素敵なBarに出会った話
本を読んでからずっと気になっていたBarに先日やっと行くことができた。
こちらの本の作者、林さんが営むbar bossa(バール・ボッサ)。
電話をかけると、落ち着いた声のマスターが穏やかに対応してくれた。
地図をたよりに、寒いねなんて言いながら店へと向かう。
しかし、目的地についたはずなのにお店の入り口がわからず、あるのはお店の看板のみ。
スマホと建物を見比べながらうろうろしていると、喫煙スペースでタバコを吸っていた男の人が声をかけてくれた。
「そのお店なら、その細道を入ったとこにあるよ」
少し不愛想な雰囲気の男性だったが、その声は優しく、とてもいいお店だから楽しんでと微笑んでくれた。
言われた通りの道を進むと、真っ白い壁に木製の扉、ほんのり灯るポーチライトに「bar bossa」という店名が照らされている。
恐る恐る扉に手をかけると、ウエストコートを身に付けた少し小柄な男性が出迎えてくれた。
私は予約した名前を告げて、傘とコートを預けながら店内へと足を踏み入れた。
シックで上品な空間は、大人な雰囲気だけど気取らず私たちを優しく受け止めてくれる。
壁面に並ぶたくさんのワインボトルや、木製で統一感のある家具。
店内に漂う少し甘みのある花の香りは、少しだけ大人の女性になった気にさせてくれる。
席に着くと、マスターが赤・白・ロゼ・泡の本日のグラスワインを説明してくれた。
どの地方のもので、どんな味わいで、どういう人が好むのか。
ワインの知識が薄い私でもわかるような端的で、流れるような説明。
聞き終わると同時に、私はロゼワインを頼んだ。
ドリンクと共に、小さなロウソクがテーブルに置かれる。
耳障りのいいボサノヴァの音楽に包まれながら、私たちは乾杯をした。
一口飲んでから、テーブルに持ってきてくれたメニューを見ているとガトーショコラが目にとまった。
ちょうど食後のデザートが食べたいと話していた私たちは、それを頼むことにした。
お酒に合うんです、とマスターが嬉しそうにサーブしてくれたガトーショコラは、本当に絶品だった。
甘さもあるのに全くしつこくなく、外はさっくりとしていて中は濃厚。
ワインを傾けるところまでがそのケーキの味わいだとでもいうように、ぴったりと合う。
一口味わってしまえば、ケーキだけでもワインだけでもどこか物足りなささえ感じるような、そんな極上の一品だった。
私たちは会話を楽しみ、上品で穏やかな空間の中でゆったりとした時間を過ごす。
今まであまり話したことのないような話ができたのは、きっとこの雰囲気のお陰だと思う。
店内に流れるボサノヴァが変わった頃、ワイングラスが空いた。
カウンターに目をやると、ちょうどマスターが入れ替えたレコードを大切そうにしまっているところだった。
片付け終わったマスターが私たちの方を向いたのをきっかけに、お会計を済ませて、コートと傘を手に入口へと向かう。
お気をつけて、と柔らかく送り出してくれるマスターにお礼を言いながら、私たちは扉を閉めた。
静かだった通りがだんだんと賑やかになっていくにつれて、現実に引き戻されるかのような感覚。
とてもいい夢を見て目が覚めたような多幸感と、ほんのりとした酔いを感じながら私たちは電車に乗り込んだ。
静かに上品な時間を過ごさせてくれるお店。
つかず離れず、程よい距離感で包んでくれる癒しの空間です。
どうにかお店の雰囲気を伝えられないかと思って、物語風にしてみました。
付き合いたてじゃなくて、無言の時間も楽しめるような関係になった2人にお似合いの場所ではないでしょうか。
私も、またお邪魔したいと思います。
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