古川武士『書く瞑想』
「瞑想」とは何か。「無意識と通じるための技法」である。人は常日頃「意識的」に生きている。何かを「しよう」として、そのために思考をめぐらして生きている。この「する」モードを止める。「ある」モード、或いは「なる」モードにギアチェンジする。
そのことで、自分の身体、無意識が感じている微かな兆し、徴しに意識を向けなおし、自分が感じている「本当の感情」をすくいとっていく。
この本では、「書く」ことを通して、自分が今感じている「本当の感情」に通じていく技法が説かれている。
人はなぜ瞑想に惹かれるのか。瞑想を必要とする人の動機を、大雑把に3つ挙げてみる。
1.ネガティブな感情の浄化効果
不安や緊張に悩まされている人が、その原因となっている欲求や感情や衝動を、言語や行為を通じて解放させることー心理学用語でいうカタルシス(浄化)を求めて、瞑想をする。
2.客観視による気づき効果
瞑想をすることで、自分はこんなことを思っていたのかと客観視することができる。結果、自分の感情・思考と距離が生まれて、新しい見方・捉え方が生まれてくる余白ができる。この自覚ーメタ認知を求めて瞑想をする。
3.創造性を活性化する効果
瞑想を通して自分が思っていること、感じていることに焦点に当てることで、それまで感じなかった気持ちや、その深層にある理由を探っていくことができる。コーチングで「オートクライン=自己分泌」という言葉があるが、瞑想はまさしく、自分の内側から答を分泌する効果をもつ。
書くことを通して、人が瞑想に求める欲求をすべて満たすことができる。そう著者は説く。書く瞑想。自己分析ではなく瞑想という言葉が使われているのは、自己分析というと、どうしても「意識に顕在化している自分」を知っていくというニュアンスになるからだ。
「頭で思考する自己」だけではなく、現代人が普段の生活ではスルーしてしまっている「心で感情を感じる自己」「身体で感覚を感じる自己」を自覚することで、生の全体性を生き直すことー「自己分析」ではなく「自己感受」が目指されている。
さて、その具体的な方法は至ってシンプルだ。1日15分、ノートに手書きで(手書きすることで、手の運動性を通して無意識に通じやすくなる)「ログ(日記)」と「セルフトーク」を書く。それだけだ。具体的な事例を見てみよう。
1.「放電・充電ログ」で両面から網羅的に吐き出す
放電ログとは、「一日の中で、あなたの感情、気分、エネルギーを下げたものは何でしょうか?」という問いに対して思い浮かぶものをすべて網羅的に書き出していくことを指す。
事例を見てみよう。
感情エネルギーを奪ったという意味で「放電」ログというわけだが、じつはこのように書き出して整理するだけで自浄効果があり、ストレスが緩和していく。日々の不安、心配事、後悔、葛藤、自己嫌悪、怒りなどのネガティブな感情は、その個別の理由が自覚されていないと、ネガティブな感情同士でからみあって、特に理由の特定できないどんよりと暗い気分を醸成してしまう。
そして、放電ログを書いて、自分のエネルギーを奪っているものの正体がわかれば、具体的な対処が思いつき、そもそも放電の原因となっているものを潰していくこともできる。
次に充電ログだ。これは放電ログとは逆に「一日の中で、あなたの感情、気分、エネルギーを上げたものは何でしょうか?」という問いに答えるというものだ。
事例は以下のとおり。
充電ログを書くと、小さな達成感や感謝、学び、つながり、温かさなど、見過ごしていることを改めて味わうことができ、心の充足が得られる。
「放電・充電ログ」を通して、気持ちを下げるもの(放電)を減らし、上げるもの(充電)を増やしていくという、「自分のメンテナンス」「生活の向上」のための具体的な指針が立つ。この「できることを自覚している」という状態が自己効力感をもたらすことも見過ごせない。
そして、放電、充電、両面でログを取ることが大事なのだ。ポジティブなことばかりを意識しましょうといういわゆるポジティブシンキングのアプローチでは片手落ちである。人の「本音」や「気づき」の種は、むしろネガティブな感情のなかに潜んでいるのである。
2.セルフトークで思いつくままに書き出す
セルフトークとは、放電、充電ログをもとに、さらに自分の心を深堀りしていくためのものだ。
放電ログには不安、焦り、気がかり、モヤモヤ、恐怖、葛藤などの感情が書かれているだろう。セルフトークでは、放電ログのなかから、「今、何が一番嫌なのか、つらいのか?」と問いかけながら、心に浮かぶ言葉を文章で書いていく。この質問を発起点にして、つぶやくように、独り言(セルフトーク)を書いていく。
先ほどの放電ログからのセルフトークの事例。
この事例であれば、達成感がないという気持ちから始まっているが、忙殺の苦しさ、焦り、そして最後は何か決定的なものを忘れているのではないかという「漏れへの恐怖」が湧き出てきている。
これらの連想は、内省だけでは湧いてこないはずだ。書くことで、深い感情に気づけたのである。
ログは、心の表面で揺れ動く要因を可視化する。その可視化された要因をきっかけにして、セルフトークでより深いところにある感情を探っていく。
充電ログをもとにしたセルフトークでは、「今、一番良いと感じていることは何か?」を探っていく。
ここでは、忙殺される日常と焦りの中で、当たり前すぎてスルーされがちな人間関係に恵まれていること、志が同じ人間同士で働けていることへの感謝が、セルフトークによってより深く感じられている。
このセルフトークは、連想に任せて書くことがポイントだ。連想に任せて書くことで、「今の自分の心」につながることができる。
書き始める前に、一分ほど深呼吸して瞑想してから始めると、いいかもしれない。
連想は芋づる式に働く。深い感情を一つのテーマとして絞って、それについて連想を働かせると、スムースに言葉が出てくるだろう。
芋づる式に感情から感情を引き出して、深堀っていく。その事例をひとつ引いておく。
こうして書いていくと「ぼんやりした感情」が因数分解されていき、真因にたどり着くことができ、そうすると今何をやるべきか、何ができるかという対策も見えてくる。ここでは、ぼんやりした不安感情の震源地は、人生全般の「焦り」というより、「Aさんからの催促の恐れ」という具体的なところにあったのである。
さて、本書では、こうした「書く瞑想」ででてきた材料を、今度はいかに整理整頓して、自分の人生を前向きに生きていくかの具体的なメソッドが説かれている。
ただ、こうして「書く」だけでも、日々の不安を鎮め、自分の全体性を自覚して、前向きに日々を送っていくことには、絶大な効果をもたらすことだろう。
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