それは異常ではなく、やさしさだ ― 火10ドラマ『西園寺さんは家事をしない』
TBS 火曜よる10時に放送されているドラマ『西園寺さんは家事をしない』がおもしろい。
家事をしない独身女性と、年下イケメンシングルファザーとのハチャメチャラブコメ。そうなんだけど、そうでもない。ハチャメチャな設定ではあるけれど、それだけではない。
第2話にして、このドラマについて語りたい欲があふれてしまっているので、感想を記します。
昨日放送された第2話までのネタバレを含みますので、まだの方はTVerで観てから読みに来ていただけると嬉しいです!(いまなら第1話と第2話が配信されているから、まだ間に合います!ぜひとも観てほしい……!)
『西園寺さんは家事をしない』
「やりたいことをやる、やりたくないことはやらない」という主義をもった、松本若菜さん演じる家事をしない西園寺さんという女性が、松村北斗さん演じる年下シングルファザーの楠見くんとその娘ルカちゃんと3人(+1わんこ)で「偽家族」として暮らしていくことになる、ハートフルラブコメディ。
第1話では、アメリカから帰国早々、火事で家を失った楠見くん親子が同僚である西園寺さんに助けられ、西園寺邸の賃貸物件に住み、一つ屋根の下での借りぐらしを始めるまでが描かれた。
そして昨日の第2話では、借りぐらしを継続しつつ、怒涛の展開で「偽家族」になることを決めるまでが描かれた。
「ハートフルラブコメディ」だけど、涙の説得力がすごい
このドラマのなにがすごいって、それは涙の説得力だと思う。
「ハートフルラブコメディ」だけど、登場人物がそれぞれ抱えている問題がしっかり描写されている。それはこのドラマのなかだけでなく、現実社会でも確実にだれかが抱えている問題、だと思う。
オフィスや西園寺邸のおしゃれさ、西園寺さんの華やかなオフィスコーデやシルバニアルームなどのキラキラキュートさで中和されているけれど、西園寺さんの抱える家族との確執や、楠見くんの置かれている状況は、けっこうしんどい。
それぞれの問題を抱えた西園寺さんと楠見くんは、おたがいの存在によって、こらえていた涙をこぼしてしまう。
第1話で堰を切ったように涙をこぼした楠見くんの泣きのシーン、第2話で楠見くんが作ってくれたしおしお野菜のスープを飲んだ西園寺さんの泣きのシーン。涙の説得力がすごい、と思った。
急に涙を流すのだけれど、観ていておどろくことはない。「え、泣いてる?」とか「どうした?」とかまったく思わないのである。
「涙があふれるほどのしんどさ」とか「ほっとしてこぼれてしまった涙」とか、涙の理由とこぼれてしまったきっかけ、その涙に込められた想いがしっかり描かれて、理解できているからだと思う。
楠見くんに西園寺さんがいてくれてよかった、西園寺さんに楠見くんがいてくれてよかった、とあたたかな気持ちになれる。このドラマは涙のシーンがとてもいい。
西園寺さんと楠見くんは「異常者」なのか
西園寺さんと楠見くんは、お互いのことを「変だ」「異常だ」と言い合う。
たしかに西園寺さんは、ただの同僚を勢いで家に住まわせたり、洗濯機を毎日貸してあげたり、それなのに見返りを求めない。異常、なのかもしれない。
楠見くんにおいても、西園寺さんへの気遣いに対する過剰な遠慮とか、人の心が分かりそうな素振りを見せておきながら、西園寺さんが涙を流して見せた心の変化を気付いていない、という絶妙に奇妙な感性を持っている。たしかに異常、なのかもしれない。
それでも、このドラマを観ていて、西園寺さんと楠見くんのことを「異常者」とは思えない。どこまで自分以外の人のことを思いやるんだ、どうしてそんなにやさしいんだ、と、とてつもないやさしさを感じてしまうのだ。
ふたりの行動の根底にはいつも、自分以外のひとへのやさしさがある。
