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「魔法少女育成計画ってアニメ2期決まったんですね!1期終わってから結構経ってますよね!なにあったんです?」への回答


 タイトルは昨年Twitterのフォロワーとリアルエンカした際の雑談で言われたことである。一言で答えられないためこちらに記す。

魔法少女育成計画とは

 魔法少女育成計画(通称まほいく)という作品をご存知だろうか。宝島社のライトノベルレーベル「このライトノベルがすごい!文庫」(相変わらずすげえ名前だ)から2012年から発行されているライトノベル作品である。
 2016年10月~12月には原作1巻を元にしたTVアニメ版が放送された。後の詳しいことはwikipediaで調べてください。
 wikipediaに掲載されていない近年の動きを説明するとアニメ放送後は2017年3月にアニメ出演声優16名によるキャラソンライブが終わってからは原作刊行は続きながらも目立ったメディアミックスが行われていなかった。2022年10月にはカルミナからパチスロ台が稼働。その後2023年1月には原作10周年&クラムベリー役・緒方恵美さんの声優デビュー30周年記念興行として原作者書き下ろしストーリーによる朗読劇『森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet』が上演。こちらの千秋楽にて原作2作目である『魔法少女育成計画restart』のTVアニメ化が発表された。その後は2023年10月には朗読劇第2弾としてアニメ1作目とrestartの間のスノーホワイトを描いた原作の短編エピソード『スノーホワイト育成計画』が上演。2024年3月16~17日には朗読劇第3弾『double shadow』が上演予定である。
 2022年秋のパチスロ稼働から朗読劇やアニメ新作やら色々メディアミックスが生えてきて嬉しい限りなのだが、アニメ1作目(とキャラソンライブ)が終わってから2022年パチスロ稼働までのあいだ長期に渡りまほいくという作品はファンも公式も冷や飯を食わされてきた。アニメ1作目の売上的な失敗に起因するのだが「アニメが1本コケると原作がそれほど強くない作品はどのようなことになるのか」を振り返ったり自分の記憶を掘り起こすためにここになにが起きたのか記しておきたい。

2017年 -アニメが終わり、原作以外のすべてが終わった-

2017年1月 Blu-rayの売れ行き&ラジオの終了

 2016年秋アニメだったTVアニメ1作目のBlu-rayは2016年12月下旬に発売された。Blu-rayの特典として各巻に原作者書き下ろし小説掲載のブックレットなどがあるが1巻最大のセールスポイントの特典として設定されたのは2017年3月開催のキャラソンライブ「Mujica Magica」のチケット優先申し込みシリアル封入である。この作品は16名の魔法少女による生き残りをかけた戦いを描いた作品であるが、魔法少女を演じる声優16人によるソロ・ユニット楽曲入り交じるキャラソンアルバム「Mujica Magica」がアニメ放送中に発売されていた。舞浜アンフィシアターでそのキャラソン全てを披露するという触れ込みのライブである。まほいくという原作にアニメ化の白羽の矢が立った理由がどうもこの声優キャラソン興行部分っぽい。(筆者個人の感想)
 ファンブックなどのインタビューでも触れられているがまほいくという作品は2016年に実際にアニメが製作・放映されるまでの間に水面下で二度もアニメ企画が立ち上がり結局中止になっていたという。2014年に『悪魔のリドル』のアニメがメインキャラ13人中1名を除くほぼ全員のキャラソンが作られてアルバム化され、ソフト売上はパッとしなかったがそのキャラソンライブ自体はかなり好評を博したようで、そういった女性声優を多く起用するライブ興行の部分でメイン女性キャラの多さも強みの魔法少女育成計画が色々具合が良かったのか(?)三度目の正直でアニメ化が本決まりになった。
 この辺の憶測はさておきBlu-ray&DVD第1巻の売上は約1300枚。舞浜アンフィシアターのキャパ×2(昼夜2回公演)には到底届かない。ついでに現在と違いソフト売上に大きく依存していた2016年秋のアニメ作品の中でもかなり下位の売れ行きである。
 売上はさておき原作ファンの自分はアニメの感想については良いところと凄まじくダメなところが両立している作品だと思った。どこがそう思ったかについてはこの記事の本質に逸れるので言及は避ける。藤氏の記事がだいたい自分と同じ部分でツッコミを入れてくれているのでそっち参照してください。

