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はじめての労務業務「定時決定(算定基礎届)」編

※この記事は、2022年に別の機会で公開した内容を再編集して公開しています。

こんにちは。6月給与が確定した後はいよいよ定時決定シーズンが始まりますね。
今回は「定時決定」の実務についてとりあげたいと思います。「定時決定の実務をはじめてやるけれど何をやればいいか全くわからない」方や「実務をする予定はないけれど定時決定に興味がある」という方に読んでいただければ幸いです。

ご注意
この記事は「定時決定の全体の流れをざっくり・なんとなく理解できるようにする」目的で作成しました。細かい実務の手順については記載していません。また、本文中の文言については法律上の正確さを保証していません。
定時決定の正式な手順や決まりについては、日本年金機構のWEBページをご参照ください

そもそも「定時決定」ってなあに?

健康保険・厚生年金保険の被保険者および70歳以上被用者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、事業主は、7月1日現在で使用している全被保険者の3カ月間(4月、5月、6月)の報酬月額を算定基礎届により届出し、厚生労働大臣はこの届出内容に基づき、毎年1回標準報酬月額を決定し直します。これを定時決定といいます。
決定し直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。

日本年金機構

「定時決定」とは、社会保険(健康保険・厚生年金保)の保険料の算出のベースとなる金額(標準報酬月額)を見直す手続きです。
会社は、毎年7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は翌営業日)に「算定基礎届」という書類を提出し、その内容を元に厚生労働大臣が標準報酬月額を決定します。

※イラスト内の「報酬ランク」の正式名称は「標準報酬月額」です。

実務の流れ

1)郵便で書類を受け取る

年度更新の時期が近づくと会社宛てに年度更新の案内が届きます。
電子申請をする場合でも、書類は捨てずに保管しましょう。記載されている情報を確認する場合があります。

※ここまで年度更新と同じ。

2)4月~6月の給与の平均額を算出する

定時決定は、4月~6月に支払われた給与(報酬)の平均額に基づき行われます。
基本的には、3ヶ月分の給与と手当を足して3で割って平均額を算出しますが、給与が支払われる日(社会保険では「支払基礎日数」と呼びます)が少ない月を除くなどの一定の条件があります。

※計算方法の詳細については、「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」や「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」をご参照ください。

4月~6月に支払われた給与の平均を算出する
支払基礎日数が不足している月は計算から除く

※欠勤日数分だけ給与が減額される場合は、所定労働日数から欠勤日数を差し引いた日数が支払基礎日数となります。

平均額の算出に含める給与(報酬)とは?

以下の通り、給与明細に記載される金銭等はそのほとんどが計算の対象となります。

算定基礎届の記入・提出ガイドブックより

3)社会保険加入者全員について同様に平均額を算出する

社会保険加入者全員分について、同様に平均額を算出します。

※パートタイマー等の短時間就労者や特定適用事業所に勤務する短時間労働者は、平均額算出の対象となる支払基礎日数がフルタイムの従業員と異なります。
詳細は、日本年金機構のWEBページをご参照ください(5、6が該当項目です)

4)「算定基礎届」に必要事項を記載し、提出する

計算結果を「算定基礎届」に転記し、事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。電子申請での提出も可能です。

日数、金額、3ヶ月の総計、3ヶ月の平均額を記載する(紙の場合)

5)「標準報酬決定通知書」を受け取る

手続きが完了すると従業員の新しい標準報酬月額(保険料の算出のベースとなる金額)が記載された「標準報酬決定通知書」が会社宛てに郵送されます電子申請をした場合は、電子申請アプリケーション等からダウンロードします。※名前にシステムで利用できない漢字が使われている場合など、一部紙で郵送される場合があります。

6)改定後の保険料を給与控除に反映する

定時決定で決定された報酬月額に基づく保険料は「9月分」から適用されます。9月分の保険料を徴収するタイミング(翌月徴収であれば10月、当月徴収であれば9月)で、給与計算に反映させましょう。

よくあるミス

欠勤者の支払基礎日数を歴日数から引いて算出した

欠勤日数分だけ給与が減額される場合は、「所定労働日数」から欠勤日数を差し引いた日数が支払基礎日数となります。

月途中の入社者で日割りがあった月の給与を含めて平均額を算出した

入社月の給与が満額でない場合は、支払基礎日数が17日以上あってもその月を除いて計算します。

短時間就労者や短時間勤務者を通常の労働者として記載した

パートタイマー等の短時間就労者や特定適用事業所に勤務する短時間労働者は、平均額計算の対象となる支払基礎日数が通常の従業員と異なります。平均額の計算の際に注意するとともに算定基礎届の備考欄への記載を忘れないようにしましょう。

備考欄の選択肢。該当するものに○をつける(紙の場合)

給与の遅配があったが、遅配分を含めて平均額を計算した

遅配等で定時決定の対象ではない月(4月~6月以外)の給与が支払われている場合は該当分を除いて平均額を算出します。
また、遅配のため満額給与が支払われていない月があるときは、平均額の計算から除きます。

事前にやっておくといいかも?

定時決定周りのミスは、特殊な対応をしなければいけないパターンについて対応が漏れている場合に起こることがほとんどです。事前に特殊な対応が必要な従業員をリストアップしておくことで、チェック漏れを防ぐことができるかもしれません。
(給与や人事管理システムから要チェック対象リストが出せたら嬉しいな~と思っていたりします)

チェック対象はこんな人

算定基礎届の提出が不要

  • 6月1日以降の入社者

  • 6月30日以前の退職者

  • 随時改定の対象となる人

支払基礎日数・平均額の確認が必要

  • 4月~6月の給与計算期間中に休業・欠勤している人

  • 日割り計算のある入社者

  • パートタイマー等の短時間就労者や特定適用事業所に勤務する短時間労働者 

  • 数カ月分の交通費の支払いがあった人※1ヶ月あたりの金額を算出する必要あり

  • 報酬にあたらない手当等がある人(出張旅費を給与払いしている場合など)※平均額に含めないよう注意する必要あり

  • 給与の遡及払いをした人、遡って降給があった人

  • 複数の会社で社会保険に加入している人(二以上事業所勤務)
    等々

以上、ざっくりと定時決定の流れでした。
定時決定の業務は、ひたすらチェックする以外のよりスマートな方法がなかなかないと感じています。効率化するためのベストプラクティスがあれば是非伺いたいです。

次回は「勤怠システムはなぜ使いづらいのか」について書きたいと思います。それでは!


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