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幻冬舎の非上場化についての考察

目次

1、序論

2、なぜ今非上場化なのか

3、非上場化のメリット・デメリット

4、非上場化の目的

5、非上場化の方法

6、まとめ(私見)


1、序論


 2010年10月29日、ジャスダック市場に上場する中堅出版会社である幻冬舎が上場廃止というプランを発表した。代表取締役である見城徹社長は理由として経営と資本を一体化させ、中長期的な視点から抜本的な経営を可能にするためと発表している。

 私達はこのニュースを聞いて一般に株式会社というのは資金調達の便宜やブランド力・社会的信用力向上のため株式上場化を目指すものであるのに、なぜ幻冬舎は非上場化という決断に至ったのだろうと率直に疑問に思った。そして上場会社の株式非上場化について少し調べてみたところ、欧米では上場廃止という選択(欧米では戦略的な株式の非公開化をgoing private,public to private;P2Pと呼んでいる)が比較的多く行われており、その件数も増加の傾向にあるという事実がわかった。

 そこで私達は今回幻冬舎の非上場化というタイムリーな話題を通して、企業の「非上場化」という判断についてそれを行う方法、また非上場化のメリット・デメリットに着目して考察を加えてみたいと思う。


2、なぜ非上場化なのか


 まず株式の非上場化・非公開化とは具体的にどういうものか。株式の非上場化とはTOB(株式公開買付)などにより上場企業又はその経営陣が株式を買い取り、証券取引所が定めた株主数の基準を下回り上場廃止となるものである。ではなぜ幻冬舎はこの非上場化という判断に踏み切ったのだろうか。

幻冬舎のここ数年の業績は堅調である。今期売上げは125億円。営業利益は17億円と前期より増益を成し遂げている。業界でみても講談社、小学館、光文社、文芸春秋など大手出版会社が09年度最終赤字を出している中、勝ち組といえる。にもかかわらずなぜ幻冬舎は非上場化という変化の道を選んだのだろうか。

 幻冬舎の1株純資産は10年6月末現在で36万円。それに対して株価はその半値以下で推移している。これは市場の幻冬舎に対する評価が低く、資金調達の実現可能性が低いことを意味している。「経営と資本を一体化させ、構造改革をしないと生き残れない」という幻冬舎社長の見城徹氏をはじめとした経営陣の危機感が非上場化という選択をさせた一番の要因である。

 加えて上場におけるメリットがないと幻冬舎が考えたことも一つの要因に挙げられる。具体的には上場コストが年間約1億円かかっていたところ、株価の低迷と現状の金融情勢では市場から資本調達できる可能性は低く、かつ当面資金調達の必要性もない。上場しているか否かで金融機関の格付けが変わるということもない。つまり上場コストと上場メリットを天秤に掛けるとコストのほうが重荷になると判断したと考えられる。

 見城氏は非上場化をすることで株主からの短期的な収益向上という圧力を排除でき、目先の業績にとらわれる必要が無くなり、中長期的な視点で経営ができるようになるという。確かにMBOにより自身が100%株式を保有することにより株主の目がなくなるのでより自由な経営ができることは間違いない。同氏はこの自由な経営環境の下、新ジャンル開拓、紙とデジタルを組み合わせた新たなビジネスモデルの構築を断行することが可能になるという。このような構造改革を迅速に行うため、非上場化が必要と考えたようである。

 実は幻冬舎のような上場企業の株式非公開化の動きは2005年頃から日本においても活発化してきている。例を挙げてみると焼肉チェーン「牛角」などを展開するレックス・ホールディングス、キューサイ、東芝セラミックス、スイッチ製造大手の神明電機、ユニホーム製造大手のヤギコーポレーション、表面処理加工会社のトーカロなどが経営陣による企業買収(MBO)で株式を非公開化し、中長期的な観点から経営の迅速化を目指すとしている。

ではなぜこれらの企業は非上場化・非公開化という道を選んだのだろうか。次に非上場化のメリットについてデメリットとともに見ていきたいと思う。


3、非上場化のメリット・デメリット


 ここでは非上場化の一般的なメリット・デメリットをあげ、それを幻冬舎に当てはめてみたいと思う。


<非上場化のメリット>


・支配権集中により経営者と所有者の利害不一致が解消され、柔軟な事業計画の実行が可能になり、長期的な戦略目標に集中できる。

 株式を上場すると経営の透明性が要求され、株主・投資家・アナリストなどによる短期的な業績の改善などに意見や注目が集中する傾向にある。特に近年、上場企業は海外投資家や機関投資家から利益配分のあり方や企業経営について厳しい要求をつきつけられている。