 あとこの月に発生したことといえばWEBラジオの終了である。まほいくアニメは出演声優によるインターネットラジオ番組「魔放送女育成計画」も配信されていた。毎週更新でパーソナリティが東山奈央さん&沼倉愛美さん(生存者サイド)、花守ゆみりさん(SIDE D)が交互に変わる方式。この手の1クールアニメのWEBラジオはアニメ最終回直後にスパッと終わることがほとんどなのだが、このラジオは最終話放送後も2017年1月下旬まで全16回放送された。原作オタクは「もしかして2期の予定あるからラジオ続いてるんじゃないか?」と期待したものだったが結局終わった。BD1巻付属のキャラソンライブシリアルの申し込み期限とかを鑑みるに単にキャラソンライブの宣伝のためのロスタイムの1ヶ月だったらしい。

2017年2月 とらのあなポータルサイト更新停止

 前置きとしてまず魔法少女育成計画ととらのあなの関係についてまず記さなければならない。本作ととらのあなの関係はまず2014年一気に深まる。とらくじミニと呼ばれる原作絵柄のグッズくじが発売&とらのあな内のブランド・ツクルノモリによるドラマCD化が発表される。
 とらのあなは元々ツクルノモリレーベルでこうしたドラマCD化によるちょっと話題の作品の青田買いみたいなことはかなり頻繁に行っており『ディーふらぐ!』のようにとらのあな専売でドラマCD化後TVアニメ版の製作委員会にとらのあなが加わる……というようなことは結構あった。逆に自分が知っている作品だと『ひまわりさん』『世界で一番おっぱいが好き!』のようにとらからドラマCDが出てもアニメ化まで繋がらないまま終わる作品もある。
 まほいくもそういった青田買い作品の一つとしてグッズ&ドラマCD化がされ、グッズの方は好調だったのかコミケなどで新規グッズが何作か作られた。ドラマCDのシナリオは原作者書き下ろし。グッズセットやカレンダーなどにも原作者書き下ろしの短編が収録された小冊子が付属していた。これらについて2019年まで文庫に再録されなかったため買い逃したりアニメ視聴後に原作を集めたオタクを苦しめることになるがさておく。
 そういったまほいく公式との連携・タイアップの中でも最たるものが「とらのあなポータルサイト」だった。宝島社の公式コンテンツよりかなり充実したキャラクター紹介や人物相関図などが掲載された豪華なサイトでおそらくアニメ放送前後に作品に興味を持った人は宝島社公式よりこちらを見ていた人のほうが多いと思われる。当時はググると宝島社公式より上位に出る状態だった。
 虎の穴はアニメ版まほいく製作委員会にもクレジットされBlu-rayにはとらのあな限定版(各巻+4500円でB1クソデカタペストリーつき)が販売された。まさに蜜月である。
 さて前述の通りアニメBD/DVD1巻の売上はかなり悲惨なものだったのだが、この結果を受けて真っ先にまほいくを見限るムーブを見せたのがとらのあなだった。アニメBDは2016年12月~2017年3月にかけて全4巻で発売されたのだが、とらのあなポータルサイトはあろうことにBD3巻発売告知を行った2017年2月22日をもって更新停止となる。
 もっともこの時点でポータルサイトが更新停止したとは誰も思っていなかった。虎に捨て置かれたと気づくのはもう少し経ってからである。最終的にポータルサイトはとらのあな全体がhttpsに移行する際に保守対象から外されたようで現在はサーバ内にデータは残っているがトップページが正常に動作しないためアクセスしても一見なにも閲覧できないサイトになっている。
 あと詳細は次の項に記すがコンプエースで連載されていた原作第2作目のコミカライズ『魔法少女育成計画restart』がこの月に発売されたコンプエースに掲載されたのを最後に休載(その後事実上打ち切り)となる。

