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恋の行方ⅩⅦ


(土曜日、食堂の片隅、櫂とエコー。)
エコー、Dランクだってね?
ええ、4月からになりそう。
待ち遠しい?
そうでもない・・・取り消しはないでしょうから。
デビッドもDランクに上がるわね。
そう、彼はD3組、私は1組だから、彼の方が上だわ。
ジョニーが午後に行くそうね。
はい、お兄ちゃん鈍感なところがあるから、向いているかもしれません。
鈍感な方が良いの?
そういう意味じゃない。ジョシュアは鈍感じゃないでしょ?
どうかなあ・・・そう思うこともあるけど。
ジョシュアは解っているんだよ。心の中には、動かさないほうが良い感情があるって。・・・まあ、お兄ちゃん、午後に行きたがっていたから・・・。
夢が叶ったのね。
櫂ちゃん、夢や希望は絵空事ではありません。そのために人は血と汗を注ぐ。
命をかけるってこと?
夢や希望は薔薇色の展望ではありません。茨の道だわ。
・・・・・・。
もし神様が居るとしたら、あなたは神様に愛される側の人・・・私は試される側に居る。
エコー・・・自信たっぷり?
いいえ、そんなつもりはありません。


櫂ちゃん、ジョシュアとセックスする?
付き合っているからね。興味あるの?
そうでもない。・・・どうなのかなと思って。
私たちは成人だからね。あなたとデビッドとは違う。
どう違うの?
4月になれば、私たちは大学を卒業し社会人になる。あなた方は未成年でしょ?お酒も飲めないし、タバコも吸えない。
櫂ちゃん、タバコ吸うの?
いいえ、吸ったことはあるけど、咽せただけ。お酒は飲みます。
美味しいの?
ジョシュアと二人で飲むお酒はね。成人の権利です。
狡いよ。
エコー、ルールよ。私たちが守らなければならないルールだわ。
・・・反論はしません。議論しても、あなたには勝てそうにない。
お利口さんね。
・・・子供扱いですか?
そんなつもりはありませんよ。そろそろバスの時間じゃない?今日もデイブと一緒に帰るの?
・・・はい。
仲が良いのね。
そこそこ、それなりにでしょうか・・・。
ちょうど良いんじゃない?
あなたに言われたくありません。
そう・・・なら、忘れて・・・。


(櫂と別れバス停に向かう。デビッドがベンチの側で、背を向けて立ち、風に揺れる木の梢を見上げている。)
デビッド・・・?
ああ、エコー。
食堂に来なかったね。
僕、居たよ。ジョニーと一緒だった。気づかなかったのかい?
声をかけてくれれば良いのに。
なんか、櫂と話し込んでいるようだったから、遠慮した。
ちょっと言い合いをしちゃった。私の悪い癖だね。
少しは自覚しなさいな。櫂は僕達よりだいぶ年上だ。年長者はリスペクトすべきだよ。
はい。


(建物の入り口近く、自販機の側で櫂を待つジョシュア。櫂が来て、ジョシュアの車で帰る。)
夕食、どうしようか?
・・・チキンスープを作るわ。
チキンスープ?
そう・・・。昨日ね、一緒にスーパーへ行ったでしょ。食材を買っておいたの。あなたの食生活もチェックしたわ。キッチン周りを見たら、インスタントラーメン、焼きそば、チンするご飯、レトルトカレー。ペットボトルのウヰスキー、紙パックの焼酎。冷蔵庫を見たら、ビール、ミルク、ヨーグルト・・・あと、期限切れのレタスとトマト、皮が黒くなったバナナ・・・。
う〜ん、そうかもしれん。
好ましいとは言えません。
そうかなあ。


(ジョシュアの部屋に着く。キッチンに立つ櫂。ジョシュアはテーブルで缶ビールのタブを開ける。)
櫂、昨日、泊まれば良かったのに。
うん・・・私にも事情があるから。好きなようにすれば良いってもんじゃないのよ。一人で生きてるわけじゃないからね。


今日のお昼ね、エコーと一緒だった。・・・生意気な子だわ。
おいおい・・・。
心配しないで、喧嘩したわけじゃないから。
(日暮時前に風が強くなる。)
櫂・・・。
何ですか?
エコーは悪い娘ではないよ。
解っています。・・・エコーとデビッド、4月からDランクですって。
へ〜え、案外早いな。
ジョニーはCランク。
俺、追い付かれるのかな?
そうかも知れませんね。
俺、就職を控えているからなあ。
ドリーム保全センター?
うん、俺の夢と希望だよ。
あなたの夢と希望?
まあ、そういうことだよ。


そう言えばさあ、エム爺さん、自宅で昏倒したらしい。
危ないね。
うん、つい飲み過ぎて腰が抜けたんだって。それで、頭にコブと切り傷を作ったようだ。
無事で良かった・・・。
まあ、無事とは言えないが、生きてる。・・・老人は回復に時間がかかるからなあ。初めてじゃないらしいぜ。
笑い事じゃないわね。
老人には、危険がいっぱいだ。特に独居なら・・・。
そんなに飲まなければ良いのに。
言うのは簡単さ。(ジョシュアが顔を曇らせる。)・・・口では何とでも言える。タバコを吸うな、酒を飲むな、正論だ。じゃあ、何をすれば良いのかな?ジョブレス、伴侶も居ない、朝起きてもやることがない。体も次第に衰える。空虚な余生じゃないか。
・・・・・・。
櫂、老境を迎えた人に、哀れみを乞うような真似をさせてはいけない。それは、辛いことだからね。
・・・はい。


(後日のバトル・フィールドで顔をあわせるジョシュアとエコー。)
ジョシュア・・・こんにちわ。
ああ、エコー。櫂の話し相手になってくれたんだってな。
・・・はい、櫂さん、何か言ってましたか?
うん、君との会話はとても刺激的だって言ってたよ。どんな話をしたのか、俺にも教えて欲しいね。
はい。
見た目がそれほどでもないから、人格を磨くそうだね?
えっ?
誰に褒められなくても生きていけるように。
それ・・・私じゃありません。
ハハハ、そうか。俺の勘違いか。多分、君に似た誰かだったのだろう。人の記憶は曖昧だし・・・自分の都合で書き換える。
・・・そうかも知れません。
じゃあな、君と話せて良かったよ。
私もです。

   令和6年2月16日

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