さらに投資家の短期志向が進み、企業にとって長期戦略を遂行することが難しくなっており、短期的な利益向上にはつながらない中長期的な経営戦略の推進や大胆な事業改革を行うことに困難が生じている。常に株価上昇を期待する投資家にとって、たとえ一時的であっても事業改革による赤字計上は許されないといえる。

これに対し、株式の非上場化を行うことによって株主・投資家からの上記のような短期的な収益要求の圧力を排し、経営陣など一部のものに権限を集中させ、事業再編や経営の合理化を抜本的に行うことができるようになる。

 また上場廃止することによって株価が明示されなくなるので、改革に伴う株価急落を避けることができる。

 幻冬舎においても社長である見城氏が最終的に100%株式を取得することにより経営陣の判断のみであらゆることを決定することができ、電子書籍分野の迅速な強化などの改革を短期的な収益・評価を気にすることなくスピーディーに行うことが可能になる。


・敵対的買収の脅威からの脱却

 株式を非公開化することにより株式の取得に会社側の承認を要することになるので、株式買占めによる経営陣の意向に反した敵対的買収を防ぐことが可能になる。株式の非公開化は究極的な買収防衛策といわれている。

 幻冬舎はプレスリリースにおいて買収の脅威からの脱却を目的とするとは述べていないが、結果的にこのような効果が随伴することになり、事業の推進のみに集中することができるようになる。


・膨大な上場コスト、情報開示が不必要となる

 株式公開を継続するには金融庁・証券取引所などに提出する情報開示書類の作成や監査コスト、投資家向けの説明会の開催などIRにかかるコスト、取引所に納める上場継続費用、そしてそれに関わる人的コストなど膨大な費用の負担が要求される。

一方、非公開会社となれば詳細な財務状況を定期に開示する必要はなくなり、上場会社ならば大きな費用がかかる株主総会の実施費用など事務コストの大幅な削減をなすことができる。これらの高額なコストと上場企業であることの利益を天秤に掛けた際の判断も非上場化にいたる大きな要因となる。また非上場化による企業情報開示義務の免除により会社の経費負担が軽減されるだけでなく、情報開示による企業戦略の漏えいも防止できる。

 幻冬舎においてもプレスリリースにおいて株主総会の運営、開示項目の増加への対応、J-SOX(金融商品取引法における内部統制に関する部分)への対応、独立取締役(社外取締役よりも独立性が高く、企業監査に長けた者)の導入、IFRS(国際財務報告基準)適用に向けた対応等により多額の資金が必要で、取締役の久保田貴幸氏によると人件費を含め年間1億円の上場コストがかかっていたといい、上場企業であることとの天秤に掛けた結果、非上場という判断に至ったといえる。


<非上場化のデメリット>


・市場からの資金調達が困難になる

 株式を非公開化することにより一般投資家が株式を手に入れることが困難になり、市場からの間接的な資金を調達できなくなるので、結果資金調達が困難になる。

 しかし幻冬舎においては当面資金調達の必要性がない安定企業であることからこのデメリットはさほどマイナスにはたらいていないと考えられる。


・取引における社会的信用力が低下し企業活動の展開が不利になる

 透明性が高い「上場企業」というステータスを手放すことになり、取引を行う場合の信用力が低下する。また上場企業ほど知名度が上がり、一般に優良な人材を確保しやすくなる。しかし信用力低下とは一般に知名度が低い新興企業が上場しているか否かで信用力が異なってくるということで、今回のように既に知名度がある幻冬舎のような上場していた企業が企業戦略として非上場化する場合には信用力低下というデメリットは当てはまらないと考えられる。


・市場でのブランド力が低下する

 株式を非公開化することにより一般に知名度が下がり、市場におけるブランド力が低下する。上場会社であれば新聞等で株価が随時発表されるが、非上場会社は客観的な株価が存在しないためその分メディアに登場することも少なくなるといえる。

 しかし幻冬舎のような既に知名度が高い企業は非上場化してもそれほど知名度は下がらず、このデメリットは回避できるといえる。


・非上場化を発表しTOBを実施した際に投資ファンドの買占めにあい、多額の損失をこうむる可能性がある

 これは今までになかった本件に特異な現象かもしれない。しかし今後MBOによる戦略的な非上場化を行う際には常に気をつけるべき点になるかもしれない。具体的には会社が非上場化の計画を発表し、TOBを実施した際に主に事後的により高く株を買わせることを目的に投資ファンドが株を買い占め、TOBを阻害するということである。

