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すべてはfeeling/コンセプトアート学 色と光の演出 イベントレポート

こんにちは、けはいです🕊

先日、新宿で行われた『コンセプトアート学 色と光の演出』に行ってきました。このセミナーにはずーっと行きたくて行きたくて…受付開始日に即チケットをGET!行きたかった理由はもちろん堤大介さんのお話を直接聞けるという、またとない機会のため!

堤さんと言えば、ピクサーでも活躍されていた日本を代表するアートディレクター。今回は自分のメモ整理も兼ね、イベントレポートをまとめようと思います。


1.光と影で観る映画

作品作りの際、参考の収集は欠かせません。とくに堤さんは映画のカットシーンを参考にすることが多いらしく「アニメーションは色も光も0から考えるのでコントロールが大変。映画は役者やアイテムの力を借り、ライティングにこだわっているものが多いのでとても役立つ」と言っていました。今回はその中でもおすすめ映画のライティングについて、いくつか聞くことができました。


1-1. 主役が引き立つ光

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映画『つぐない(2007)』のワンシーン。この場面では複数の人物が立っていますが、その人々に正面から当たるライティングはほぼ差がありません…それなのに中央の人物が際立って見える。

これは中央の人物の背景を明るくし、シルエットを強調することで、その人物の存在感を引き立てているそう。顔が見えなくても彼女が『主役』とわかる演出になっています。


1-2. 背景のコントラストで役者が引き立つ

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こちらも映画『つぐない(2007)』より。このシーンでは少女の感情、つまり役者さんの『表情の演技』がポイントになっています。それを引き立たせるため、背景に明暗(コントラスト)をつけ、表情がはっきり見えるライティングにされているのがわかります。たしかに背景が全体的に明るかった場合、顔の半分はその明るさに溶け込んで見えづらくなりそうですね。


1-3. まるで演劇!美しいカメラワーク

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(こちらはライティングの話ではないのですが)続いては、私の大好きな映画『グランド・ブダペスト・ホテル(2014)』!この映画はストーリーや演技、細部の美術も含め、まるで演劇を見ているような感覚になります。

ですが、『演劇を見ている』ように見える理由はそれだけではなく、実はカメラワークにも工夫が施されていました。その工夫とは、全てが実際の舞台構図のように中央を基準にしたものになっているそうです。

言われてみれば演劇の舞台は部屋全体をそのまま置いたり、お城もセンターにどんっと建っていたりして、ほとんどが中央の構図です。しかし、通常の映画ではあまり見たことがありません。そういう意味でも、この映画は細部までこだわり、多くの人から愛される作品になっているのだと思いました。


1-4. これを見ただけで「もう観たい!」

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続いては誰もが知っている映画『E.T.(1982)』。シルエットを見ただけで何かわかるって本当にすごいことで…私の絵がどんなに雑でも、この絵は『E.T.』と言い切れるほど、この場面のインパクトは恐ろしい出来です。(さすがスピルバーグ監督)

前に何かのラジオで、歌手の『Perfume』もシルエット(髪型)を大事にしていると言っていました。とくに印象に残っているのは「シルエット(髪型)はアイコンで、誰でも覚えやすい」という話。見ただけでユーザーがドキドキワクワクするそんな効果を出すことができるシルエットは、デザインでいうシンプルと同じ、研ぎ澄まされた表現だと改めて感じました。


1-5. ミステリーは画面で演出できる

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これを最初に聞いたときは「ストーリー以外で表現できるの?」と正直半信半疑だったのですが、たしかにこのシーンはミステリーで溢れてます。こちらも映画『E.T.(1982)』より。

隙間から光が差し込み、扉は影で暗く、手の動き一つとっても想像力が働くシーンになっています。スピルバーグ監督の映画では、シルエットやこのような印象的なカットが多いらしく、ストーリーもですが、場面の見せ方でも人を魅了するために色々な工夫がされてるのだなと思いました。


2.作品作りで大切にしていること

2-1. feeling

・プロット
・キャラクターデザイン
・背景
・照明
・色彩…服や小物もですが、画面全体的なという意味
・音響
・音楽

上記は大まかなアニメーションの仕事になります。しかし、堤さんからココで名言「大切なのはユーザーの感情の動きで、これらは手段にすぎない」。つい制作が進むにつれ忘れがちですが、まさにその通りですよね。

ユーザーにどんな気持ちになって欲しいか…堤さんは、とにかくfeelingを大切にしているらしく、映画『リメンバー・ミー(2017)』作成中も主題歌を聞きながら、ユーザーにどういう気持ちを受け取って欲しいか考え作業していたそうです。

また、先日行われたキングコングの西野さんとの対談を振り返り『ユーザーへのリスペクト』もfeelingには欠かせないと話していました。(西野さんのユーザーに対する考えが本当にすごいと絶賛されていました!私もそのセミナー聞きたかった 泣)


