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ライターにとっての「三拍子」とは?

ライターに要求される「3大資質」

野球の世界で「三拍子揃った選手」という場合、その「三拍子」の中身は、いうまでもなく攻・守・走――打撃力・守備力・走塁力である。

では、フリーライターにとっての「三拍子」とはなんだろうか?
私が思うに、それは文章力・取材力・幅広い教養の3つである。これらがライターに要求される「3大資質」であり、3つをバランスよく兼ね備えていればいるほど、有能なライターといえるだろう。
 
3つのうち、「文章力」は字義どおりの意味だが、「取材力」は情報収集能力を含めた広義の取材力と考えてもらいたい。

たとえば、「何をどう調べたら目当ての情報にたどりつけるか?」に精通していることも取材力の一部だし、電話一本でいろんなことを教えてくれる広い人脈を持っていることも、取材力の一部である。
そしてもちろん、実際の取材に際して相手から話を引き出すテクニックは、取材力の核をなすものだ。

また、3つ目の「幅広い教養」は、「浅く広い教養」と言いかえてもよい。特定分野の深い教養を有している人より、硬軟・古今を問わないあらゆる事柄を浅く広く知っている物知りのほうが、はるかにライター向きだ。

なぜなら、専門分野の仕事しかしない一部のジャンル・ライターを除けば、フリーライターにはあらゆる分野の仕事が飛び込んでくるからである。
たとえば、エコノミストを取材した翌日に柔道家を取材し、その翌日には弁護士を取材し……などということが、ごく普通にあるのだ。

3つのうち、天性の資質が最も要求されるのは文章力であり、逆に、努力でなんとかなる割合が最も高いのは3つ目の「幅広い教養」であろう。

あなたがいま若者で、「浅く広い教養」に自信がなかったとしても、心配はいらない。ライターの仕事を続けていけば、浅く広い教養は否応なしに身につくからである。

ベテラン・フリーライターは例外なく「雑学博士」であり、たとえばクイズ番組に出たら圧倒的な強さを誇ると思う(逆に言えば、ライターが頭に詰め込んだ知識はあまりにも雑多で体系的ではないため、クイズ番組に勝つくらいしか役に立たない)。

「三拍子揃って」いなくても大丈夫

以上挙げた「三拍子」は、もちろん、バランスよく揃っているに越したことはない。しかし、イチローのような三拍子揃った野球選手がごく一部であるように、プロのライターといえども、三拍子すべてがハイレベルで揃っている人など、じつはほとんどいない。

たとえば、沢木耕太郎さんは見事に三拍子揃った書き手だと思う。
文章はうまいわ、取材はうまいわ、教養はあるわ、そのうえハンサムだし背もスラリと高い。しかし、ああいう人は物書きの世界でも例外的存在なので、安心してよい。

三拍子揃っていなくても、3つのうち1つが抜きん出ていれば、ライターとして生き残っていける。
たとえば、文章があまり上手でなくても取材がうまければ、取材を中心にこなすライターとして生き残っていける。
逆に、取材がヘタでも文章が抜群にうまければ、リライターとして生き残ることができる。また、知識の量が圧倒的に抜きん出ていれば、それだけでも生き残っていくことができる。
 
そして、大抵のライターは、3大資質のうちのどれか1つに偏っているものである。その偏りは、ライター本人よりも、むしろ仕事を共にする編集者たちが見抜いてくれる。「彼は取材が苦手なんだな」と思うライターには、取材仕事はあまり振らなくなる。逆に、「彼は文章はいまいちだけど、いい取材するなあ」と思うライターには、取材の仕事を積極的に振るようになる。

では、三拍子のうち1つも抜きん出たものがなかったら……? 当然、仕事はしだいになくなっていく。

ライターは、駆け出しのうちは三拍子まんべんなく揃った「イチロー型ライター」を目指すべきである。しかし、数年を経て自分の得手不得手がはっきり見えてきたら、今度は自分の得意分野に狙いを定めて磨きをかけたほうがいい。

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