2017年3月 盛り上がったり冷えたり

 この月はまずアニメのキャラクターソングライブ『Mujica Magica』が4日の昼夜・舞浜アンフィシアターにて開催された。

 なおレポ記事について補足すると物販のアクリルチャームガチャに長蛇の列ができていたのはこのガチャのアクリルチャームにごく少数でキャストの直筆サイン入りのバージョンが入っていることが事前アナウンスされていたからである。
 一応収録カメラは入っていたようなのだがなんらかの理由で現在に至るまでソフト化されていない。長いこと覆面シンガーやっていて顔出しした直後だったナノさんがシークレットゲストでED曲を歌っていたのとかは話題になっていた。
 このライブとBlu-ray最終巻の発売をもってTVアニメ魔法少女育成計画の興行は一度全て終わることとなる。

 原作サイドも動きを見せる。21日には読者公募した魔法少女5人が登場するWEB連載の外伝作品『魔法少女育成計画dreakdown』(通称bd)第1話が掲載された。

 こちらはその後2020年7月までかなり不規則に全26話が連載されることとなる。原作ファンは更新のたびに大いに盛り上がることとなったがこれも後々に尾を引く要素となる。

 そして2月の項目にも記載したがコンプエースにて2016年6月号から連載されていた原作2作目『魔法少女育成計画 restart』のコミカライズ版(作画:海苔せんべい先生)が3月26日発売の2017年5月号から休載状態になる。

「続編?アニメ放送範囲のコミカライズじゃないの?」と聞かれそうなので補足すると、アニメ範囲である原作1巻分のコミカライズはアニメ放送の1年半以上前の2014年~2015年にかけてひっそりと連載されてひっそりと終わっている。作画は江戸屋ぽち先生で全2巻。かなり端折りながらも魅力的なコミカライズであった。

 ではリスタコミカライズ休載に話を戻す。事前の告知はなく目次に「魔法少女育成計画restartは都合により休載させていただきます。」と小さく書かれていた。当時作画の海苔せんべい先生のTwitterでも「スケジュール調整のため休載」と告知された。ちょうど単行本2巻分のストックが貯まったところだったので単行本作業などによるものかとも思われた。

その後4月に海苔せんべい先生の「3月の休載の際に身体の異常が見つかったため療養に当てるためお休みさせていただきます」との告知。5月も同様の告知とともに「目処が立ちましたら報告いたします」と追記される。

 その後5月発売のコンプエース7月号までは目次に同様の休載告知が掲載されていたが、6月にはコンプエース公式サイトの『連載中作品』のページから抹消され『過去の連載作品』の「ま」行にリスト入りする。漫画業界でたまによくある休載からのフェードアウト打ち切りである。

 作者の復帰を待たずに打ち切りが決まった経緯についてはハッキリとは分からない。ただアニメ続編が絶望的な状態でしかもアニメ1作目の範囲外の内容・尚且つ1巻が重版されるほど売れていないコミカライズ作品を休載扱いで置いておく理由がなくなったのは商業雑誌として至極当然の話ではある。なんなら休載前最後に掲載された4月号では掲載順が最下位だった。これにより漫画版restartは6~11話の単行本未収録を残すこととなる。この中には原作で当時挿絵などに描かれていなかった一部魔法少女の変身前ビジュアルが初出しされたものもあるがそれらを見る手段はもはや中古雑誌を集めるしかない。(これから集める人向けに言うとコンプエース2016年12月号~2017年4月号に掲載されているよ!12月号は2話掲載だったよ!)
 こうして原作が兼ねてから予告していた外伝作品の連載で盛り上がるなかでアニメ版とコミカライズがひとつ、メディアミックスとしての役割をひっそりと終えた。
 【余談】漫画版restart第1巻の電子書籍版のリンク貼ろうとAmazonなどを検索したらKindle&bookwalkerから電子書籍版が消滅していた。昨年2023年の1月には電子出版契約が切れたかリスタ漫画版の版権だけ引き上げられた模様。江戸屋ぽち先生が書かれた第1作の漫画版は現在も角川から電子版が販売されているので、リスタだけ何かの事情で角川からの販売が終了したようだ。宝島社から新装版&再開の可能性もあるかもしれない。