2-2. 世界観設計プロセス

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こちらはロバート・コンドウさんのセミナーでも話されていた世界観設計プロセス。世界観を伝えるためのアートボードを描くのに必要な項目…と言ったところでしょうか。

・READING…シーンに必要な実用的要素を言語化
・WRITING…情景とパーソナルなコネクションを作る
・LOOKING…資料集めとリサーチ
・DRAWING…描く

すでに見出しの画像で書いているのですが、プロでも(むしろプロだからこそ)描く前の資料集めは時間をかけるそう。一番大切なのは前でも話したfeeling。それを、ユーザーはもちろん、チームの仲間に伝えるためにも描く前の準備は欠かせません。(それに、アーティストとしてはやっぱりドローイングが一番楽しいので、そこで躓かないためにも資料集めはしっかりするらしいです。)


2-3. 資料集め

セミナーの中で、とても印象に残っている堤さんのお話があります。「写真を撮るのもいいが、匂いや風、光など自分が感じたことをユーザーにも感じてもらえるように絵で表現する」

資料を集める際、写真を撮ることばかりに集中しがちですが、その時自分が感じた感情もメモし、イラストに反映させる…それが本当に伝えたかったことを表現するということだなと、はっとさせられました。


3.Q&A

3-1. 怒涛の質問ラッシュ

堤さんが作業工程を見せてくれる間、ひたすら質問に答えてくれるという夢のような時間がありました!質問数も多かったのでこちらはさっくりまとめていきます。(すべてメモできなかったので、どなたか補足あればコメントお願いします)

Q. 普段人物ばかり書いていてアイディアが出てこない
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A. まずは興味があることをやってみる。興味があるものをたくさん見て、それに引っ張られるときがやってみよう!とか勉強しよう!とかどんどんできるとき。
Q. 以前の『エクスポーズ』の話をもう一度聞きたい
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A. 『エクスポーズ』とは『露出度』のこと。どこにエクスポーズするのが良いか?暗いから明るくする…ではなく、どんよりした気持ちなら暗い画面でもいいのではないか?など、感情に合わせ露出度を調整する。
Q. なぜトン活では生卵を薄暗い部屋で描いているのか
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A. 薄暗い部屋は『オーバーキャストライティング』といい、直射光は単純で描きやすいので、さきに自然光をマスターするため、間接的にソフトな色でかける自然光のある室内で描いていた。卵を題材にしたのは『トランスルーセント』、光が中に入ってたまるので色々な表情の絵が描けるから(手を太陽にかざし赤く見えるときのようなイメージ)。
Q.  影と光の間にあるオレンジの淡い光はなに
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A. ※解説していただいたので作業工程の方に記載します※
Q. パレットが汚く色が濁る、綺麗に使う方法はあるか
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A. パレットは汚くてもいいが、とにかく筆を綺麗にすること!前の色が残っているとその色と混ざり汚くなる。筆は常にタオルなどで拭き、前の色を残さない。
Q. 普段はどんなレイヤー効果を使っているか
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A. 基本的には通常またはオーバーレイ。
Q. チームで作る際気持ちのいいコミュニケーションで心掛けていること
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A. 1番はとにかく『なぜそれが大事か』を伝える。まわりと自分の認識があっていれば、その中で自身の能力を発揮して自由に動くことが出来る(周りが自分で決断できる)何のためにやっているかわからなくならないのが大切!なぜをきちんと伝え、みんながわかっている状態で働くのがベスト!
Q. 参考の写真のライティングはそのまま使うか
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A. 使う場合もあるが、自分のドンピシャなものはそうそうない。なので結構変えることが多い。
Q. 自然光で絵を描くとき、なかなか立体感が出ない
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A. 資料集めでインスピレーションを受けてうまくいく場合が多い。あとは練習あるのみ!描けるまで積み重ね。ズームアウトして全体の雰囲気みるのもすごく大切。
Q. トイ・ストーリーのゴミ処理場見学は臭かったという話だが、それをどう絵に表現したか
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A. 基本はキャラの表情に表したので、アニメーターと話しあった(もちろん見学にアニメーターも一緒にいった)。光としては、嫌悪感を意識するようにしていた。このような感じで、事前にアニメーターと話すことも多い。
例えばすごく光が眩しいシーンなのに背景がキラキラで、でもキャラはそんなに眩しそうじゃない…ってなるとよくないので。
Q. たくさんの色を使うと画面の色が散らかってしまう
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A. 明暗を間違えないこと!そうすれば基本的にはまとまる。あとは色を使いすぎない…やっぱりシンプルがベスト!アクセントカラーなどでカラフルに見せる。
Q. 明暗を付けるときカラーから?明暗から?
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A. どっちもやるが、わからなくなったらカラーから。
Q. 影の色はどう決めているのか
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A. 資料集め、観察が大事。
Q. ブラシは何を使っているか
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A. オリジナルブラシ。(こちらは参加者限定で配布してもらいました!)
Q. テクスチャは何かのせているか
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A. スキャンしたテクスチャをオーバーレイで乗せている!
Q. 人から注意されてイライラするときはあるか
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A. 客観的意見は大事。相手も意地悪ではなく助けようとしてくれている。
どうしてもストレスな時は他のことをして息抜き。
Q. 自分のfeelingを伝えたり、相手のfeelingを聞く際、どうやって伝えているか
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A. 共通語で工夫して伝える。チャートや、文、イラスト…チームに合ったものを選ぶ。
Q. 作成中のものに自分のfeeling(ここでは新しい案的な)を追加したくなったら途中でも入れるか
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A. 先ほど話した『何が大事か』がぶれなければ大丈夫。それを意識して、入れるか入れないか決める。
Q. 意思疎通が不得意なのですがなにかアドバイスがあれば
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A. コミュニケーションはトライ&エラー。空気が読めない…とかは、相手の気持ちに興味を持つことを心掛けている


