【#NPB】プロの記者の目が選ぶ「シーズンMVP」って何?

     NPBの2020年レギュラーシーズンの「最優秀選手」が12月17日、発表された。選出されたのは、セ・リーグがジャイアンツの菅野智之、パ・リーグがホークスの柳田悠岐であった。
 NPBにおける「最優秀選手」という表彰は、かつては、1937年秋から1962年のシーズンまでは「最高殊勲選手」というのが正式名称だったが、翌1963年から「最優秀選手」という名称に変更になった。米国のMLBでも、”Most Valuable Player(最も価値ある選手)”をリーグ毎に選出し、略してMVPと言われていることから、日本のNPBでも俗称として定着している。

 NPBの「最優秀選手」の表彰選手は以下の要領で選出される。

・選出は記者投票によって行われる。
・投票資格を持つ記者は全国の新聞、通信、放送各社に所属しており5年以上プロ野球を担当している者。
・投票用紙に3名を連記し、1位に5点、2位に3点、3位に1点のポイントが振り分けられ、その合計値が最も高い選手が選出される。

しかしながら、この「最優秀選手」という表彰の記者投票の制度について、毎年、私は疑念を拭い去れない。
 そして、今年も、セ・リーグの投票結果を見て驚いた。
 私は毎年、自分なりに両リーグのMVPを選んでいる。そして、今年、私がセ・リーグのMVPに選んだ選手の得票数を確認してみると、、、たったの「3点」だった。しかも、セ・リーグMVPの有効投票数は313、すなわち、313人の記者のうち、3位票を入れた記者がたった3人しかいないということだ。
 それは、スワローズの村上宗隆である。

 スワローズの村上宗隆はプロ入り3年目、20歳で迎えた今年、さらなる飛躍を見せた。今季は120試合、2年連続となる全試合出場で、しかも、すべて4番で出場した。これはスワローズの歴史では日本人選手としては初の快挙である。今季はシーズン短縮で試合数が減少したこともあり、本塁打は昨年のプロ2年目の36本から28本に減り、打点も96打点から86打点に減ったが、いずれもジャイアンツの岡本和真(31本塁打、97打点)に次ぐリーグ2位。打率は昨年の.231から大幅に上昇して.307でリーグ5位、出塁率は昨年の.332から.427へ大幅に上昇させたことで、NPB最年少となる「最高出塁率」のタイトルを獲得、長打率も昨年の.481から.585に大幅に上昇し、やはりリーグトップ。したがって、出塁率と長打率を足したOPSも1.012で勿論、リーグトップ。四球87、得点圏打率.352もリーグトップである。村上はセ・リーグの「ベストナイン」の一塁手部門では見事、トップの票数を集めて選出された。20歳のシーズンでベストナインに選出されるのは、村上がNPB史上6人目となった。1940年の川上哲治(巨人)、1953年の中西太(西鉄)、1956年の榎本喜八(毎日)、1960年の張本勲(東映)、1967年の藤田平(阪神)と錚々たる一流プレイヤーの仲間入りをした。

 しかしながら、村上がこれだけの打撃成績を残しておきながら、セ・リーグの「最優秀選手」の投票で3位票が3人しか入らないというのはどういうことだろうか。

 NPBにおける「最優秀選手」の選出について、巷間、言われてきたのが、「最優秀選手は、リーグ優勝のチームから選ぶという不文律がある」ということだ。
 NPBのMVPの歴史を紐解くと、実は1950年に2リーグ分裂後以降、「最高殊勲選手」の投票にあたっては「原則として優勝チームから選ぶ」という条項が設定されていたのである。1963年に「最優秀選手」に改められ、同時に3名連記制に変更になると同時に、上記の条項は削除されている。
 しかしながら、実際、2リーグ制が1950年に始まって以来、セ・リーグで優勝チーム以外からMVPが選出されたケースは3回しかない。1964年、1974年の王貞治と、2013年のウラジミール・バレンティンだけである。1964年の王は、打撃三冠王こその逃したが、NPBシーズン最多本塁打記録となる55本塁打を記録した。1974年は、三冠王で受賞した。2013年のバレンティンは言うまでも、1964年の王のNPB最多本塁打記録を抜く、シーズン60本塁打が評価されたものだろう(一方、パ・リーグでは過去、8度ある)。
 要するに、この60年近く、MVPの受賞の傾向を見ていると、かつてのルールが不文律となって残っているかのようである。これでは、「最優秀選手」の看板に偽りありではないか。しかも、仮に「リーグ優勝に貢献した選手」を選ぶのであれば、3名連記にする必要もない。

