読書記録

その向こう側/野中柊 著

母が長年恋人であった人と再婚する。それをきっかけに家を出て洋館で暮らし始める鈴子。恋人もいるのに何故か失恋をしたような痛みが広がる。そんな中、洋館のオーナーと母の恋人の関係に胸騒ぎを覚える。その一線の向こうに少し夢を見ながらも揺れ動く心をさらりと描いた一冊。

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ここからは個人的な独断と偏見の感想です。(ネタバレも含みます)
全体的な雰囲気というか空気は、ドロドロしたものがなく読みやすい。ですが、鈴子(主人公の大学生)の母は略奪愛での再婚。鈴子は彼氏がいるけど義父に心揺れていて(恋なのだろうけれど、ファザコンチックなものも含まれているように思う)、しっかり者の親友は、思いもかけず妊娠する。そして義父になる男はというと、洋館のオーナーとただならぬ関係に、、、という、ちょっと紐解けば、結構ドロドロになりそうな設定ですが、焦点は鈴子の揺れ動く微妙な女心であるので、回りの雑音的な設定はさらりと流している。

鈴子が義父に惹かれるのは、ちょっとした憧れのようなものも混じっているのだろうなと思う。オーナーと義父の関係に嫉妬し、一線の向こうを想像するのも「大人」への憧れに近いのかなと。それに母の大事な人を取られまいとする母への思い。

女心は複雑ななのよ、とどこからか聞こえてきそうだが、大人になりきれない、でも少女でもないという微妙な年齢の心の揺れを描いた一冊だと思う。

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