4.作業工程

最後に、堤さんの作業工程を生で見ることができたのですが…2時間みっちりだったので、すべて余すことなく見たい方は、後日動画配信予定とのことなのでそちらで!

今回はその中でも私的に気になった部分のみ抜粋して、少し書きとめています。


4-1. Q 影と光の間にあるオレンジの淡い光はなに

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堤さんにあったら是非聞きたいと思っていたことがあり、今回そちらの質問に答えていただくことが出来ました!(やったー!)

ということで、結論から言いますとこの光はA.太陽の光だそう。下記で作り方を軽く解説。

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まず、キャラクターと影を描きます。

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太陽の位置を決め、『色相・彩度』でキャラに光を当てます。

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そして、もう一つ『色相・彩度』を用意し、全体に光を当てたら

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マスクで、地面と影の境界線以外を消します。

この際、影に被っている部分がA.太陽の光として色が付くそう。逆に地面には影がないので人の目には白く見えます。

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さらに、空の青を反射させるとより雰囲気が出ていいよというお話でした!(解説付きで質問に答えていただきありがとうございます!)


4-2. 色相・彩度で陰影

みなさん、イラストに影や光を入れる際どんな方法でいれていますか?
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よくある、乗算で影を入れる方法?


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それとも、自分のお気に入りの色(カラーパレット)を影に使う方法?


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堤さんの作業工程で一番衝撃を受けたのが、『色相・彩度』にマスクをつけ影やハイライトを入れる方法で作画していたことです!

「え、たしかに合理的だけど思いつかなかった!」というのが正直な感想。私は②の好きな色で影を入れることが多いのですが、これだと背景やキャラの影の彩度(明暗)の具合が変わってしまって、立体感が出ないのが悩みだったんですよね…。

でも、『色相・彩度』で一気にいじってしまえば、影色はベースカラーに依存し、彩度は変わらないのです。(ちょっと説明がうまくできなかったので、詳しくはセミナーの動画か、イラストレーターのア・メリカさんも同じ描き方でしたので下記を参考にするといいかもです!)


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また、それぞれにメリットやデメリットもあると思うので、自分にあったやり方を見つけられるといいと思います!


4-3. 1つ1つシルエットをとる

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こちらはよくある下塗りの話ですが、下塗りする理由について、あまり考えたことなかった内容だったので紹介したいと思います。

『シルエットをとって下塗りする』といいことは、レイヤーロックまたはクリッピングマスクを使用すれば、そのシルエットからはみ出さず塗れるということですね。

堤さんはこの、シルエットありの場合のメリットは「はみ出しを気にしないので筆のストロークが汚くならない」と言っていました。たしかに気にしないので塗り跡がゴワゴワしないんです…試しにシルエットなしでも着彩してみたのですがゴワゴワになりました(笑)


あとがき

たっぷりの3時間。それを文字に書き起こすとこんなボリューミーになるとは。短く短くポイントで、と心がけたのですが長くなってしまいすみません(笑)

セミナーを開催してくれた堤さん!トンコハウスの方々!スタッフの皆さん!本当にありがとうございました!とても有意義な時間で、今回の刺激は私のstorytellingのエピソードになると思います!

セミナーのあともサイン会まで開いていただき…憧れの堤さんのサインいただいてしまいました!本当に大満足な1日です。

今回のトンコハウス映画祭の活動を通して、いつかこの企画に関わった方々とお仕事ができたら楽しそうだなと淡い夢を抱いきました…なので、それまでにfeelingを大切にし精進しようと思います!

ということで、長くなりましたがこの辺で!ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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