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恋の行方ⅩⅩ


ジョシュア、エマって娘、憶えてる?
ああ、あの、こまっしゃくれた子か。
・・・そんな感じね。
悪気は無いよ。
この前、南野警察署でゴネたそうなの。
やれやれ・・・。
刑事さんに、シシクラ先生としか話さないって言い張って。
それで通したのか?
そのようですね。
(チャイムが鳴り、櫂が出る。)
櫂先生、トニックウオーターみたいにシュワシュワさせて。
どういうこと?
櫂、誰?
エマさんです。
こんな時間に・・・おい、子供がうろつく時間じゃないぞ。
今夜、泊めて。
そうだな、俺を納得させる理由があれば、考えなくもないが。
光の柱の謎を、一緒に探求しよう。
まあ、入りなさい。
(居間のテーブルに着く。)
エマさん、何をしたいの?
レボルーション・・・。
今の社会では出来ません。
櫂先生、私は解っています。現実の社会では出来なくても、心の社会では出来るかもしれません。
心の社会って、そんな社会があるの?
ありますよ。心は、もう一つの現実です。
そうかなあ。(ジョシュアが口を挟む。)
ジョシュア、私、あなたを好きなっても良い?
それはマズい。俺が好きなのは櫂だから。(厄介な娘だな。)
私ね、子供の頃に男子を誘った事があるの。ここに来てって言って、待っていたんだけど、来なかった。ママに聞かれたけど、秘密ですって答えた。振られたことはシークレット、その方が良いでしょ。
エマさん、お父様かお母様に連絡しなさい。私達が、あなたを送ります。
はい・・・先生、怖いです。怒っているの?
少しはね。
櫂先生、私はあなたの従順なだけの生徒ではありません。
そうですか。私に反抗するの?
必要な時には、そうします。


(櫂の運転でエマを送る。ジョシュアに話しかけるエマ。)
ジョシュア、お酒が好き?
まあ、好きというのか、よく飲むのは確かだ。
アルコール依存症ですか?
どうかな。
アルコールの過剰摂取には害があるそうですよ。
・・・参考にしよう。
私ね、酒飲みの言うことは信じないことにしてるの。
エマ、言葉が過ぎるわ。
すみません。櫂先生。


ジョシュア、私の超能力、知ってる?
知らんよ。
知りたいですか?
そうだね、それが本当のことなら。
証明する事ができるわ。私は交通手段を利用しなくても、移動することができるの。
どうやって?
例えばね、学校に行く時、自転車で行かなくても、行くことができる。
歩いてか?
違いますよ。私は空間を移動することが出来るの。
ハハハ、それは便利だ。
信じていませんね。
俄には信じられないな。
無理もないわ。あなたの想像力不足ですね。
心外だ・・・。


おい、エダマメ・・・。(エマに声をかけるカナデ。)
何よ。
おまえさあ、自転車通学じゃないよな。徒歩で来れる距離じゃねえし、どうやって来てるんだ?
空間移動で。
なんだ、それ・・・自力でか?
まあ、自力と言えば自力だね。
空を飛ぶのか?
鳥の飛翔とは違う。移動するの。上下左右、自在にね。
あの事件がきっかけか?
・・・帰ってから、ずっと耳鳴りが続いていたの。夏休みになってからも続いていた。そして、ある夜、啓示を受けたの。
で、空間を移動出来るようになったのか?
はい。このことを知っているのは、家族と、ごく親しい人だけだから、誰にも言わないでね。
うん。


エマ・・・。
はい、お母さん。
少し話せる?
はい、何でしょうか。
最近、ちょっと心配しているの。
私のことですか?
そうです。
ちゃんと学校にも行ってるし、やるべき事はしています。
解っていますよ。・・・私に、隠し事をしてない?
隠し事って、カナデ君の事?
ボーイフレンドなの?
はい。
どんな子?
背が高くて、大柄で気が優しいの。・・・私には威張るけど、気が弱い。
それは、彼の欠点?
いいえ、そうは思わない。目立つタイプじゃないけど、成績も良いしね。
その子のことが好きなの?
そんなんじゃないよ。
・・・エマ、あの事、彼に話したの?
はい。
トラブルにならない?
口止めしたから、大丈夫だと思います。
信頼しているの?
はい。
だったら、そういうお友達は大切にしないとね。
・・・はい・・・。


