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リーガルテックの現況

1. 米国のリーガルテック現況
 リーガルテックは法律と技術を組み合わせた造語で、 法律業務や手続きにIT技術を活用し業務効率化や精度向上を図ること、あるいはそうしたサービスやツールを指す。リーガルテック事業の例としては、主に以下が挙げられる。
Ø  AIを用いた契約書レビュー
Ø  契約書締結・管理プラットフォーム(Contract Lifecycle Management=CLM)
Ø  ワークフロー・事案管理ツール
Ø  時間・経費管理(e ビリング)ツール
Ø  eディスカバリー(電子情報開示)ツール
Ø  電子契約サービス
Ø  法律相談アプリ
Ø  弁護士検索プラットフォーム
Ø  リーガルリサーチツール(判例や法律専門書、官公庁の資料などを検索できるサービス)
Ø  集団訴訟のプラットフォーム
 
リーガルテックの用語及び概念は2000 年代はじめにアメリカで生まれ、老舗企業としては、米国各州の法律に対応した役所手続き支援サービスを展開するLeaglZoom等が挙げられる。
リーガルテックの大半は何かしらのIT技術を中核とするが、ソフトウェアと直接関わらない形態のサービスも存在し、この中で主要なものとしてASLP(Alternative Legal Service Provider)サービスが挙げられる。2000年設立のAxiom Law社が大手で、いわば法律専門家人材派遣、即ち企業や法律事務所に一定期間の契約で弁護士を派遣することを業としており、自らLawyers On-Demand & Legal Services Providerと名乗り、グローバルで弁護士や約5,800名(女性比率52%)を雇用している。米国で法律事務所が請求する弁護士費用の高騰を受け、米企業の間で2000 年頃から利用され始めており、2008 年の世界金融危機を受け企業が更なるコスト効率を追求し、法律事務所への依頼をASLP事業者に変える動きが進み、需要が一段と高まったようである。主に契約書レビュー、ファイナンス関連、M$A、規制・コンプライアンス、キャピタルマーケット、労働関係、知的財産、訴訟等の業務で利用され、法律事務所のおよそ 50%の費用で、これまで8,000社以上のクライアント企業に法務サービスを提供してきたとされる。
同じくASLP分野で2011年設立のElevate社は、弁護士以外にエンジニア、コンサルタント、データサイエンティスト、プロジェクトマネージャー等1,600名超のスタッフを抱え、フレキシブルなリーガルスタッフィングを始めとする法務サービスと契約書管理プラットフォーム(CLM)等のテクノロジーソリューション、法律事務所へのコンサルティングを提供している。
近年のリーガルテックの発展を受け、アメリカの一部の都市・州では弁護士以外が法律事務所のオーナーになれないという規制を緩和し、弁護士と非弁護士が共同でリーガルテクノロジーのプロバイダになることを認めた。これにより、更なるリーガルテック部門のイノベーションが期待される。
アメリカ以外でも、例えばイギリスで2016年に、駐車違反の異議申し立て請願書を作成する無料のプログラムを19歳のプログラマーが開発・公開し、話題になった。
また、カナダではDentons法律事務所が、AIを使って数百万の判例や法律文書を検索・参照することで与えられた法律上の問題に回答する能力を持つソフトを開発するNextLaw Labsに出資し、Dentonsでは既に判例検索だけでなく、破産法に関するデータベースとして実際に活用されている。
一方ドイツでは、法曹協会が、Q&A形式で法律文書を自動作成するリーガルテック企業を相手に訴訟を行い、法律サービス業法違反で勝訴するなど、既存の弁護士とITサービスプロバイダとの緊張関係が顕在化してきている。
 
2. 日本のリーガルテック現況
日本については、まずCLM分野でContractS(旧Holmes)やMNTSQ、Hubble、LIRIS等が存在する。これらのソフトは、リーガルテックの様々な機能を集約したプラットフォームのような存在で、契約書作成・保管・電子押印、法務相談、案件管理等様々な機能を備えている。その他、契約書レビーサービスでは米国進出を果たしたLegalOn Technologies(旧LegalForce)、電子契約サービスではクラウドサイン、弁護士検索プラットフォームでは弁護士ドットコム、商標登録を自動化する「Toreru」や外国人のビザ取得の書類作成が自動化できる「one visa」、法律相談アプリを提供する「弁護士トーク」や「ココナラ法律相談」、弁護士費用提供サービスを提供する「日本リーガルネットワーク」、フォレンジックサービスを提供するFRONTEO等が主要なリーガルテック企業として存在する。
他方、法律事務所においても、2019年から長島・大野・常松法律事務所がCLMサービスを展開するMNTSQに総額8億円を出資、同年に森・濱田松本法律事務所が東京大学の松尾豊教授の研究グループ(松尾研究室)との法律業務におけるITやAIの活用に関する共同実証研究や、株式会社Legalscapeと法律情報検索・閲覧(リーガルリサーチ)システムの実用化に向けた協業に着手、2020年には西村あさひ法律事務所がReynen Court Inc.に出資をしており、法律事務所のリーガルテック活用・協業も活発になっている。
また、日本では上記のASLP事業者は弁護士法上の規制もありいまだ存在しないようであるが、法律事務所が所属する弁護士を出向させたり、リモートベースでクライアント企業法務部の業務を支援するサービスが普及している。
日本のリーガルテック市場は欧米と比べるとまだ小さく、2018年には228億円であったが、2023年には350億円超に達するとの予測もあり、順調に拡大を続けている。

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