 本件においても、後に詳しく述べるが、幻冬舎のTOBに対し投資ファンドのイザベル・リミテッドがTOB価格を上回る価格で買い進めたため、最終的に議決権の3分の1を超える35.7パーセントを取得しイザベルが株主総会においてMBOに反対すれば幻冬舎の計画は失敗に終わるということになる。

今後の先行きは不透明だがおそらくイザベルは幻冬舎側に高値で株の買取りを求めるものと見られ、そうすれば幻冬舎は予想外の損失をこうむることとなる。幻冬舎側はこうした動きに対しTOBを成立させやすくするためTOBに期間を2週間延長し、TOB価格を1株22万円から24万8300円に引き上げたうえ、買付予定株式数の下限も議決権総数の3分の2超(1万8300株)から過半数(1万3725株)に引き下げたが、結果的にファンド側に非公開化を阻止できる議決権の3分の1超を取得されたためMBOが成功するかは微妙である。これは何もしなければファンドの投資対象になっていなかったかもしれない会社が非上場化というアクションを起こしたためにターゲットにされてしまったということであり、今後会社が非上場化という選択を行う際の一つの大きな障害・懸念材料になると考えられる。


・外部からの経営チェック機能が働きにくくなる

上場会社であれば、半期または四半期ごとに、詳細な決算内容を発表する。業績に影響を与えるような出来事が発生した場合にはその都度、公表する義務も発生する。しかし、増資などを行い有価証券報告書を提出している一部の会社を除き、非上場会社の経営状況をタイムリーにチェックすることは難しい。これは経営陣からは煩雑な情報公開を省くことができるというメリットといいうるが、投資家側からみると投資情報が少ないというデメリットだといえる。

 幻冬舎においても今まで程の情報公開を要しないことになり、投資家が入手できる情報の量は少なくなるものと一般的に考えられる。


4、非上場化の目的


これまで非上場化のメリット・デメリットを見てきたが、そもそも、なぜ「非上場化」という経営判断がなされるのか。

大規模経営への過程にある「未上場」とは違い、上場会社の非公開化を目指す「非上場」は本来経営判断としてあり得ないものである。しかし、現在非上場化は様々な企業において行われている。

では、どのような目的があって非上場化が行われているのか。以下、①再建型②CSR型③防衛型に分けて経営戦略としての妥当性・正当性を検討していきたい。

まず、経営不振に陥った企業が、投資ファンド等の支援を得て非上場化し、競争力回復を果たして再上場する、①再建型について検討する。

「再建型」非上場化のポイントは、一時的にコーポレートガバナンス不在の状況を作り出すことにある。立て直しには思い切った戦略が必要だが、所有と経営が高度に分離した上場企業では、投資家のリスク許容度に限界がある。

あまりにハイリスクな戦略と捉えられた場合、投資家は株式を売却して投資から撤退してしまい(ウォールストリート・ルール)、株価が暴落して経営危機を招くことにもなりかねない。そこで投資ファンドなどの資金を導入して非上場化し、戦略に理解を示す特定の株主にガバナンスを集約することで、経営スピードを引き上げることを可能とする。

このタイプで重要なのは、支援を要請するファンドの質を見極めることである。非上場化によって短期利益に左右されなくなるというが、そもそも投資ファンドこそ利益重視なのであって、資産売却や借金をさせて配当に回すなど、投資収益のため会社を私物化することもできる。

またファンドによっては、買収した後のマネジメント能力に格差が生じる。非上場化したものの効果的な戦略を打てず、後ろ向きのリストラに終始した挙句、会社の切り売りでエグジットされる危険性も想定しなければならない。最初にパートナーを間違えると、もはや取り返しがつかないのである。それだけのハイリスクを背負った「最後の一手」であることを、十分に認識する必要がある。


次に、企業がCSR(企業の社会的責任)に関わる活動を徹底するため、資本市場から一線を画そうとする非上場化の動き②CSR型非上場化について検討する。

「CSR型」非上場化の意義は、主に大企業において、投資収益といった経済的な価値を超えた、広く社会的な価値の創造を追求することにある。

その企業にとって「真のオーナー」は社会全体であると宣言した上で、実際には現実のオーナー経営者が理想と考える事業(あるいは非事業)戦略に邁進する。また、非上場化を選択した企業だけではなく、創業以来、一貫して非上場に止まっており、文化活動など社会貢献事業に熱心な非上場大企業の例などについても、広義の「CSR型」非上場会社といえるだろう。なお、地域金融や放送局、鉄道事業者など、ある種の高度な公共性を使命としている企業にとっても、検討に値する選択肢なのかもしれない。

