九里亜蓮(広島)、今季12勝目、史上初の「〇〇〇最下位の最多勝」を回避できるか?

広島カープの九里亜蓮が、悲願の初タイトルに夢を繋いだ。

10月12日のDeNA戦、今季22試合目の先発登板となった九里亜蓮は3回で四球一つ、無安打という投球内容。4回、5番の宮崎敏郎にレフトへの二塁打を浴びたが、無失点に封じた。
すると、打撃陣も好調の鈴木誠也が4回にタイムリー二塁打で1-0と先制。
九里は5回、6回、7回と許した走者はエラーの一人だけで、7回まで許した安打1本だけと素晴らしい投球を見せる。
8回、鈴木誠也が34号2ランホームランで3-0とリードを広げると、9回は栗林良吏が締めた。
これでカープは6連勝。九里亜蓮には今季12勝目(7敗)、栗林良吏には、NPB新人2位となる32セーブ目が記録された。4位のカープは3位・巨人まであと5ゲーム差と迫っている。巨人は目下、7連敗中と絶不調に陥っており、逆転のCS進出も夢ではなくなってきた。

九里は5月19日の巨人戦(東京ドーム)で今季初完投勝利となる5勝目を挙げたが、その後、新型コロナウィルス陽性の判定を受け、戦線離脱を余儀なくされた。約1か月後、交流戦の最終戦となった6月16日の日本ハム戦(マツダスタジアム)で復帰登板を果たし、そこから再び先発ローテーションでフル回転した。7月10日には、1軍登録日数が7年に達し、国内フリーエージェント(FA)権を取得した。9月29日の阪神戦(甲子園)では、今季10勝目を挙げ、プロ8年目にして初の二桁勝利に到達した。

九里は開幕から離脱するまでは8試合で5勝3敗、防御率3.00と好調だったが、復帰してからこの試合に登板するまで先発した13試合で、6勝4敗と勝ち越したものの、防御率5.17と投球内容は今一つだった。
しかし、この日は7回、被安打1、無失点と好投したため、シーズンの防御率は3.99とようやく4点台を割った。

セ・リーグの最多勝争いでは、この日、阪神の青柳晃洋も12勝目を挙げ、九里と並んでいる。さらに、1勝差の11勝で高橋優貴(巨人)、柳裕也(中日)が控えており、まだ混沌としている。

ここで注目は、九里の投球回数である。九里はシーズン途中、離脱しているため、登板数はすべて先発の22試合、投球回が130回2/3であり、規定投球回数(132回)に達していない。

NPBの歴史では、シーズンの規定投球回数に未達でリーグ最多勝のタイトルを獲得した投手はこれまで、3人いる。

1988年 伊東昭光(ヤクルト)
2005年 下柳剛(阪神)
2020年 石川柊太(ソフトバンク)

ただし、伊東昭光はプロ2年目の1987年、先発で14勝を挙げたが、翌1988年、リリーフに転向、55試合すべてに救援で登板し、18勝9敗17セーブ、防御率3.15という大車輪の活躍であり、5位に終わったチーム58勝の約1/3強を一人で稼いだ。伊東の投球回数は122回2/3と、規定投球回数には7回1/3、不足していたが、先発投手の小松辰雄(中日)と並び17勝で最多勝のタイトルを獲得した。

2005年、37歳の下柳剛は24試合すべてに先発、15勝3敗、防御率2.99という成績を挙げて、阪神の2年ぶりのリーグ優勝に貢献したが、6回前後で降板することが多く、投球回数は132回1/3とそのシーズンの規定投球回数(140回)にわずかに届かなかった。それでも、自身最初で最後の投手タイトルとなる最多勝を黒田博樹(広島)と並んで獲得しており、37歳での最多勝獲得はいまだにNPB最高齢の記録となっている。

2020年の石川柊太は18試合の登板(先発17試合、救援1試合)で111回2/3を投げ、防御率は2.42。規定投球回数の120回に届かなかったが、シーズン最終登板で11勝目(3敗)を挙げ、同僚の千賀晃大、涌井秀章(楽天)とタイトルを分け合っている。石川はソフトバンクの3年ぶりのリーグ優勝に貢献すると同時に、東京都立高校出身の投手として初めて投手タイトルを獲得した。

