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私の香水との付き合い方

 中学生の頃位から、ずっと香水好きとして生きてきたが、折々で香水との付き合い方は変わってきた。その変化は、例えば働き始めて収入が増えたとか、出産・乳幼児育児中とか、自分側の事情が影響していることもあれば、香水市場側の事情が影響している場合もある。

 例えば、自分が10代の頃は、香水のミニボトルが雑貨店や量販店等で売られていたし、ブランドもミニボトルセットを積極的に出していたと思う。そういった製品は、今でも売られているのを目にすることはあるが、全盛期の頃(いつが全盛期なのかははっきりしないが)より数は断然減っていると思う。

 ああいったミニボトルセットは、様々な香りを知りたいが金銭的余裕は無いという、学生時代には非常にありがたかった。というのは、香水好きの友達とお金を出し合って山分けするなんていうことができたからだ。分ける前に、お互い全ての香りを試したので、香りの経験値が増えた。また、お土産でミニボトルセットをもらってきた親が、「私は使わないから」と何本かくれたこともあった。私は、そういうミニボトルセットによって、資生堂のアンジェリークや、エスティローダーのビューティフルやノウイング等の、いかにも大人の女性に似合いそうな香り(今の時代は、年齢やジェンダーによってではなく、香りを纏う人本人が求める香りを纏えばいいという考えが主流だと思われるが、私の学生時代は、そうではなかったように思う)を知ることができた。「いつかはこんな、濃厚でしっとりとした香りが無理なく似合う大人になりたい。そんな大人の女性になれたら、ボトルを買おう」なんて思っていた。その頃は、これらの香りが作られなくなってしまう未来が来ることは知らなかったのだ。

 「自分がこの香りを使いこなせるようになったら」「香りに見合う人間になれたら」なんてのんびり構えているうちに、その香りが市場から消えてしまう、販売終了になってしまうという経験を何度かした20代を経て、30代以降の自分は、試してみてピンときた香りは購入するということを心がけてきた。

 そして、今現在、香水に限った話ではないが、あらゆる商品が値上がりしており、香水に割けるいわゆる趣味代を減らさざるをえなくなっている。そして、香水一本の値段が、気軽に手に取れるものではなくなっている。最早、私にとってはだが、「ピンときた香り」が全て購入できる時代ではなくなった。正直なところ、そのことについては、溜息を禁じ得ない。

 一方で、これを機に、自分と香水との付き合いを再考しようと思った。というのは、以前から、自分の香水の買い方にそこはかとない違和感を抱いていたからだ。香りを試してみて、ピンとくる。「素敵な香り!これ買います」となる。購入する。その時点が、その香りと私の関係のクライマックスになっている。人間関係で例えると、プロポーズされるとか、入籍するとか、結婚式を挙げるとか。そこがクライマックスで、そこから先は下降線。

 最近、自分がやったことで、これは酷いなと思ったことがあった。実家の親が、「これ、あんたが置いてった物だよ」と数々のがらくたが入った紙袋を渡してきたが、その中に、某有名ブランドの人気香水があった。それは何と、封すら開けられていなかった。
 愕然として、おぼつかない記憶を辿ったところ、10年以上前に、「限定で少量サイズが出たので、良かったら」とカウンターで紹介されたことを思い出した。見た目が可愛いボトルなので、このサイズだと更にかわいい!しかも限定!ということで、飛びついたのだと思う。が、結果はこれだ。10年以上、封すら開けられず放置されていたという…。

 そういう買い方をする人を批判する気は更々無いが、自分自身はもう、こんな時代に「買って満足」「購入した時点がクライマックス」という買い方はしたくない。買ったところから関係が始まって、大切に惜しみなく使い込んでいって、その香りと過ごす時間と思い出を重ねて、関係を深めていく、そういう物との付き合い方がしたい。

 そんな自分の最近の具体的な香水との付き合い方は、サンプルが用意されているものに関しては、まずはサンプルと付き合ってみるというやり方だ。サンプルを試してみて、1回で「こういう香りですか。分かりました」と満足してしまうものもある。そういうものは、現品購入にはいたらない。香水は、付け方によって香りの印象が違ってくることもあり、サンプルのスプレーと現品のスプレーが異なると、「あれ?何か違うな」となることもあるのだが、サンプルで「あ、これ良いな。もっとこの香りを知りたい」と思ったものは、そして、サンプルを使い切ってしばらくした時に、「ああ、あの香りが恋しいなぁ」としみじみ思った香りは、まず現品を買って後悔はしない。

 香水の値段が高くなったことにより、気軽に新しい香りを試し辛くなった。そのことは残念ではあるが、その分、手元に迎えた香水との関係が、より親密なものになった。下手なアバンチュールには手を出せなくなった分、一つ一つの関係に、しっかりエネルギーを注ぐとでも言ったらいいのか。そういう香水との付き合い方にならざるをえなくなったことには、感謝している。

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