見出し画像

「得意分野」は必要。ただし……

得意分野は「営業細目」である

「なんでもやります!」と元気いっぱい言う人に限って、何をやらせても満足にできない――どこの世界でもありがちなことだが、ライターの世界もまたしかり。

だいたい、「なんでもやります!」と言うライターは、ほぼ駆け出しだ。ベテランはけっして言わない。ある程度キャリアを積めば、自分の得意分野・苦手分野が、はっきり色分けされて見えてくるものだからである。

どんな分野でも完璧にこなす万能のライターなど、いるはずがない。だから、「なんでもやります」は「なんでもできます」とイコールではない。それは、「ボクに何ができるのかまだよくわかりませんが、とりあえずがんばってみます」という、何とも頼りない言葉でしかない。

だから、「なんでもやります!」などと力んでも、それを「なんでもできる」という意味だと受け取る編集者は皆無だろう。

そんなわけで、「なんでもやります」はやめよう。自分の「強み」となる得意分野をはっきりと掲げよう。ライターにとっての得意分野は、会社の営業細目、病院の診療科目のようなものである。

ただし、病院なら掲げた診療科目のみでやっていけるが、ライターが得意分野の仕事だけで食っていくのは難しい。それは、「得意分野はいちおうこれとこれですが、あとの分野はやらないというわけではありません」という程度のあいまいな看板なのだ。

それに、得意分野を掲げたからといって、その分野の原稿依頼ばかりがくるわけではない。

ライターの得意分野は、その人が元々好きな分野であるとは限らない。“その方面の仕事をくり返しやっているうちに、必然的にくわしくなって、いつの間にか得意分野になっていた”というケースも多いのだ。

「なんだ。それじゃあ自分が好きな分野を得意分野に掲げても意味ないじゃん」
――そう思う向きもあろうが、それでも、「私はこの分野が好きで、くわしい」と、折にふれアナウンスしておく意味はある。
一つには、旧知の編集者にその分野の仕事が発生したとき、「そういえば、彼は◯◯が得意だと言っていたな」と振ってもらえるからだ。

たとえば、いつも「ビジネスもの」の仕事でつきあっている出版社に、某ロックスターの自叙伝の出版企画が持ち上がったとする。
本人はライターから取材を受けて聞き書きしてもらうことを望んでいる。だが、その方面の本を出したことがないその版元には、音楽ライターの人脈がない。そのとき、編集者の脳裏になじみのライターの名前がひらめく。
「そういえば、彼はロックにくわしいと言っていたな。よし、彼に頼んでみよう」と……。
まあ、そういうこともあるわけだ。

「得意分野は3つ持て」?

では、得意分野はいくつ持てばよいのだろう?
ライター入門のたぐいには、よく「得意分野は3つ持て」というアドバイスが載っている。
1つだけではその分野の「パイ」が小さすぎてなかなか仕事が回ってこないし、4つ以上では各分野の情報収集に手がかかりすぎるからである。

ただし、その分野のパイの大きさとマニアック度にもよる。
1つの分野だけで食っていけるほどパイが大きいジャンルもあれば、小さ過ぎてその分野だけで食っていくのは無理というニッチなジャンルもある。
また、ウルサ型のマニアが多いジャンルは情報収集に手間がかかりすぎて、一つだけ掲げておくのが精一杯だろう。

そうした事情はあるにせよ、「得意分野は3つ持て」というのは、一般的アドバイスとしては正しい。もちろん、それは3つとも“自分が元々好きな分野”であるべきだ。

そして、得意分野と決めたら、怠らず情報収集をすべきである。
専門誌を毎号購読したり、関連イベントにできるだけ参加したりといった“情報のメンテナンス”をしておき、「その分野についてなら、歴史から最新情報まで一通りわかっている。他のライターよりもくわしい」というアドバンテージ(優位性)を保っておくことが大切なのだ。

そして、旧知の編集者、新しく知り合った編集者には、その3つが自分の得意分野であることを、ちゃんとアピールしておこう。

「ホントの得意分野」は客観評価

逆に言えば、プロフィールなどに「得意分野は○○です」と謳い、編集者にアピールしまくってもその分野の仕事が増えないようなら、それはホントの得意分野とは言えないだろう。 本人が「得意だ」と思い込んでいるだけで……。

要するに、主観的な得意分野と、編集者から見た客観的な得意分野は必ずしも重ならない。

私自身について考えても、自分の元々の得意(だと思っている)分野の仕事は、全体の数分の1くらいか。むしろ、苦手だと思っていた分野の仕事がだんだん増えて、それがいつしか得意分野になっていた……という面が大きい。

自分の得意分野は、一緒に仕事をする編集者が「発見」してくれることも多い。その分野の仕事がいつの間にか増えていくという形で……。
それこそが客観的評価であり、あなたにとっての「ホントの得意分野」なのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?