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126:行方知らずになっていく「穴」

内田ユイ|TYM344「ART FOLDA 00 スキップ・トレーサー」で、内田さんの「穴」が描かれていた作品が、よかった。「穴」というそこにあるのかどうかが曖昧な存在を透明なサーフェイスに描く。サーフェイスは手前と奥との二層構造になっていて、手前の透明なサーフェイスに描かれた「穴」から、奥のサーフェイスに「穴」の影が投影される。影を得ることで「穴」は、確かに透明なサーフェイスに存在していることを示している。

しかし、「穴」の実体というものは実はない。透明なサーフェイスに描かれた「穴」は奥行きをもち「穴」らしいけれど、「穴」は描かれたサーフェイスにその深さを「遮断」されている。透明なサーフェイスの奥のサーフェイスとのあいだには「穴」は存在しない。そこには、サーフェイスに描かれ「穴」がつくる影しかない。サーフェイスに「深さ」を「遮断」された「穴」は影だけを奥のサーフェイスに投げかけている。手前と奥のサーフェイスのあいだには影以外何もないけれど、影があることで穴の一部のようになっている。「深さ」を持たない「穴」の一部として、影があり、何もない空間がある。

そして、「穴」が見せる「深さ」や「向こう側」は影とは連動してしない。影は描かれた「穴」の影であって、穴の「深さ」や「向こう側」との繋がりはない。照明の当て方を変えて、描かれた「穴」の影と穴の「深さ」や「向こう側」とが一致するようにしたらどうなるだろうか。「穴」の影が実体をもたない「深さ」や「向こう側」に実体を与えるとようになるだろうか。照明を変えなくても見る人が動けばいいのかもしれない。

見る人が動くことで影の向きを変えつつ、上の二つの「穴」の作品は、影が展示の壁に直接投影されていて、描かれた「穴」がフレームと同じようにモノとして、そして、見る人と同じ世界に影を落としている。描かれた「穴」はこちらとは異なる「向こう側」の世界を示すものだが、影から考えると「穴」それ自体はこちら側の世界に存在しているとも言える。描かれた「穴」の存在をトレースしていくと、「穴」は明確な居場所を失い、行方知らずになっていってしまうかのようである。

別の仕方で「穴」が描かれていた作品もまた考えたい🧐


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