西園寺さんが楠見くんを家に住まわせたのは、壊れかけている楠見くんの潜在的なSOSを見逃さなかったからだし(家事に忙殺されて家を出た母と重ね合わせていたということもある)、楠見くんが仕事も家事も完璧にこなしたい、と行動がおかしくなるほどがんばりすぎてしまうのは、もちろん娘のためでもありつつ、ともに生きた大切な亡き妻への想いがある。そして、自分たちを助けてくれた西園寺さんへの感謝と、生活を邪魔してはいけないという気遣いで、さらにいっぱいいっぱいになっている。
ふたりとも、やさしさを配り合っている。これを異常とは思えない。たしかにちょっと変ではあるけれど。ちょっと変な、やさしい人たちの物語だと思う。
「偽家族」の提案の突拍子のなさのなさ
第2話のラストで、西園寺さんと楠見くんはこれからの生活のことを考える。
家族じゃないから甘えられず、気疲れする。そして問題が起きる。じゃあ離れるしかないのか……と考えていたところで、西園寺さんはひらめく。
「家族になればいいじゃん」と突拍子もないことを提案して、前例のない「偽家族」という関係に向けて物語が動いた。
ドラマのあらすじで「偽家族」になる物語だと書かれているから、この方向になるのは分かっていた。突拍子もなく「偽家族になろう!」と言って、トンデモラブコメ展開になっていくのだろう、と思っていた。
けれど、第2話までしっかり観ていると、西園寺さんのこの「家族になればいいじゃん」発言に突拍子のなさを感じないのだ。だってもう、西園寺さんがひらめく前に、「そんな悩まなくても、家族になればいいんじゃない?」と、わたし自身がぶつぶつテレビに向かって提案してしまっていたから。
第1話において、シングルファザーの抱える苦しさ、妻を失った悲しみに向き合う時間もないほど自分を追い込んでいたことについて、しっかりと描かれている。西園寺さんがとにかく家事をしたくない、その理由も。
そして第2話では、「家族じゃないのに」と言って遠慮している楠見くんに対する西園寺さんの漠然としたモヤモヤ、気遣いを永遠に返しあうことへの言葉にできないモヤモヤが事細かに描写されていた。いち視聴者のわたしも、モヤっとした気持ちが積み重なっていた。
「家族じゃないのに」というキーワードと、西園寺さんのモヤモヤ顔、これによって、西園寺さんの「家族になればいいじゃん」発言に激しく同意してしまった。突拍子もない発言のはずなのに、妙に納得してしまったのである。突拍子のないことのない、モヤモヤの伏線回収だった。
もちろん、西園寺さんが困っている年下シングルファザーになら、だれにでもそういったことを言うわけではないことも分かっている。西園寺さんと楠見くんの、お互いが唯一無二の存在である、ということも丁寧に描かれているからこその納得感だった。
主人公が西園寺さんであるからこそのおもしろさ
年下シングルファザーと「偽家族」になる「ハートフルラブコメディ」という設定だけを聞いたときは、ここまでこのドラマを好きになるとは思っていなかった。
突拍子もない展開で、まったく感情移入はできないけど胸キュンできるトンデモラブコメになる可能性がめちゃくちゃ高そうだったから……(トンデモラブコメはそれはそれでおもしろい。ツッコミ入れながら観ちゃうラブコメも大好きだ)
『西園寺さんは家事をしない』は、主人公が西園寺さんだからこそ、こんなに胸を熱くできるドラマなのかも、と思うのだ。
西園寺さんは家事をしないけれど、社会で必死にもがいて、自分だけの居場所を自分で作って、楽しんで生きている。がんばりすぎて壊れそうな楠見くんに、まっすぐな言葉を投げかける。けれど、ただの強くて明るい女性ではなくて、楠見くんの作ったやさしいスープに涙を流すこともある。
楠見くん親子に寄り添ってくれるのが西園寺さんでよかった、と思う。この物語の主人公が西園寺さんという女性でよかった、と思う。
「偽家族」がどんなかたちになっていくのか、前例のないやり方でどんな風により幸せになっていくのか、とっても楽しみだ。まだまだこの夏、楽しみが何週も続くのが嬉しい。
ドラマが終わったら原作マンガも読みたい。マンガを手に取るのはひさしぶりだ。ドラマがおもしろいと、楽しみがひろがっていくからありがたい。
最後までお読みいただきありがとうございます!