このタイプにおいては、オーナー経営者の独善・暴走が問題となる。所有と経営の一体化でコーポレートガバナンスが失われた状態となり、社会的に許容できない企業活動につながる恐れは否めない。また、社会全体に経営を負託すると宣言する以上、広く説明責任を果たさなければならない。株主に対しては利益成長を約すればよいが、ステークホルダー全般を意識する場合、多様な価値観に基づいて対話を行い、個別に納得してもらう必要がある。IRよりも格段に難しいコミュニケーション活動(SR=ソーシャル・リレーションズ)が求められよう。非上場化すれば終わりではなく、どうやって経営を規律付けるかに真価が問われることを、重く受け止めなければならない。


最後に③防衛型非上場化について検討する。

近時のわが国では、敵対的M&Aが活発化していることを背景に、「非上場化こそ究極の買収防衛策である」といった声が目立っている。確かに非上場企業になってしまえば、株式を買い占められる危険性はなくなる。

米国においても、高齢者向けヘルスケアサービス最大手のビバリー・エンタープライズが2005年夏、投資会社フォーメーション・キャピタルの敵対的買収に対抗して、ノースアメリカン・シニア・ケア(ビバリー買収を目的に設立されたファンド)のTOBにより非上場化した。また、先述の再建型やCSR型を標榜していても、真の狙いは経営基盤の安定化だというケースもあるだろう。リーバイ・ストラウスが非上場化したのはM&Aブームの真っただ中で、敵対的買収者から経営基盤を守ることが目的のひとつだったことは、想像に難くない。

ここで忘れてはいけないのは、経営者にとっては敵対的なM&Aであっても、株主に対しては魅力的なプランになり得るということである。株主としての立場から考えてみれば、特定の投資ファンドやオーナー経営者によって主導される非上場化戦略そのものが、不当な安値によるTOBを通じたものであったりすれば、むしろ株主としての企業価値を毀損するような、真の意味で「敵対的な」ものとなるケースもあるかもしれない。そもそも何が友好的で何が敵対的かは、株主が判断するべき事項である。オーナー経営でマジョリティを握っている企業の場合でも、株式上場している以上、少数株主の利益は十分に尊重しなくてはならない。

「経営者による非上場化戦略こそが、株主にとっては敵対的M&Aになり得る」という観点から考えると、ファンドによるTOBや経営陣によるMBOに対して、株主視点に立ったコーポレートガバナンスを機能させることが、当然の論理的帰結として求められる。2005年5月、経済産業省と法務省が発表した「企業価値・株主共同の利益の確保または向上のための買収防衛策に関する指針」の中で、買収防衛策の具体例として株主総会の承認や独立社外者の判断を経ることを挙げている。

企業が非上場化を検討する際においては、たとえ経営再建やCSR重視を標榜したものでも、経営者による濫用リスクを排除するため、同様の明確な手続をクリアするべきだろう。


5、非上場化の方法について


 ここでは幻冬舎が用いた方法について、具体的にかかる金額等を見つつ説明していく。(幻冬舎は2011年3月にもジャスダック上場を廃止する見通しとなっている。)

まず、幻冬舎社長の見城徹氏が代表を務める特別目的会社(資産の原保有者からの買い取り、資金調達のための証券や債権の発行、譲受資産に関する信用補完、投資家への収益の配分といった特別な目的のために設立される会社のこと)TK ホールディングスが、幻冬舎の普通株式と新株引受権をTOB(公開買付け)により取得する。

買付け期間は11月1日から12月14日まで、買付け価格は普通株式1株につき22万円。買付け予定数は2万7499株、買付け代金は60億3878万円にのぼる。買い付けに必要な資金は幻冬舎のメインバンクであるみずほ銀行が貸し付ける。見城氏自身も8300株(第2位、23%)を保有する大株主である。今回の公開買い付けに参加、得た資金約15億円はTKホールディングス経由でみずほへの借り入れ返済に充当される。

株式買付成立後、11年2月にも幻冬舎は臨時株主総会を開く。TKホールディングスが幻冬舎を完全子会社化する。その後、TKホールディングスを消滅会社とし、幻冬舎を存続会社とする吸収合併を行う。このスケージュールならば3月にも幻冬舎は上場廃止となるだろう。新生「幻冬舎」は見城氏が全株保有する会社としてスタートする手筈となっている。

