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【DOPEDOWN】ヒキガネ

__甘い弾丸を受けろ

暗い階段をゆっくりと下りチケットとコインを渡す。ギィと重い音をたててその大きな扉をゆっくりと開けると既に少年少女達がその時を切望する様子が伺えた。

彼らの手に掌握されたラバーにはDOPEDOWNとくっきり刻みこまれている。和やかな雰囲気の中、突如暗転したフロアに点々と光るのは彼らの鋭い眼光、それのみだ。


皆さんはDOPEDOWNというバンドをご存知だろうか。吾龍(Vo.)、大和(Gt.)、三代(Gt.)、雄坪(Ba.)、恵大(Dr.)の高いポテンシャルと音楽への情熱を持ち合わせた5人で2016年に結成されたロックバンドである。また彼らは個人でも幅広い活動をしておりネットシーンにその名を馳せている。

私が初めてDOPEDOWNの楽曲に触れたのは彼が別名義である歌い手"KOOL"として六本木に姿を表した2018年3月、XYZTOURのステージだった。その時彼は自身のバンドの楽曲である『Monstarize』を堂々と披露。しかし観客の中でその曲を聴いたことがあるのは半分にも満たなかった。それもそのはず、彼のアルバムの曲なのだからアルバムを聴いていないと分からない。そんな窮地の中でも楽しそうにステージングを繰り広げていたのを覚えている。むしろその逆境すらも楽しみ、笑っていた。
そんなロッカーの醸し出す大仕掛けの悪巧みにフロアは見事に乗せられ、曲の終盤、大きな会場はまるで小さなライブハウスさながらの一体感が生まれていた。彼が自身のアビリティーを存分に発揮した濃厚な数分間。素直にかっこいいな、という印象を覚えた。
その公演最後のMC、「あの曲かっこよかっただろ!、、あれ、俺が作ったんだよ!」と満面の笑みで言い放った彼は本当に輝いていて、気づいたら私は帰りの電車に揺られながらその曲をイヤホンから流していた。

あの電撃からしばらく経ち、環境も性格も聴く曲のジャンルもガラリと変わった私は"KOOLのやってるバンドの曲"ではなく"DOPEDOWNの曲"を聴きたいと思うようになった。
時の流れと共にヴォーカルのTwitterのユーザー名も、順番が逆になっていた。

『DOPEDOWN』『PARADOXA 』

今日までにリリースされている彼らのCDに含まれるほぼ全ての楽曲は言わずもがなゴリゴリのロック。激しいサウンドとそれに融和したラウドな歌声は聴いていて思わずトントン、と指でリズムを取ってしまうような楽しさを感じられる。
しっかりと音源を聴いてみるとただ勢いだけに重点を置いたメロディーではなく、ギター、ドラム、ベース、どこに焦点を当ててみても全員の自己主張がとにかく激しく、バンドメンバー全員の最強かつ最上級の力をうまく組み合わせてゆっくりと回り出した歯車はギャリギャリと音を立てて空間を切り裂く。また、強靭かつ危なげな色気をくゆらせた歌声を武器に持つヴォーカルはそれに呼応するようによく吠えた。

しかし、互いの良さを殺すことを決して許さない緊張感を保ったギリギリの命のぶつけ合いは圧倒的に壮観、この一言に尽きる。
飾らない言葉の弾丸をぶち込んだ作品は聴いた者達の胸を一直線に穿く。一体感を最も大切にし、初めて足を踏み入れた者すらも前へ前へと前進するのを止められなくなる程の魅力に満ち溢れたライブパフォーマンスを彼らは得意とする。
聴衆は息をする間もなく『MASK』を被せられ前衛的なサウンドが鳴り響く大人の秘密基地へと引きずり込まれる。そこに悪戯心が詰まったフレーズが特徴的な『Revolve』を挑発的にお見舞いするとファン達は自ずと腕をステージに伸ばし、熱いスポットに照らされた彼等を師と仰ぐ。

フロアを見渡し不敵な笑みを浮かべると同時にラップやシャウトが波寄せる『PARADOXA』を流し込むと、フロアとステージを別けるはずのベルベットロープは熱さに溶けてしまった。

心も体もゼロ距離で誘惑する『Kingdom』は荒々しい歌声も、肌に感じるスピーカーの震えすらも、惹かれるものがある。

呼吸を忘れる激しいモッシュのさ中、必死に酸素を取り込もうとまだ見ぬ天を仰ぎ瞼を開く。その一瞬に向けられた真っ直ぐな蒼の口径はカタカタと笑う照準を合わせ、迷いなく心臓を突いた。

彼らは迷える少年少女を優しく説き、その手で救おうとはしない。背中を押すのではなく、絶望から這い上がる為、人を護る為、そして己を強くする為の拳銃の握り方を教えてくれるのがDOPEDOWNだ。

「好きも嫌いもやるもやらぬも全部自分で決めろ」と語るバンドマンは飾らないまっさらな強さの理由をその大きな背中で私達に教えてくれた。幾つになっても好きな自分であり続けたいと想うその横顔は青年の面影を残す。

ライブハウスの階段を上がって都会のネオンをしばらく眺めてみる。体が殴られた様に痛む。引き攣る脚は慣れない靴のせい。取れた頬紅は汗のせい。乱れた髪をガシガシ解いてふとショーウィンドウを見るとあまりにも情けない格好をした自分がニヤニヤと笑っていた。


____心臓にぶち込まれた鉛をそっと取り出し、未だ熱帯びるモノをじっくりと眺めたあとボディに入れる。リボルバーをカチリと回すと仄かな煙草の匂いが鼻腔を擽りいつかの夜を思い出させた。それを他人に語り散らかすほど無粋じゃない。くらりとする感情ごとガーターホルスターに押し込める。

紅を引き、ドレスアップをして向かう先は虚構と嫉妬渦巻く、姑息で孤独な現代社会。

ドレスのレース越しに感じる、ぶっきらぼうで禁忌な熱情は私を輝かす最低で最高の相棒だ。




>掲載楽曲
https://www.youtube.com/channel/UCo2V41A8mKwYzb1qF1zzICQ

(writer:momosuke)


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