見出し画像

229:「視界」を取り外す

Apple Vision Pro,visionOSと「vision」という言葉を使って,あたらしい「視界」をつくっていく感じを出しているのがいい.ディスプレイのフレームをなくすというか,フレームを視界そのものまで広げてしまった感じ.iPhoneがディスプレイを壁際が離して,手元に持ってきたとしたら,Vision Pro はディスプレイで視界を覆って「直接見るのではなく,通して見る」体験をつくる.そのとき,ディスプレイのフレームは視界と一体化して,消えてしまう.プロモーション映像にもあったけど,網膜に映る世界=visionOSがつくる世界になっている.Vision Proのディスプレイは「レティナディスプレイ」とは呼ばれないけど,それはもう「ディスプレイ」ではなくて,視界=visionそのものになったということなのかもしれない.あなたが見ているものすべてをデザインしますよという感じ.

Apple-WWCD23-Vision-Pro-spatial-video-230605

Vision Pro,visionOSのデザインにはあなたが何をしようとしているかも,あなたの眼の動きから予測しますよというということも含まれている.自分がしようとしていることに対して,本人よりも先に見えているものは反応するのはどんな感じというか,それを感じさせないようにデザインされていて,そこに気持ちよさだけを感じるようになっている(だろう)ことがすごいのかもしれない.iPhoneのディスプレイとは距離があるけど,視界と一体化してしまって,その気持ち良さに慣れてしまったら,「視界」を取り外すことは難しいのかもしれない.というか,「「視界」を取り外す」という発想が出てくるとしたら興味深い.

あらたに視界がデザインされて,それか眼の前に展開されたら,あとはそこで行為をするだけで,行為をしたらそこに空間を感じる.Vision Pro,visionOSは「空間コンピューティング」のプラットフォームになるとしているが,その際に最初につくり込んだのが空間での行為よりも,空間そのものが眼の前にあると感じさせる「視界」をデザインしたことが,ディスプレイを用いた作品を考察してきた私にとってとても興味深いことであった.これまで「ディスプレイがないから」とあまり興味がひかれなかった「HDM」という装置がつくる体験を「フレームディスプレイとしての視界」として考察できるかもしれないという刺激を,Vision Pro,visionOSの「Vision」という単語は与えてくれた.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?