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フリーは会社員の倍稼いで同等?

「剣道三倍段」ならぬ「会社員2倍年収」

武道の世界では「剣道三倍段」ということが言われるそうだ(※)。剣道とほかの武道、たとえば空手を比べた場合、空手三段の人と剣道初段の人が闘ってやっとトントンの勝負になる、ということだ。

(※私はこの言葉を『空手バカ一代』で知ったが、元の言葉は「剣術三倍段」で、「剣術が槍術と互角に相対するには三倍の技量が必要である」という意味なのだそうだ。本題から離れるので、ここでは措く)

それに倣って、私は「会社員2倍年収」ということを言っている。フリーライターは会社員の倍の年収を稼ぎ出してやっとトントンになる、という意味だ。
フリーライターと会社員では、年収が同じであったら、会社員のほうがずっと豊かなのである。
それは、会社員のほうが収入が安定しており、病気をしたときなどの保障があり、経費を会社でまかなってくれる率が高い――という3つの理由による。

収入が安定していないコワサ

 フリーライターのもとには、毎年1月後半あたりに、クライアント各社から「**年度お支払い明細」などと書かれた「源泉徴収票」が送られてくる。「昨年1年間で、我が社はあなたに計これだけの原稿料を支払いましたよ」という証明書である。
自由業者が毎年3月前半までにしなければならない税務署への「確定申告」の際、これが必要になるのだ。

多くのフリーライターは、出版社からの源泉徴収票がすべて揃ったとき、記載された原稿料の数字を足し算してみて、そこで初めて前年の年収を知る。

 私の場合、確定申告の準備で前年の年収を確認したとき、「意外に少ないなァ」と思うことはまずない。毎年、「去年こんなに稼いだっけ?」と思うのだ(たぶん、多くのフリーライターに共通の感想だろう)。
なぜそう思うかといえば、収入がものすごく不安定だからである。

 収入が5万円しかない月もあれば、100万円以上入ってくる月もある。しかも、振り込まれる日もまちまちで、会社員の「給料日」にあたる日はない。人間は、このように収入が不安定だと、実際の収入額よりもずっと少なく感じるものだ。かりに年収600万円であっても、「月平均50万円稼いでいる」とはなかなか実感できない。
同じ年収でも、毎月同じ額が入ってきたほうが、心理的にはるかに楽で、やりくりがしやすいものなのだ。

だから、フリーライターには“収入不安定に平然と耐える才能”が必要だったりする。本人のみならず、配偶者にも。
毎月定収入がある普通のサラリーマン家庭に育った人には、それはわりと難しいことのようだ。

なんの保障もないコワサ

収入が不安定でも、一定の年収が得られるという保障があればいい。支出の上限を決め、収入が多い月にはその分を貯蓄に回せばよいのだから。しかし、フリーライターの場合、年収の保障がないのはもちろんのこと、3ヶ月以上先の収入は基本的に予測不可能なのである。

ジャーナリストの田原総一朗さんが、以前、「いまだに“いつか食えなくなるかもしれない”という不安が、いつも心にある」という意味のことを言っておられた。田原さんほどの売れっ子にして、そうなのだ。

当面のスケジュールがどんなに詰まっていても、3ヶ月先には仕事がなくなるかもしれない。今年は食えても、来年は食えないかもしれない……そうした不安はフリーライターにはつきもので、どんなに売れっ子になってもそれから解放されることはない。

 少し強い言葉を使えば、フリーライターはつねに「潜在的失業者」である。会社員なら、よほどのことをしない限りクビになることはないが、フリーライターが仕事を失うのはごく簡単なことだ。

仲良くしていた編集者が退社した、雑誌が廃刊になった、編集長の交代で編集方針が変わった……その他さまざまな理由で、ある日突然一つの仕事が終わる。その「一つ」が唯一の仕事であったり、収入の大半を占める仕事であったとしたら、その日から失業者だ。

また、フリーライター自身が病気で入院でもしたら、多少なりとも給与保障のある会社員とは違い、その日から収入の途は絶たれる。
会社員の給料には、「安定料」と「生活保障料」という、目には見えない“特別手当”が含まれているのである。

経費に自腹を切るツラさ

会社員なら、仕事のための必要経費は基本的に全額会社が持ってくれる。通勤定期代に自腹を切っている会社員はいないだろう。しかし、フリーライターの場合、経費に自腹を切ることも少なくない。

打ち合わせのため出版社に出向いた際の交通費、取材先までの行き帰りの交通費、執筆のための資料として買った書籍代……こうしたお金は、出版社側がもってくれる場合が多いが、「原稿料にあらかじめ含まれている」として払ってくれない場合も少なくない(こうした仕事はライターの間で「こみこみ仕事」と呼ばれる。「オイシクない仕事」の代名詞である)。

ましてや、執筆に必要な消耗品費や日常の電話代(海外など、遠方への電話の場合はさすがに出版社が持ってくれるが)などは、当然のごとくライターもちである。
こうした「自腹経費」も、けっこう家計を圧迫する。その分、会社員より実質年収は目減りするのだ。

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