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掌編小説-演奏会

そこは、毎週、舞踏会でも開かれるような、豪華で大きなお屋敷。

4歳の私は、なぜだか少し歳の離れた姉と2人きり、そこにいた。

私は深い緑のふわふわとしたチュールドレスを、そして姉は滑らかなシルクの白いドレスを身に纏っていた。

私は姉の後を追いながらも、たくさんの階段や扉に興味津々。
あちらこちらと行こうとするのを、姉は優しく言い聞かせてくれた。


そこにある階段はどれも、その時の私の体では、少々、大きすぎた。
滞りなく進んでいく姉に対して、私は一息ずつしか、進んでいくことができず、姉が振り返る時には、私は十数段も下にいた。

低いとこからみた姉は、まるでこの世のものじゃなく、空から舞い降りてきた天使のようだったが、いつも以上に顔色は悪く、青白かった。

「お姉ちゃん、ここで待ってるから」そう優しく眉を上げる姉の姿を捉えながら、私は一段一段、階段を進んだ。

全て登り切ると、やはり、たくさんの扉があって、その中の、一つの扉が解放されていた。そして、そこからだろうか、何か美しい音色が聞こえてきた。

姉はその扉を覗いた。真似するように私もその扉を覗くと、そこでは小さな演奏会が開かれているようだった。弦楽器を持った男が、ソファーに座って、その周りの数十人の人に向かって、何か話しながら楽器を弾いていた。

私たちは吸い込まれるように、その輪の中へ入った。周りは背の高い大人たちばかりなのに、誰も私たちに違和感を抱かなかい、姉が年齢よりもずいぶん大人に見えるせいなのか、思ったより、すんなり受け入れられ、私たちは男の演奏を聞くことができた。

その音色は、


「君、具合が悪そうだ。
もしかして、私の演奏を聞いて
具合が悪くなったとでもいうんじゃないかね。」

突然、楽器を弾いた男は姉の青白い顔を見て言った。

その瞬間、その空間は一瞬にして凍りついたみたいに、私にはとても冷たい世界のように感じた。

姉は弁解しようとしたのだろうか。しかし、氷でできたたくさんの棘の視線に突き刺され、口からは、言葉とは言えないような、音が漏れるばかりだった。


結局、私たちはあっさりとその輪の中から外された。
紺色の服を着た人たちが私たちを扉の外へ連れて行った。

扉の向こう側には、
再び賑やかさを取り戻した人々の声が聞こえる。


それから、姉はどこまでも青白い顔をしたままだった。

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