的に証明した。大まかにいうと、労働によって得られる富よりも、投資によって得られる富の成長のほうが速いということだ。
そのため、労働よりも投資をがんばったほうがいいと考える人が増えてきているのだが、そこには大きな落とし穴があります。
ここでいう「投資によって得られる富の成長」は、だいたい年率5%ほどだと言われている。しかし、多額のお金を動かすプロがひしめいている投資の世界では、どんなにがんばっても平均を超えることは非常に難しい(たまたま儲ける人はいる)。
言葉は悪いが、素人がどんなに知恵を絞って投資をしても、より多くの情報をもって取引をしているプロの養分になるだけで、損する可能性が大きい。(余計なことをせずに、ただ平均的な利回りを目指してインデックス投資をしておけば十分だと筆者は思っている)。
その一方で、「労働によって得られる富の成長」は、年率2%くらい。ところが、こちらについては、努力次第で世の中の平均を大きく超えることも可能になる。
スキルアップして転職すれば大幅に年収が上がることがあるし、自分で事業を始めるという選択肢もある。世界の大富豪ランキングを見ると、上位のほとんどは投資する側の人ではなく、投資される側に回って事業を始めた人たちだ。これだけ投資したい人が増えている日本では、投資される側が重宝されるのは言うまでもない。
これまで話してきたように、投資というのはお金のなる木を育てることでも、企業の株を買って値上がりを待つことでもないのだ。
小説『きみのお金は誰のため』では、大富豪のボスが投資について語るシーンがある。
新NISAが始まり、今年はますます投資熱が高まりそうだ。若い人たちには、投資される側に回って、新しいことに挑戦するには大チャンスとも言える。
投資する側に回る人は、まわりの口車に乗せられて投資バブルに巻き込まれないようにしたほうがいいだろう。
どちら側に回るにしても、「どうして投資で儲けることができるのか」「どのように投資が社会を成長させるのか」をじっくり考えてから投資を始めることをおすすめしたい。
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半径1mのお金と経済の話
お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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