2017年6月 終わらない5周年企画

 2017年6月8日。原作第1巻発売から5周年を迎える。5周年記念企画として「遠藤先生&マルイノ先生に聞いてみようpart2」が開催。質問内容が募集された。part1はアニメ版放送に合わせて発売された原作ファンブックで行われた企画で、作者へ特定のキャラクターについてや執筆時の苦労話など読者からのあらゆる質問に答えてもらうものだった。そちらの第2弾を行うとのことであったが、こちらなんと質問を募集してから5年以上経過した現在になってもこちらの企画の結果発表と言うか回答は公開されていない。

 他に5周年企画第2弾としてベストバウト人気投票も行われた。こちらは読者から好きだと思う作中のバトルシーンを投票してもらう企画で、1位はマルイノ先生によって新規に挿絵を製作予定とのことだった。投票が行われたがこちらの結果発表はなんと2年後の2019年6月8日:7周年記念日だった。
 ちょうどリスタ漫画版がコンプエース公式サイトで終了扱いされた直後だったのもあって、なんだか素直に祝えない気持ちも大きい5周年だった。

2017年10~12月 もう一つのコミカライズが止まる

 まほいくにはもうひとつ連載中のコミックが存在していた。アニメ放送直前の2016年8月から宝島社のこのマンガがすごい!WEBにて連載開始された『魔法少女育成計画F2P』である。こちらは小説を原作にしたコミカライズではなく原作者・遠藤浅蜊先生がストーリー書き下ろし&キャラクターデザインを原作挿絵・マルイノ先生が手掛けたスピンオフコミック作品である。
 作者は柚木涼太先生。百合のオタクには先日7年の連載が完結した『お姉さんは女子小学生に興味があります。』や東映と正式にコラボして実在の特撮作品のタイトルが出まくる水沢夢先生原作『キミ特!~キミにも特撮映画が撮れる!!』などが有名だろうか。
 「死をキャンセルする魔法」を持つとされる魔法少女の身柄を巡り魔法の国から送り込まれる工作員魔法少女と魔法の国の打倒を目指すレジスタンスの魔法少女たちの戦いを描いた作品だった。徐々に原作本編シリーズとの関わりや原作キャラクターが登場していくが、それらの知識がなくてもまほいくの可愛さやカッコよさやバイオレンス・能力バトルなどを漫画媒体で接種できる名作である。
 こちらが10/11更新の第21話を持って停まってしまう。その後12月まで沈黙状態を守っていたが新媒体であるLINEマンガにて第1話から連載が行われる。

 掲載誌の変更ではなく掲載媒体が増えたこと、更新が止まっているがLINEマンガの連載が最新話まで追いついたらこのマンWEBと並行で続きが掲載されるとの触れ込みだった……が、その後PV数が伸び悩んだのかこちらも2018年3月下旬に最新話に届く前に更新が停止&約2週間後の2018年4月上旬にはLINEマンガからサイトごと抹消された。
 このマンにおけるF2Pの休載理由については公式アカウントによると「大人の事情」とのこと。あと数話で完結の予定で最後まで原稿は提出されていたこと、原作遠藤先生によるラストまでのプロットは既に完成していたことの2点まではTwitterなどでも確認されていた。
 こちらも単行本が紙媒体のみで2巻まで発売されていたが、単行本未収録分15~21話を残したまま全てが止まっている。

 2019年にはまだ編集部も連載再開の意欲を見せていたが、結局なにも動いていない。2018年4月のF2P完全更新停止により魔法少女育成計画という作品はこの後2019年中頃まで2年半以上に渡り新刊も発売されず、マンガなどのメディアミックスも全て止まり、月イチ更新(といいつつかなり更新延期が多い)で外伝小説breakdownのWEB連載だけが行われる強烈な閉じたコンテンツ状態に突入する。

2018~2019年前半 -新品が買えないラノベに-

新品が買えなくなる

 2017年中頃からじわじわ発生していた事態なのだが、2018年に入ると顕著にAmazon・楽天ブックスを始めとするネット書籍通販大手各社及び新刊書店にて原作書籍の比較的新しい巻が在庫切れ&入荷時期未定でマケプレなどでしか購入できなくなる。
 紙の書籍ないなら電子書籍買えばいいんじゃないの?と思うかもしれないがこの頃の宝島社は電子書籍を販売していなかった。

