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日常に、ささやかな登場人物がいること

今年のドラマ生活はおっさんずラブから始まった。春田と牧と部長にまた会えるという喜びを噛み締めていたが終盤はもう完全に新キャラの和泉さんと菊様の恋模様に心を持っていかれた。あんなドイケメンのおじ様がドイケメンの秋斗を想い続け、そんな彼をドイケメンの菊様が支えている。切ない菊様の片思いの年数は軽く10年以上という。そしてそのドイケメン達は皆公安なのだ。もうやっちゃってますって。完全に私は沼から出られなくなってしまった。

そんなこんなでおっさん達に心を囚われたままの日常を過ごしていた私は、ある日曜日の昼下がり、家から徒歩3分のドラッグストアに入るとびっくらたまげた状況に遭遇する。
いつものようにいらっしゃいませと迎えてくれるレジの店員さんを心苦しくもスルーし(オフすっぴんダラダラ人見知りモードが恥ずかしくて人の顔を見られない。自意識過剰にも程がある)、必要なものを買って再びレジに向かうと、そこには限りなく三浦翔平に似た若者が立っていた。え、三浦翔平?マスクをしているが眉毛と目は95%三浦翔平である。いや、本人ではないのは分かっている。こんな田舎でモニタリングじゃあるまいし。でも、こんな田舎に眉毛と目だけでそれほどに整った青年がいることはほぼ奇跡ではなかろうか。見たことないぞ。ワシはここに四半世紀住んでいるがこやつの顔は知らねぇ。最近引っ越してきたのか?頭の中で独り言がやまないまま、そしてその三浦青年とは一度も目を合わせないまま、私は支払いを終えてお店を出た。
脳内の独り言は帰り道も続いた。おっさんずラブに囚われすぎていて誰もがおラブの俳優に見える病にでもかかっているのか。重症だ。いや、でもあの青年は輝いていた。多分大学生だと思う。てことは年下だ。私、年甲斐もなく若者に一目惚れか?三浦翔平(敬称略)に似ているというだけで?そんな軽い女か私は。
あまりに困惑し、帰宅して購入品を定位置にセットしてからもう一度同じドラッグストアに向かった。買うものなんて無いのに。適当にお菓子を二つくらいカゴに入れて同じレジへと歩く。お会計の間、今度はちらっと彼の顔を見てみた。…うん、たしかに似ている。

その日から、毎週日曜日にそのドラッグストアに行くのがちょっとした日課になってしまった。もう名札を見たから三浦ではないのも知っているし、寒い日も半袖を着ている彼のその二の腕からして、多分スポーツをやってるかジムに行っている。そして、三浦翔平というか氷川きよしにも似ている気がする。そこから私は彼のあだ名を「三浦きよし」とした。三浦きよし君は真面目に働いているので、私の差し出したポイントカードを返す時や、カード払いの時に「お支払いは一括でよろしいですか?」と聞く時、レシートを渡す時、など様々なタイミングで私の顔を見てくれている。のは分かっていながら、頑張ってもそのうちの一回しか目線を合わせられない。情けないオナゴである。出掛ける予定があってバチバチにメイクをしている時だけはゴリゴリに目を合わせに行くけれど。

まあ、恋というわけではない。別に三浦きよし君とどうこうなりたいとは思っていないし、日常生活の間は彼のことを忘れている。日曜の朝、ドラッグストアに行く時だけ思い出す存在だ。話しかけることもない。
だが、ありふれた日常に「知り合いでもない誰か」という存在がいることって、コロナ禍を経た今、改めてありがたいことなんじゃないかなと思う。強制的に家にいた頃は、そんな些細な登場人物は存在させられなかった。
ドラッグストアで買ってきた豆乳を飲みながら、日常にささやかな面白みを与えてくれる彼に、心の中で小さく感謝の念を送った。

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