広島は残り11試合あるため、九里の先発はあと最大3試合ほど残されているとみられる。早い回でのノックアウトさえなければ、規定投球回数である143回には到達できる見込みだが、そうなると次の問題は「防御率」である。

九里の防御率3.99は規定投球回数に達していないため、現時点でセ・リーグ投手の防御率のランキングに名前が載ることはないが、これはセ・リーグで規定投球回数に達している8人のうち、8位の戸郷翔征(巨人)の3.91よりも悪いため、実質、「リーグ最下位」である。
もし、九里亜蓮が最多勝のタイトルを獲得して、さらに規定投球回数に達した投手の中で防御率が最も悪い数字となると、NPBの歴史で史上初の「珍事」となる。

これまで規定投球回に達した投手で防御率のランキングが最も低かったのは、2人である。

1966年 米田哲也(阪急)25勝17敗 防御率3.19(19位/20人中)
2018年 多和田真三郎(西武)16勝5敗 防御率3.81(8位/9人中)

1966年、阪急ブレーブスの米田哲也は、リーグ最多の310回を投げ、25勝17敗で自身初の最多勝のタイトルを獲得したが、防御率3.19は、パ・リーグで規定投球回に達した20人の投手のうち、19位であった。パ・リーグの3割打者は、首位打者の榎本喜八(.351)、2位の張本勲(.330)、3位の野村克也(.312)の3人だけで、典型的な「投高打低」の時代であった。

西武の多和田真三郎は2018年、「山賊打線」と呼ばれた西武ライオンズの強力打線をバックに16勝を挙げ、最多勝を挙げた。西武のチーム防御率は4.24、653失点とリーグ最下位だが、攻撃陣は打率.274、792得点と断トツのリーグトップのでリーグ優勝を果たした。

また、仮に九里が防御率リーグ最下位を回避できても、「歴代の最多勝投手の中で防御率がもっとも悪かった投手」になる可能性もまだ残されている。
投手の防御率は時代やシーズンによって比較が難しいので、必ずしも比較が妥当とはいえないが、「防御率4点台のリーグ最多勝投手」はかつて一人しか存在したことがない。

1985年 佐藤義則(阪急)21勝11敗 防御率4.29

ただ、この年、佐藤義則の防御率4.29は、パ・リーグで規定投球回数に達した投手23人の中では10位で、防御率4点以下の投手は4人しかおらず、そこまで悪いとはいえなかった。
もし九里が「防御率4点台でリーグ最多勝」となれば、佐藤以来、36年ぶりの珍事であり、セ・リーグでは初である。

「防御率が悪い最多勝投手」は生まれる背景は、かつては「打高投低」が理由であったが、現在ではNPBでも投手分業がすっかり確立され、ここ数年、規定投球回に達する先発投手が激減しているが故に起きうる珍事ともいえる。

今季の九里が勝ち星に恵まれているのは、援護点が高いこともある。今季、これまで1試合に換算して5.37点と、十分な援護をもらっているというラッキーな要因も否めない。

だが、昨シーズンまでの九里は3年連続でほぼ先発の柱として登板しており、特に昨シーズンはプロ7年目にして初の規定投球回数に達して、防御率2.96、リーグ5位を記録している。
今季も新型コロナウィルス陽性による離脱以外は先発ローテーションを守っており、九里のこの5年間での先発登板数93試合は、ドラフト同期入団の大瀬良大地の107試合に次いで多い。
防御率が悪くても勝ち星を挙げる先発投手は、粘投の結果ともいえる。

九里はあと1勝で通算50勝の節目を迎え、さらに、今季13勝以上を挙げれば、他の投手の動向次第で、「勝率第一位投手」のタイトルも見えてくる。

九里は自身初の投手タイトルを目指すと同時に、「防御率リーグ最下位の投手がリーグ最多勝」という事態を回避すべく、胸を張ってシーズンを終えられるよう、残り試合の登板でさらなる好投を期待したい。

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