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169:スカスカの世界とミチミチの身体

11月27-29日に名古屋で開催される「注文の多いからだの錯覚の研究室展 名古屋電映博2020」のなかで,「ゲストトーク|「気持ちいい」と「気持ちわるい」の錯覚論、メディアアートとの対話」に参加します.トークは,アーティストの谷口暁彦さん,展覧会を行っている研究室の小鷹研理さん,私で行います.

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このトーク準備で,谷口さんの「やわらかいあそび」を見返しました.なぜ見返したというと,この作品に出てくる「ラグドール」を考えてみたかったからです.谷口さんのスクリプトには以下のように書かれています.

7 ラグドール
この世界では、様々なシミュレーションが標準機能として実装されていた。
ラグドールと呼ばれる機能もそうした標準機能のひとつだ。
ラグドールはぬいぐるみを意味する言葉だ。ビデオゲームの中のキャラクター
がぬいぐるみのように脱力し、崩れ落ちる姿を表現することができる物理シミ
ュレーションの手法だ。
つまりこれは、ゲームのようにシミュレーションされた世界における死の表現
だ。キャラクターが脱力することと、プレイヤーが操作不能になることが直接
繋がるため、ゲームオーバーの表現として広く用いられている。
現実の世界における死は取り返しのつかない悲劇だが、ここでは標準的な物理
シミュレーションとして実装されていて、それは再現可能な「機能」になって
いる。物理シミュレーションは現実を模倣するものだが、私たちが住む世界は
物理シミュレーションと似ているだろうか。
というか、それが似てしまうときが悲劇なのだろう。ずっとこの場所を眺めて
いると、このシミュレーションされた世界は現実に起きる悲劇を肩代わりし
て、それを繰り返し何度も実行しているように見える。何かが過剰に空転して
いるような、悲しさがある。

なぜ「ラグドール」が気になったいたかというと,谷口さんの作品と小鷹さんの研究を見ていると,ヒトの身体が「テクスチャ化」しているように感じたからです.ヒトの輪郭があって,その輪郭の中にはしっかりと何かが詰まっているというのが普通の感覚だと思うのです.しかし,二人の作品・研究ではヒトの輪郭しかなく,その奥には何もないような感じがします.身体の輪郭はあるけれど,その奥は空白になっていて,輪郭は空白に貼り付けられたテクスチャのようなものになっていると感じれられます.だからこそ,身体の輪郭が自在に変化することができるのかな,などと考えています.そして,ラグドール=ぬいぐるみは,中身が詰まっていますが,その中身を抜いてしまった感じに,私は気持ちよさを感じているのかなと,「やわからなあそび」を見ながら,つらつらと以下のメモを取っていました.

- テクスチャ化する身体
- 中身があるけどないような
- 通り抜けてしまうサーフェイス
- バルクがないような感じ
- 詰まっていない
- 輪郭やサーフェイスはある
- 一次元の輪郭=ラインから二次元のサーフェイスが生じて,サーフェイスによって囲まれて三次元のバルクが生じる?
- 振動する度に次元が足される
- 一度,見てしまうとサーフェイスの奥が空洞だと思っています
- サーフェイスの奥が空白だと思ってしまう
- 空白がバルクだと考える
- 充填可能性を持つ穴としてのバルク
- だが,それはサーフェイスの奥にあり見ることはできない
- そして,その存在は意識されなくなっていく
- 実際は穴ではなく,何かが詰まっているにもかかわらず

- スカスカしている=空白に気持ちよさを感じているのかもしれない
- バルクが詰まったものではなく,詰まっていない空白として考えることに気持ちよさを感じているのかもしない
- 物質と情報とを対比したときに感じる情報のスカスカとした感じ
- モノではないということによる空白
- ヒューララな感じ
- 空白を埋めるのではなく
- 空白を埋めるモノは一つの制限でしかない
- 制限として汚れ層としてのサーフェイスが生まれる
- 汚れ層=異なる存在が分子レベルで混じり合う層
- 空白を埋めるのではない別のあり方
- 制限がない空白=情報=バルクのあり方があるのではないか

メモに出てくる「バルク」や「サーフェイス」という言葉は,ここ2年間くらい書き続けているインターフェイス以後のモノのあり方を考えている「サーフェイスから透かし見る👓👀🤳」という連載で考えているものです(でも,「バルク」ってなんだろうと,2年も考えてきたのですが,いや,考えてきたからこそ,わからなくなってきてきました😑)

谷口さんのスクリプトには「物理シミュレーション」という言葉がでてきますが,情報のみで成立している「物理シミュレーション」というスカスカの世界というものがあって,そこでの感覚を,コンピュータ以後の私たちの身体は否応なしに引き入れているのかなと,私は考えています.そして,ここまで書いてきて,身体が否応なしに引き入れているスカスカの世界の感覚をVRなどを使って,ミチミチの中身を持った身体で体験させてくれるのが小鷹研の研究なのではないかなと思い始めました.


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