エマ、私達のことをどう思っていますか?
私達?
お父さんとお母さんのことです。
特に、考えはありませんが・・・。
そうなの?
特に・・・考えた事はないということです。他意はありません。
お父さんと私は、あなた方のことを思っています。お兄ちゃんとエマのことを。
だから?
エマ・・・。
お母さん、私、良い娘じゃないね。
解っていますよ。
・・・これからは、良い娘になるよう努力するわ。
ヤメておきなさい。それは、努力してなるものじゃないから。
じゃあ、どうすれば良いの?
・・・私達を嫌いにならないで。
お母さん、何を恐れているの?
心が離れることを恐れているのかもしれません・・・。
親子の心が離れる事はないと思いますが。
そうだと良いわねえ。
お母さん、どれだけ思いを寄せれば良いですか?限りなくですか?それは、無理だと思います。
・・・・・・。
お母さん?
私、そんなことを望んではいけない?
いいえ・・・でも、私に期待しないで・・・私は、期待に応えられる娘じゃない。


(学校の自転車置き場で。)
カナデ・・・。
・・・どうした?元気がないみたいだ。
昨夜、お母さんとちょっとね。
親子ゲンカか?
意地張っちゃった。
良くないな。
私、性格に難があるから・・・。
ハハハ、自分で言うな。子供は誰でも、性格に難があるのさ。
あんたも?
うん、俺もおまえもだよ。
・・・カナデは、お母さんとうまくいってる?
どうかな、そこそこだと思うけど。
どうすれば、そう出来るの?
俺のママは怒ると怖いからね。なるべく刺激しないようにしているよ。
自分を主張しないの?
おまえの言う自分て、何なんだ?
・・・さあ、良くわからない。
ふ〜ん、わかるかわからない自我にしがみついて、親に反発するのか?
そんなつもりは・・・。
俺ならしないよ。
・・・・・・。
俺、そろそろ帰らないと。
ああ、悪かったね、引き止めて。
気にするな、俺達、友達だろ?・・・それとも、おまえは特別か?
・・・いいえ。あんた優しいんだね。
エマ、俺は普通だよ。


(日曜日、ジョシュアの部屋を掃除する櫂。ジョシュアは自室でPC、タブレットを操作しながら喫煙。)
ねえジョシュア、掃除終わったよ。コーヒー、紅茶?
ミルクたっぷり砂糖少々のミルクティーで。
はい。私も付き合うね。
(居間のテーブルで、キッチンの櫂を目で追うジョシュア。無表情だ。)
どうぞ・・・。
ありがと。
(ジョシュアの表情を窺う櫂。)
どうしたの?
・・・俺、おまえの好意に甘えてるよな。
らしくないですよ。
櫂、宿命ってあるかな?
私たちの関係のことですか?
いや、そう言う訳でもないんだが・・・。
概念としては、あるでしょうね。不可避な、避けることが出来ない未来かな。
そうか。
例えばね、一般的な話では、フランス革命や産業革命が時代の宿命だと言われます。
ふ〜ん。
社会制度や生産手段の不可逆的な変化、それが圧倒的だから不可避な事だと思えるの。だから、時代の宿命。
そう言えばそうかな・・・。
日本なら、明治維新と大東亜戦争の終戦でしょう。
・・・・・・。


ジョシュア、今日のお昼、外で食べない?
良いよ。少々高くてもかまわない。
いいえ、贅沢は敵ですからね。さして豊かでもない私達の、いつも通りでお願いします。
うん・・・。
(ジョシュアの部屋を出て、歩き始める。)
櫂先生・・・。
あら、エマさん。デイトですか?
はい。同級生のカナデです。
カナデさん、初めまして。
はい。エマから、先生のことは聞いています。
そうですか。悪い話じゃないと良いですね。
良い先生だと・・・。
エマさん、どこへ行くの?
お昼時なんだけど、お小遣いが足りなそうで、コンビニの菓子パンを買おうかとしていました。
ハハハ、そうか。なら、俺たちと一緒に食おうか、奢るよ。
嬉しいわ、ジョシュア。
カナデ君、どうかな?
ありがとうございます。


(ファミレスの席で、メニューを見る4人。ジョシュアと櫂は、すぐにオーダーを決める。)
櫂、俺、少し飲もうかな。
良いですよ。あなたの払いだから。
ああ・・・。
(エマとカナデが顔を寄せて、メニューを見ている。)
ジョシュア、ドリンクバーとデザートも有り?
そうだな、良いよ。
(カナデが肘でエマを突く。【エマ、少しは遠慮しろよ。良いのよ。ジョシュア、お金持ちだから。・・・でもなあ。】)
で、決まったのか?
ええ、同じ物を食べるわ。
あなた達、仲が良いのね。エマさん。
櫂先生、私達、付き合ってる訳じゃないから。カナデ、気が弱いし。
カナデさん、そうなの?
いいえ、エマは思い違いをしています。父を嘲り、母への従順を蔑んでは、いけないそうですから・・・そう見えるのでしょう。だけど、俺、弱気なだけじゃないんで。
(表情の乏しいカナデを見るジョシュアとエマ。二人とも無言だ。櫂は、同じく無言で横を向いている。)

  令和6年3月28日

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