 しかも、私が訝しく思うのは、ドラゴンズの大野雄大に1位票が17、2位票が39、3位票が101も入っており、総合ではジャイアンツの菅野智之、岡本和真に次いで3位に入っている点だ。確かに、今年の大野雄大は目覚ましい活躍だったことは誰もが認めるところだ。防御率1.82、10完投、6完封、148奪三振はリーグトップ。5試合連続完投勝利はチームタイ記録、連続イニング45回を無失点はチーム新記録。大野はベストナインの投手部門の受賞こそ菅野に譲ったが、沢村賞を受賞した。だから、大野にMVPの投票が集まること自体は、私にも何の異存はない。

 しかし、MVP投票で大野雄大にこれだけの票が集まるのであれば、村上にもっと得票があってもよいと思うのだ。投手と野手を同じ物差しで測ることは難しく、プレイヤー間の相対的な「価値(value)」を決めるのは容易ではないので、大野と村上のプレイヤーとしての評価を決めるのは難しいのは承知の上だが、それにしても、村上に対して、3位票が3人だけではあまりにさびしすぎるし、記者たちがどういう評価基準で投票したのか、明らかにしてもらいたいと思った。村上の所属するスワローズは2年連続の最下位に沈んだが、「最優秀選手」を選ぶのだから、チームの成績は本来、無関係なはずである。

 しかも、さらに残念なのは3位票に、「該当者なし」が22人もいるのである。想像してみると、おそらく、この記者たちは、MVPは「優勝したチームから選出されるもの」と思っていたのではないだろうか。確かに、今年優勝したジャイアンツを見ると、リーグ優勝に貢献した選手を3人、選べというとなかなか難しい。成績でいえば、14勝を挙げた菅野、打撃二冠王の岡本は妥当だが、3位は坂本勇人ということになった。実際、その他は丸佳浩が2位票が3人、3位票が43人、戸郷、中川、高梨に3位票が1票づつ入っている。
そもそも、「セ・リーグで最も優秀な選手を3人、選んでください」と指定されているのに、3番目が「該当者なし」というのは、到底、納得がいかない。
 結局のところ、MVPに投票する記者の中には、MVPを「リーグ優勝に貢献した選手」と考えている者と、「個人として優秀な成績を収めた選手」と考えている者が混在しており、かつ、後者であっても自身の投票行動に、「チームの順位」というバイアスをかけているということになる。投票権を持った記者たちの一部が、「最優秀選手」の意味を理解していないのではないか、ということになる。


 NPBとしても、投票する記者も、いまさらこの不文律を是正するつもりはないのかもしれないが、私からすれば、ダメなところをアップデートできない野球界の象徴のように感じる。尚、MLBのMVP選出は、全米野球記者協会(Baseball Writers Association of America:BBWAA)に所属する記者30名の投票によって行われる。NPBとは異なる点は、投票権のある記者は、1位から10位までの選手を順位付けし、その投票の結果は受賞者の他、投票を得た選手の得票数は勿論、投票に参加した記者の氏名と所属メディアの名前、どの記者がどの選手に投票したかまで公開され、それらは全米野球記者協会の公式サイトで閲覧することが可能である。MLBファンに対して、記者の説明責任と投票の透明性を担保しているのである。
 NPBの表彰における記者投票も、「プレイヤー・ファースト」で考えていただきたい。


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