宝島社と電子書籍

 宝島社は2010年『電子書籍の正体』というノンフィクション書籍を出版。「電子書籍は儲かるは幻想である」という主張のもとiPadやKindleが国内市場に普及し始めた時代に電子書籍ビジネスはまやかしであると批判する内容のものだった。発売時の新聞広告のフレーズ「本屋のない町で私たちは幸せだろうか?」「宝島社は、電子書籍に反対です」は聞いたことがある人もいるだろう。宝島社はこのあと2019年5月まで約9年に渡り自社書籍の電子書籍を一切出さないスタンスを貫いた。電子書籍解禁に至った経緯は後述する。
 さてまほいく原作書籍もこれに倣い電子書籍版が存在していなかった。アニメ化前も1巻が品薄&絶版でプレミア価格化してしまい、四六判で1巻の大判バージョン(1巻と同内容+WEB収録の短編を紙媒体で初収録したもの)を重版の代わりに出したこともある。
 アニメ化決定~アニメ放送中は原作既刊がほぼ全て重版されて書店はもちろんのこと宝島社の流通パワーでコンビニに並んだりした。このときは電子書籍反対を掲げバッグやサイフのおまけに雑誌がついてるみたいな書籍を売りまくってる宝島社の営業力を感心したものだった。
 ただアニメ放送中に特に売れたのは角川から出ているおかげで電子書籍版があったコミカライズ版2冊だと思っている。
 アニメ放送前に既刊9巻。アニメ放送中に短編集1冊と長編1冊(『魔法少女育成計画QUEENS』トランプ三部作と呼ばれた連作の最後の巻)をそれぞれ出したのだが、このQUEENSがかなり部数を絞って発行された上にその後重版もされなかったため書店及び取次在庫がなくなった段階で購入不能状態に陥り、マーケットプレイスでは一時期4000円近い値段にまで跳ね上がった。
 ここでアニメから入って原作を集め始めたオタクがJOKERS→ACESまで購入できてもその続きのQUEENSを手に入れられない状態に突入する。更に重版され流通量が多い初期の巻も徐々に新品流通がなくなり、定価よりは安いがマケプレなどの中古販売しか流通しなくなる。これにてまほいくは原作を新品で買えない&電子書籍も売っていないので新規読者は中古でしか買えないというアニメ化作品にあるまじき異様な状態に突入する。

このライトノベルがすごい!文庫・半死状態に

 最初に書いた通りまほいく原作が出版されているレーベルは「このライトノベルがすごい!文庫」(通称KL文庫)という。このレーベル初のアニメ化作品が魔法少女育成計画であったが、同時にまほいくアニメが放送した時点でこのレーベルから刊行が続いていた他のタイトルは全て打ち切り状態になり、残る刊行タイトルは魔法少女育成計画のみとなっていた。
 このレーベルから刊行されている作品は宝島社が毎年出しているラノベガイドブック「このライトノベルがすごい!」に絶対ランクインできないという不文律があり(代わりにKL文庫ってレーベルあるよ!という数ページの特集コーナーが設けられていた)これにより宣伝能力が極端に悪く、挙げ句に既にラノベでも普及していた電子書籍も出せない。これにより所謂新文芸やなろう系書籍のソフトカバーに圧迫されて徐々に幅が狭くなっていた文庫ラノベコーナーから追いやられた際に作品としての知名度を完全に失う。このレーベルで生き残れる作品がアニメ化決定作品以外なかったのは当然のことだった。
 そんなKL文庫は2016年12月10日に魔法少女育成計画QUEENSを出して以降は新刊が発売されなくなり、2018年にはライトノベルコーナーからその存在はほぼ消え去っていた。

【2024/03/13 20:40追記】
 ……と恨み節を書き連ねたら宝島社がrestartアニメ化の帯がついて7年半ぶりの既刊全巻の重版を発表した。QUEENS以降の巻の物理書籍が重版されるのはこれが初めてである。本当にアニメ化企画ちゃんと進行してるんですね。自分含め集団幻覚の可能性を少し疑っていた。苦難のときはようやく終わった。