しかし、前述のように、投資ファンドのイザベル・リミテッド(ケイマン諸島)が市場から幻冬舎株を買い集め、9日時点で議決権ベースの32%超(8996株)まで買い進めたことが明らかになった(大量保有報告書で判明)。

イザベルの平均買いコストは1株23万円弱と当初のTOB価格よりも高い。このため、TKホールディングスはTOB価格を24万8300円まで引き上げ、買い付け期間も12月28日まで延長した。

そして、29日、経営陣による自社買収(MBO)を目指して実施した株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。

TKホールディングスが議決権ベースで58.1%にあたる1万5968株を確保した。同社は来年2月に臨時株主総会を開き、上場廃止する意向だ。ただ、海外の投資ファンドが同社株を買い進めて35.7%を取得しており、MBOが実現するかは不透明な情勢だ。

幻冬舎は2月に予定する臨時株主総会などで、出席株主の3分の2以上の賛成が得られれば、上場廃止への手続きを進めるとしている。ただ、イザベルは特別決議を否決できる3分の1超の議決権を保有、イザベルが反対すればMBOは失敗に終わる。今後の動向が注目される。


6、まとめ(私見)

 一般に我々が会社を設立するときは最終的に株式上場を目指すことが多い。それは上場というものが会社経営者として一つの大きなステータスであり、自分が育てた会社の格を挙げ、知名度を上げ、ブランド力を向上させるものだからだ。

 しかしすでに知名度があり、手元資金が潤沢で市場から資金調達の必要性が当面ないような会社にとっては、確かに上場しているメリットは少ないといえる。

例えばIR等の情報開示のための費用や株主総会を開くための人件費などはばかにならず、年間1億円前後という多額の費用が必要になってくる。それに加え上場し何人も自社の株式を買えるようになれば企業買収にたけた米国企業等からの買収の危険もあり、最近は外国人投資家・機関投資家からの短期的な利益の追求という要望が強くなっている。

このような情勢の中で上場企業のMBO等による非上場化・非公開化という動きは至極当然であるともいえる。設備投資の必要性の低い企業は資金調達の必要性が少ないので非公開化するほうが経営者にとっては迅速に自由な経営ができるので楽に決まっている。

しかし企業の経営監視という観点からみると非上場化の動きは若干問題があるともいえる。企業が非上場化を選択する目的について、3つの場合に分けて考えたが、これらのうち、コーポレートガバナンスの面から特に慎重に考えるべきなのが、②の「CSR型」非上場化である。①「再建型」は将来における再上場を前提としており、市場の規律付け(株主ガバナンス)に再び服することになるので、緊急避難上の措置として広く認められよう。一方で③「防衛型」については、差し迫った必要性や衆目の認める名分もなく、経営者の保身が疑われるものを排除するため、厳しく限定的に扱わなければならない。いずれも決定的な局面では、株主総会の意思や独立取締役の判断を得ることが、非上場化に至る望ましいプロセスとなろう。

 また大企業の中でもサントリー、ロッテ、竹中工務店などは非上場企業である。例えばサントリーは非上場の理由として「酒の醸造には時間がかかり、短期的な利益を要求される株式公開になじまない」、また「直接的な利益に結びつかない文化事業(メセナ活動)のリストラを要求されるため」としている。サントリー株の89パーセントを創業家の資産管理会社である寿不動産が所有しており、先日キリンとの経営統合が破談したのもサントリーが非上場会社である故、創業家の持株比率が大きすぎ、統合後の会社に発言力を有しすぎることが原因になったといわれている。

 今まで見てきたように公開・非公開、上場・非上場会社にはそれぞれメリット・デメリットがあり、一概にどちらがいいとは言い切れない。

経営者は一般に事業規模の拡大を望むものであり、返済の必要のない大量の資金を市場から調達するためにはやはり上場したほうが有利である。もっとも既に知名度を得た企業が例えばワールドのように買収防衛のためや、幻冬舎のように大幅な事業改革のために一旦非上場化するという選択肢も、資金調達の必要性がないならば確かに魅力的である。

今後上場企業の非上場化という動きは日本においても欧米並みに加速していくものと思われる。しかしこれをビジネスチャンスとみて今回のように投資ファンドが攻撃を仕掛けてくる可能性もあるので、この分野には今後、より注目が集まるように思う。

                                 以上

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