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詩集「声を聞かせて」

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あなたの声をきかせて。 そしてこっそり私の声をきいて。
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2019年1月の記事一覧

遠い人

横顔も
声も
約束も
温もりも
何もかも忘れてしまった

思い出すらも残らずに
もう
遠い人

すれ違ったままの遠い人

今が過ぎ去る

ほら、今が過ぎ去ってしまった
指先はまだ君に触れられるけれど
もう何も変わらない

引き返せない日々
遠ざかるばかりの横顔

ふたりなのに悲しい
ひとりだから寂しい
選んだ決断はきっと正しい

さよなら、今
さよなら、交わした約束
さよなら、君

さようなら

森の深いところ

夜が深くなった頃
あなたの名前など
もう
どこか遠くに忘れて
透明なさよならが
どこかで静かに消えた

風が鳴く
森の深いところで

雨が叩く
森の一番やわらかい場所を

夜の音

寝静まった町の音
誰かの寝息
街灯にした
月明かりの帰り道

明るすぎる夜を
両手で包んで
明日の憂鬱を消した

夜の音
夜の色

また明日
また、明日

明日が、くる

誰のものにもなりたくないと
どこかへ行きたいと
そう願った彼女は
孤高の花のようで

凛とした横顔
風と季節を
指先で描く

何にもとらわれることなく
見つめた明日が、くる

青が痛い

どうしてばかりを繰り返して
本当の事なんて
見ようともしなかった

行き場を見失った感情が
千々に乱れて、泣く
戻れないと知っているから
泣きじゃくる

ずるかったのは私

空の青の眩しさが痛い

上手く言えずに

言えない言葉だけ増えていく、わたし
言わない言葉だけ増えていく、あなた

見失った昨日
他人顔みたいな今日
風にさらわれた明日

さよならさえも
上手く言えずに
後悔だけが
悲しそうに笑う

小さな夜

理由なんてない、と言ったけれど
本当は
たぶんきっと
泣く理由はあって
ただそれを
上手に言えないだけ

寄り添うだけの体温は
優しいけれど
少し冷たい

今日も
指先の小さな夜を
抱きしめて眠るのです

いつだって遠い

置き去りにした涙
忘れたふりをした強がり
何もかも隠したまま
願いだけ必死に飛ばして
眠るのを拒否した

いつだって
その優しさまでが、遠い

もう、震えない

凛とした夜の冷たさ
凍えそうな指先
白い息で
風の行方だけを知ろうとした
一人きりの憂鬱

思い出すだけの声は
もう
震えない

もう、もう

私たちは

歩く
歩く
弱さを知りながら
強さを知りながら

人知れず泣く
優しさに泣く
悔しさに泣く
泣く

彼らはどこで出会うだろう
私たちはどこで出会うだろう

歩く、笑って
進む、泣きながら

泣かない方法

冬風が連れてきた雨は
冷たく冷たく
胸に染みます

泣かない方法は
上を向くことでもなく
唇を噛んで我慢することでもなく
たった一度
泣いてしまうこと

冷たいままで
泣いてしまうこと