枯れ木の賑わい

 2018年6月頃には漫画F2Pが完全に止まったことや新規ファンが原作を集めるのも困難になったことで、既存のまほいくファンはWEB連載小説breakdownの月イチの更新だけが盛り上がるニュースになりつつあった。紙書籍の刊行も止まり外部コミカライズも止まり内部でのコミカライズまで止まり、電子書籍も存在しないしアニメも続編は望むべくもない。新規読者の初見感想などを見ることもできない。
 当時はbreakdownの更新を楽しんで読みながらも「電子書籍出してくれる出版社に移籍してくれねーかな…」と正直思っていた。今も宣伝が下手すぎるのでもう少しマシなところに移籍しないかなって思っている。
 ※当時はなぜか原作英語版(5巻くらいまで出ていた)はKindleで買うことができた。宝島社が自社で翻訳出版をしていないためなのだが、多少の慰みにはなった。他にAudibleのオーディオブック版が初期の巻で登場して、電子版はないが初期の巻だけは入手手段が増えていた。

パチスロ化の可能性が潰える

 まほいくアニメ版の製作委員会にはハイライツ・エンタテインメントが参加していた。パチンコ&パチスロメーカーである。当時のハイライツのホームページにはまほいくアニメ版公式サイトのバナーがありアニメとセットでパチスロ企画も動いているらしき動きがあった。
 アニメ本放送時に全く跳ねなかった作品がパチンコ・スロットの稼働やその人気次第で新作につながるケースを多数見てきたのでパチスロの情報まだだろうか……と上の絶望的状況の中で唯一の希望のように縋っていた。
 2019年3月31日をもってハイライツは日電協を脱退しパチスロ新規開発事業から撤退することになった。まほいくパチスロは企画のまま倒れたのだ。最後の希望がここで一度消えた。
※ハイライツ・エンタテインメントはその後アイゲートに社名を変えてパチスロ店舗向けの周辺機材の開発販売をしている

2019年後半 電子書籍化という神風

宝島社が動いた

 2019年5月31日。宝島社が突然電子書籍の販売を開始した。キッカケは『チーム・バチスタ』シリーズなどで有名な作家・海堂尊である。海堂尊氏は長きに渡り一部のノンフィクション作品を除き自著の電子化を一切してこなかったのだが2018年11月から段階的に講談社文庫などで過去作品の電子版を解禁するようになった。

 前述の通り宝島社は電子書籍に真っ向反対を貫いておりこれに伴う変なエピソードもある。宝島社は旧版が白泉社から出ていた魔夜峰央『翔んで埼玉』を2015年に復刻販売したのだが、電子書籍は出さないスタンスだったからか電子版の権利を取得せず、同作の電子復刻版は2016年に旧版を出していた白泉社から発売されることになった。この作品は2019年2月に映画が大ヒットして原作書籍も書店などで平積みされた。紙の書籍ももちろん売れただろうが電子版の売上は白泉社が稼いだ…ということになる。(電子版は330円でかなりお安い)
 海堂尊作品の電子化を聞いたときにまず思ったのは「チーム・バチスタシリーズを刊行している宝島社は電子化にOKを出すのか?」だった。海堂作品は順次全作品を電子化していく予定であるとのことで最悪チーム・バチスタの電子版は宝島社以外から出すなんて可能性もあるのかもと思っていた。
 結果はご存知の通り、宝島社が完全に折れるように電子書籍版を自ら出すことになった。『電子書籍の正体』から約9年。「電子書籍で儲かるは幻想」の鎖はついに解かれた。

 これにより宝島社は電子書籍版の刊行を積極的に行うこととなる。『異世界居酒屋のぶ』『響け!ユーフォニアム』『魔法少女育成計画』がいま電子書籍で読めるのはチーム・バチスタのおかげなので感謝しましょう。
 魔法少女育成計画も2019年6月に2年半ぶりの新刊・短編集「episodes:Δ」を刊行後8月下旬に既刊12冊を全て電子書籍でも発売開始。こちらの短編集は上述のとらのあなグッズセットの特典などでしか読めなかったレアな短編を多数再録しつつ新作短編も掲載されている。
 10月には新作長編「黒(ブラック)」も刊行。以降の新刊は紙&電子同時発売となる。上述の通りKL文庫は2016年末から2年以上に渡り新刊がなく書店ラノベコーナーからも消滅していたのだがまほいく新刊発売時には平積みなどできちんとラノベ新刊コーナーに並んでいた。こういうところは宝島社の営業努力が以下同文。

