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テート美術館展 光 ー ターナー、印象派から現代へ

行っていたのにレビューを書いていなかった展覧会、シリーズ第4弾。2023年夏に国立新美術館で開催されていた「テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ」です。


光をテーマにしたテートの海外巡回展

だいぶ昔だけれどロンドンのテートには2度ほど行ったことがあるし、美術館の名前を冠した所蔵品展にあまり興味が持てない方なんですけれど… どうして行くことにしたのか、もう思い出せない😅

鑑賞してから知ったのは、英語タイトルが "LIGHT : Works from the Tate Collection"と付いているように、「光」をテーマにして所蔵品を再構成した、テートの国際巡回展だったということです。

確かにターナー(Joseph Mallord William Turner)の割合は多かったけれど、印象派と現代が殊更強調されているわけでもなく、18世紀以降、今に至るまでの200年のアートシーンで、光というものがどう解釈され、表現され、作品に影響を及ぼしたのかを約120点のテートの所蔵品で示すという内容で、本当にきちんとした美術展でした。

著名な海外美術館の名前を筆頭に、印象派と現代アートをタイトルに入れておけば集客できるんじゃないか、っていう主催者側の意図なんでしょうけれど、見誤りますよね。

緩やかな時系列展示と7つの章

展覧会は、18世紀に活躍したイギリス人画家から始まり、最後はオラファー・エリアソンに至る、基本的には時系列の展示なんですが、それよりも7つの各章のテーマ毎の作品紹介が重視されるので、多少時代が前後することがあります。

ロマン主義絵画の中にラファエル前派の作品や、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)という現代アーティストの彫刻が紛れ込むとか、19世紀風景画の中に草間彌生とか、20世紀初頭のバウハウスの前にターナーといったあたりが、時系列を激しく逸脱したところでしたが、精神性という章の括りで、ロマン主義絵画と一緒に紹介されたのは妥当だと思ったし、草間作品に映り込む自然主義絵画とか、バウハウスの試みに遜色ない、美術学校の遠近法の教材として用いていたターナーのデッサンとか、違和感なく馴染んでいました。

海の水面、灯台の光

ジョセフ・ライト・オブ・ダービー(Joseph Wright of Derby)『トスカーナの海岸の灯台と月光(A Moonlight with a Lighthouse, Coast of Tuscany)』より、灯台と月のシーンだけ切り抜き

前半の展示の中で、ジョセフ・ライト(Joseph Wright of Derby)、ジョン・コンスタブル(John Constable)、ジョン・ブレット(John Brett)、ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(James Abbott McNeill Whistler, ほどんどイギリス暮らしだったの、知りませんでした)、アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley, イギリス国籍だったの、知りませんでした)と、あれだけ海・灯台・船が描かれている油彩をまとめて見れて、嬉しかった。

特にジョン・ブレットの『ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡(The British Channel Seen from the Dorsetshire Cliffs)』、綺麗でしたね。実物が良すぎて写真撮ってもピンとこなかったくらいです。空から差し込む複数の光に照らされて輝く、穏やかで青い海の絵。イギリス海峡の海の色、本当にこんなに明るいんだろうかとは思ったし、薄明光線がこれだけ描かれているのに、雲はまばらで空が青いというのも、リアルじゃないんですけど。ジョン・ブレットは19世紀後半に活躍したイングランド生まれの画家。緻密な風景画で知られるそうで、ラファエル前派のメンバと交流があったそうです。細かくて鮮やかで現実味に欠ける感じ、確かにそんな感じがします。大きなスクーナーを所有し、キャリアの後半は海岸沿いと海の絵が多かったというウィキペディア情報を見なくても、海への愛はこの一枚でもよくわかりました。

人工の光

後半の20世紀後半以降の作品展示は、色に焦点を当てた抽象画と蛍光灯やLEDのライトを作品に取り込んだものが多かったです。ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)は一昨年の国立近代美術館の回顧展で十分見たし、ほかの色彩豊かな抽象画にもあまり目新しさが感じられなかったせいか、私の印象に残ったのは、人工的な光によってそれ自体が光る作品の方でした。

オブジェに当てられる光の効果が印象的なオラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の作品は2点紹介されています。2020年に東京都現代美術館で開催された個展で、今回展示されていた『黄色vs紫(Yellow versus purple)』と似た作品を見た記憶があって、その時も白い壁に映し出される色付き越しの光が移り変わるのが面白く、今回も同じ仕組みだとわかっていても見ちゃいますよね。今年も東京で展覧会開催されているくらいだし、今のアートシーンで注目されているアーティストなんでしょうね。

一際鮮やかな色が使われていたので視線が釘付けになったのが、スコットランド出身のアーティスト、デイヴィッド・バチェラー(David Batchelor)の『ブリック・レーンのスペクトル2(Spectrum of Brick Lane 2) 』と『私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅8 (I Love King's Cross and King's Cross Loves Me, 8) 』。

デイヴィッド・バチェラー(David Batchelor)の作品展示

キングス・クロスがスコットランド方面へのゲートウェイなのでスコットランドの人がその駅に愛着を持つのはわかるけれど、正直なところ、作品とタイトルの関連性は全くわかりません。が、上映されていた『スタジオ訪問(Studio Visit)』をオンラインで見直した限り、この人は街中の人工的な色や光に関心があってこういう作品を作るのだな、というのだけは理解しました。

この展覧会、東京開催はとっくに終わってますが、1月14日まで大阪で開催中とのことです。会期中のレビュー掲載はぎりぎりセーフ、と言えなくもない、かな。

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