見出し画像

いつでも大切に思っているよ

色々な子供たちがいるなかで、なんらかの理由で配慮が必要な子は別途職員がつく。

そのうちの一人の子との思い出。

彼はADHDで衝動性が高く、非常に手が出やすい子だった。

同時に足音一つで、履いていた靴が変わったことに気がつくぐらい、過敏な子。

そのため刺激が多いと混乱して収拾がつかなくなる。あとは執拗に一つの事に固執したり。

あるとき、髪に水がついて
「髪の毛がへんな風になった!!!!!」
と大騒ぎ。

かなり些細な変化なのだが、彼にとっては大問題!

「クシ貸して!!!」
と怒鳴りこんで来た。

もちろんクシなど用意はない。

でも一回「クシさえあれば、髪の毛が直る!」と思考回路が出来てしまった彼は、いくら言っても聞き入れない。


私は、そこまで言うなら、と私物のクシを出すことにした。

私の持っているクシは、黒豚の毛でできた、特別なクシ。
正直壊されたりしたら、汚されたら、、無事に返ってくる保証はない。

でもその時私は腹をくくった。

私の責任で自分の大切なクシを貸すことに決めた。だから仮に彼に壊されたり汚されても、文句は言わない!

ロッカーに行き、クシを出したとき
震えがした。
怖さはある。
無事に帰って来るなんて保証はない。
これは思入れのある、大切なクシだった。

でも彼を信頼したかった。
だから
彼を信頼し、彼にクシを託した。

そしたら、彼はとても喜んで髪の毛を直して
「いいクシなんだね〜!だからすぐ直った!」
と満遍の笑みを浮かべてくれた。


安堵!


と、同時に私の行為は本来であればすべきではない行為なので(私物を取り出し、貸すということ)よくないことをしてしまったな。。と思い、上長に事情を説明し詫びつつ、ひとまず何事もなかったので安堵した。



翌朝、彼は私を一目見て開口一番
こう言ったのである。


「○○先生、(私の名前、いつもは呼び捨て、あるいはババア)昨日は大切なクシを貸してくれてありがとうございました!」


私はびっくりした。
衝撃とともに、涙が出そうだった。
彼には私が彼を信頼してクシを託したことが、ちゃんと伝わったのかな。それをちゃんと言葉にして伝えてくれる彼は、とても清らかで温かく、素晴らしいと思った。


彼と大切なこころが通じた気がした。
とても嬉しかった。


このことは、きっと一生忘れない。

彼とはもう頻繁に会うことはないけど、たとえ会えなくても、いつでも彼らしく屈託のない笑顔で、楽しんで生きてくれているといいな!

そういつも願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?