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160:情報を操作可能な仮想バルクとしての「三次元座標空間」

YOFの《2D Painting [7objects, 3Picture plane]》で,3つの平面に浮かぶ球体を見ると,球体は表面色にも面色になりきらず,これら2つの色が重なり合うオブジェクトになっている.球体のオブジェクトが他のサーフェイスがつくる面色と接するところは面色が現れているように見える.特に,別々のLEDランプから照らされている上下の部分は面色として現れている.しかし,上下のLEDランプからの光が届きにくい球体中央部にできる「影」のような黒い部分は,球体が面色の「平面」に収まりきらない「オブジェクト」であることを示し,その周りは表面色となって球体の曲面の存在を示している.球体は照明の当たり具合によって,面色から表面色へのグラデーションを形成しており,複数の面色のサーフェイスがつくる一つの平面に組み込まれるのを拒んでいるように見える.

しかし,《2D Painting [7objects, 3Picture plane]》において,球体のオブジェクトだけが照明によって,絵画平面に組み込まれるのを拒絶しているわけではない.刻一刻と変化していく照明の色によって変化していくオブジェクト同士の配色変化によって,不意にオブジェクトが「オブジェクト」として表れるときが多々ある.球体ではなく,面を形成するオブジェクトは多くの場合,LEDランプから放たれる光によって強く照らされ面色を示し,壁に開けられた3つの開口部=絵画平面に重なりをも持たない一つの仮想サーフェイスをつくり出している.しかし,配色の変化によって,不意に仮想サーフェイスを形成していたオブジェクトが「オブジェクト」のサーフェイスを示す.このとき,オブジェクトと照明との関係から現れる色は表面色となり,そこにモノのサーフェイスが生まれると同時に,サーフェイスの奥に厚みを持ったバルクを見ることもできるようになる.

YOFは壁に開けた3つの開口部によって,オブジェクトと照明との関係がつくる情報のコントロールを行う.開口部が,オブジェクトと照明との関係がつくる面色が重なりを示すことなく隣り合う「絵画平面」として機能する.このとき,開口部の奥にある7つのオブジェクトは球体を除き,ディスプレイのピクセルがつくるイメージのように実空間の前後関係の重なりを示すことなく隣り合っている.球体だけが,面色と表面色とのグラデーションがつくる異物感によって「絵画平面」の手前にその存在を提示しているように見える.そして,球体以外のオブジェクトも多くの場合は仮想サーフェイスを形成する重なることなく隣り合う面色となっているが,照明がつくる配色の関係で突如として,オブジェクトとしてのサーフェイスを示し,その奥に厚み=バルクを持った異物として「絵画平面」のなかに現れる.

3つの開口部がつくる「絵画平面」は,7つのオブジェクトを含んだ奥の空間の情報を制限して,観賞者がいる手前の空間に届ける.YOFは,7つのオブジェクトと多くのLEDランプが形成する照明との関係を制御しながら,3つの「絵画平面」をピクセルを敷き詰めたディスプレイのようにしている.しかし,3つの球体のオブジェクトの面色から表面色へのグラデーションや,照明の配色によって1つのオブジェクトが面色から表面色と現れが変化したとき,そして,開口部を正面ではなくな斜めから見たときに「絵画平面」はその奥に重なりをもつ空間を持つことが示される.

開口部の空間は,観賞者がいる手前の空間と何ら変わるところがない物理空間である.しかし,YOFが仕込んだ開口部と照明とオブジェクトによる色彩情報の制御によって,壁の手前と奥とで空間の現れが変化している.開口部から奥の空間は,「絵画平面」という仮想サーフェイスの奥にある仮想バルクとなって,照明とオブジェクトによって色彩情報が操作可能な「三次元座標空間」となっている.ピクセル単位での操作の精度ではないけれど,色彩情報を精細に制御できる空間が現れている.情報を操作可能な領域としての「三次元座標空間」が仮想バルクを構成し,この仮想バルクが開口部に一つの仮装サーフェイスとして「絵画平面」を形成する.「絵画平面」をつくる重なりをもたずに隣り合う面色という色彩の現れのなかで,7つのオブジェクトは色情報と位置情報しか持たないピクセルの集合体となり,個々のバルクとサーフェイスとは失われている.

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