見出し画像

穴(世にも奇妙な物語)

ゴミ処理所建設の反対運動にほとほと手を焼かされる。
もちろん、俺が処理所の社長であることを差し引いても、人間は永久にゴミを生み出すのであるから処理所は必要なのだ。

部下の野本が血相をかえて俺のもとに来た。
整地作業中に邪魔になった祠を移動させたところ、巨大な穴が見つかったというのだ。



現場に行ってその穴を覗き込んでもブラックホールのように無限に広がっているようだ。
「おーい、出てこい」
と叫んでも空しくこだまするだけだ。
空き缶を投げ入れても反響音は聞こえず、縄を付けたバケツを吊るし下ろしても手ごたえはなく、ありったけの縄を使って続けようとしたところ縄がものすごい力で引っ張られ、こちらも負けじと引っ張り返すとプツリと切れてしまった。

息を呑で穴奥を見入っているとサッカーボールが横切った、それを抱えていた子供も滑り落ちるのを慌てて止める、吸い込まれたサッカーボールは二度と戻って来ないだろう。

俺の目の前に一枚の写真が差し出された。その写真には2人の男が料亭で酒を酌み交わしている姿がある。一人は俺でもう一人は県庁の役人だ。ジャーナリストを自称する男の目的は金であることが透けて見えた。相手が幼馴染だと取り繕った所で通じるわけもない。さてどうしたものか、処理所も完成間近というのに。

ついにやってしまった。自分ではどうしようもなく出来ることは部下の野本を呼ぶことだけだった。場所は建設地の簡易プレハブの中だ。俺と野本、そしてあと一人の男は息はしていない。動転している俺は何とか自分を正当化しようとしていた。例の写真でゆすってきた男と言い争っているうちにこうなったのだと。
野本は俺を落ち着かせ遺体を運ぶよう先導する。

2人で運び出し着いた先は例の穴。そこに捨てろということだ。ためらう俺も尻を叩かれ遺体を投げ入れた。安堵の息をつく後ろ側で物音がしたので俺たちは草陰に隠れた。
すると主婦と思しき女性が慣れた手つきでゴミ袋を投げ入れているのだ。部下によると近隣住民にとってこの穴は便利なゴミ箱と化しているようだ。

ゴミ処理所も完成し穴の威力もあってか、処理能力のスピードを評判を呼び事業を拡大も視野に入れ始めてきた。
好事魔が多しというべきか、浮足立つ俺たちの会社に監査が入ったようだ。目の前の名刺の肩書を見るなり身構えざるを得ない、何せ国の役人なのだから県庁レベルと訳が違う。


何でもゴミ処理場の煙突から煙が出ていないことを怪しんでいるのだ。それはそうだ穴に放り込んでいるだけなのだから。
万事休すと思いきや、話は違い逆に協力を頼まれた。
それで見逃してくれるのであれば断る理由もない。
しかし、クレーンから穴に下ろされる現物には冷や汗をかいた、放射能廃棄物なのだから。



官民一体となると事業も上り調子で業績が上がり新社屋を建てることが出来た。その竣工式で、俺と部下は互いをねぎらい談笑した。天にも昇る気持ちで殿様が天守閣から街並みを見下ろすかのような心地で屋上に上った。


すると空から「おーい出てこい」と聞き覚えのある声が。
次には空き缶が落下しコンクリートで音を立てる。その空き缶も見覚えが。
そして、縄と共にバケツが。
次に何が落ちてくるのか、俺たちは黒く渦を巻く空を見上げ呆然と立ち尽くした。

サポートして頂ければ嬉しいです。コメントも頂ければ、それを反映したnote を書きます。