2020年~2021年 息は吹き返したが

 電子書籍が出たことで少しはマシになったが、まほいくを取り巻く環境は電子版が買えることでマイナスからゼロに戻っただけに過ぎなかった。原作の動きはそれなりにあったが対外的には大きな動きはない。
 2020年7月には外伝小説breakdownの連載が3年以上かかってようやく完結。この頃になると遠藤先生がどうもマルチタスクで執筆できるタイプではないことにオタクも気づき始めた(「黒」刊行が近かった2019年に猛烈にbreakdownの更新ペースが落ちた)のでそろそろ本編の新刊がまた出てくれることを期待した。
 2020年10月には作者・遠藤浅蜊先生がTwitterアカウントを開設。(2020年頭に帝都異世界レジスタンスも出してるけどまほいくと関係ないし肝心のソシャゲも結局出てないからこれについてはあまり言及しないでおく)
 2020年末にMacromediaのFlashがサポート終了に伴いWEB上でFlash系コンテンツの消滅or現行プラットフォームへの移植が行われたがまほいくもこれの影響を受けまくった。

 『スノーホワイト育成計画』という短編が存在する。2013年5月にこのラノ文庫編集部ブログにて発表された作品で概ね原作1巻と2&3巻restartの間の時系列に位置する。シリーズ通してのスノーホワイトの宿敵が初登場する、短編ではあるがシリーズにおいてかなり大きなウェイトを占めるエピソードである。
 こちらの書籍への収録は2014年に四六判で発売された原作1巻の四六判新装版『魔法少女育成計画 特別編集版』のみでこちらは電子書籍化されていない。つまり読む手段はこのブログ上で読むか中古で四六判を買うかである。そしてこの短編を読む際に使われているビューアはFlashが用いられていた。あとは分かるな?電子書籍化で新規への門戸が開いたと思ったら原作の重要エピソードが読めない状態が完成した。

 2021年には一度これについて自分が公式アカウントにリプライで問い合わせたが「移転公開を計画中」とのことだった。なお移転公開ではなく2022年発売の短編集『episodesΣ』に再録という形で電子版でも読める状態になった。

 2021年はbreakdownの書籍版が上下巻で発売。こちらは物理書籍版には読者公募魔法少女5人を豪華声優陣が声を当てたボイスドラマをDLするシリアルコードなどが付属。規模が小さいが5年ぶりにまほいくのメディアミックスが行われた。電子書籍版はこれらがない代わりに若干お安い。2021年は他に大きなニュースがない。本編の新刊も出ていない。

2022年 10周年-第2の神風:パチスロ-

 2022年2月には「黒」から2年5ヶ月ぶりとなる本編の新作「白(ホワイト)」が発売。4月にはアニメBlu-rayブックレット収録短編やスノーホワイト育成計画(スノ育)などの再録を含む短編集「episodes:Σ」を立て続けに発行。10周年イヤーと「次でスノーホワイトの物語は終わる」という張り詰めたムードがファンの間で出てきた。

 8月にはカルミナという遊技機メーカーがアニメ1作目の映像を用いたパチスロ化を発表。10月に稼働開始する。6年前にハイライツが青田買いしながら塩漬けしたまま放り投げられた版権を拾う神が現れた。

 社長が原作既刊を読み込んでいるファンでほとんど趣味でパチスロ化の企画を持ち込み「舞台化とかしたいくらい好き」とのことで、ちゃんとこういうところにファンがいたんだなぁと嬉しくなった。
 パチスロ稼働と同時にアニメ版の声優を含む豪華キャストによる朗読劇化が発表される。舞台じゃないけど本当に劇にしやがったよこの社長!?アニメ1作目の森ゴリラこと森の音楽家クラムベリーを主人公にした外伝作品と報じられ、2023年1月の日程も公開された。

 はじめに書いた通り原作10周年と緒方恵美さんの声優業30周年記念とが重なって実現したこの朗読劇。徐々に他のキャストも公開されていくとファンの目は輝いた。アニメ版の声優はもちろんのことツクルノモリから発売されたドラマCDの出演声優、breakdownで読者公募魔法少女を演じたかた、あとシンジといえばアスカの宮村優子さんなどが出演。クラムベリー以外は当時演じたキャラとは全く別のキャラクターを演じるとのことでそれはさながら劇団まほいくオールスターであった。

2023年 リスタート(再始動)

 2022年内に抽選チケットも無事に当選し、土日両日ダブルキャストを網羅できる形になったのだが観に行く際に思っていたのは「この豪華なキャスト……次の巻で原作が終わるのだろうからまほいく最後のどデカい同窓会かもな……」だった。自分は平日なせいで行けなかったのだが前日の金曜日には朗読劇前夜祭も開催。アニメ版の橋本監督ら主なスタッフも登壇したそうでいよいよ本当に同窓会だ!すべて終わる!と覚悟を決めていた。

 クラムベリー朗読劇の感想については当時のTwitterに書き散らしているので割愛する。ソフト化はされていないがオッドエンタテインメントの公式通販などで朗読劇のために原作者が書き下ろした小説や実際に使われた台本についてなどは購入可能です。
 初日観た際に劇場内で流れているボーカル楽曲が沼倉愛美さんの新規歌唱楽曲であることを知った際は素直に驚いた。まほいくアニメOP曲「叫べ」は沼倉愛美さんのソロアーティストデビュー曲で原作を読んでぬーさん自らが作詞した楽曲であった。2020年にはアーティスト活動を終了していたぬーさんが再び自ら作詞をした新曲「Lost Thing」を聴き「ああ……まほいく愛されてるんだな……いい終わりだな……」とか感慨にふけっていた。
 千秋楽で各キャストの挨拶が終わり、さぁ帰るか~となったところに最後に告知ムービー。魔法少女育成計画restartアニメ化決定の発表である。パチスロメーカー社長のパワーがアニメをリスタート(再始動)させた。

 10月には朗読劇第2弾『スノーホワイト育成計画』が上演された。

 こちらはアニメ1作目でスノーホワイトを演じた東山奈央さん、リップルを演じた沼倉愛美さんが7年ぶりに当時のキャラを演じることとなった。こちらもTwitterでいっぱい感想書いたので詳しいことはあまり書かない。
 千秋楽の挨拶のぬーさんの「リップル役の沼倉愛美です。本当に、本日はありがとうございました……こう名乗る日が、また来るなんてという気持ちでいっぱいです」と東山奈央さんの「7年の時を経て、帰ってくることができました」で胸がいっぱいだった。マジで客席でボロボロに泣いた。隣の知らないオタクも泣いていた。
 あとは日曜日にブルーコメットを演じた日高里菜さん(2015年のドラマCDでは袋井魔梨華、2016年のアニメ版ではハードゴア・アリスを演じた)がアニメ版の頃は言及しなかったドラマCD版についてコメントしたのも少し嬉しかったね。
 こちらの朗読劇は3月中旬にBlu-rayが発売される。オッドの公式通販以外にゲーマーズでも販売するそうなのでアニメ版の続きを声つきで楽しみたい方は是非。
 朗読劇第2弾ではアニメの続報や次の朗読劇の告知が行われるなどした。そしてその朗読劇が2024年3月16&17日に行われることになる。アニメ制作中の2作目・restart及びスノーホワイトと並んでシリーズを牽引してきた2人の魔法少女の過去が描かれる……らしいよ。

終わりに

 いかがでしたか?魔法少女育成計画は7年前にアニメ1作目が終わってからいろんなことがあったのです。特に2017年後半~2019年前半は個人的に地獄だった。正直思い出したくない2年間である。他にも細かい出来事はあるんですが、今回は特にキツかった時期とその出来事について言及している。魔法少女ザ・デュエルのコラボとかは特に思うことがないのでなんも書いていない。カードは集めたが……
 まほいく興味ないオタクにも留めておいてほしいのは「ラノベ業界においてアニメ化は強いメディアミックスの一つだが、アニメが跳ねずにコケた際に出版社のパワーが弱かったり舵取りが下手くそすぎるとファンは冷や飯を食わされる事になったりする」「パチンコ・スロット化は時に神風を起こす」である。

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