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自分、に問う。

 印刷室の整理をしていたら、生徒の会話が聞こえる。「勉強ができる人が、賢い人ではないよね。」全くその通りだと、私も思う。小学生のとき、何でも知っていて、できてしまう従兄の“賢さ”ぶりに憧れた。勉強をして乗り越えようと思ったが、そんな浅はかな考えは世には通用しない。つまるところ、そういうメンタルでいるようでは、勉強は長続きしない。そもそも学問に勝ち負けや競争はない。学問とは、真理を探究(追究)することであり、それを楽しむことではなかろうか。このことに気づくまでに時間を要した。今は、教養高き人間を目指し、人のためになるべく学問に勤しむ。
 例年より早くインフルエンザ流行期を迎えているが、ウイルス、人間の生体、遺伝子などについて、大会の合間に他校の生物教員と対話した。ウイルスに感染すると、なぜ発熱するのだろうか。我々が意図して行っているわけではなく、身体が無意識に反応しているのだ。人間のメカニズムって凄いよな。どれほどのことを無意識にやっているのだろう。今も細胞で化学反応を起こしている。逆に言えば、意識的にやっていることはあるのだろうか。何だか虚しさを覚えた。
 2年生のアンケートで、「生きるとは、どんなことですか」と問われる。なんと清い問いなのだろう…。とはいえ、難しい問いだ。また、別の生徒に「いのちを粗末にする人をどう思いますか」と問われ、答えに窮する。善し悪しというものさしでは図れるものでないと考える。映画『ゲド戦記』で、テルーは「死ぬことがわかっているから、命は大切なんだ。」と語る。人間だけでなく、生きとし生けるものはすべて死を迎える。それなのに、なぜ争わないといけないだろうか。
 ノウハウ本然り、本には自分が望んでいるような“答え”はまず書かれていない。仮に答えもどきはあったとしても、それは万人に通用するものでは決してない。本を読むのは、答えを探すためではなく、自分に問うきっかけを得るためでもある。必然的な流れで“問い”があることに気づく。誰かに問うて、答えを得ることはすぐにできるかもしれない、しかし、容易に得たものというのは、大概にして価値が薄い気がする。たとえば、プレゼントでもらったものよりも、汗水垂らし働いて手に入れたもの方が大切にしているのではないか。勿論、世の中に絶対的な答えなど存在しない。だからこそ、自分に問うことが大事だと思う。そして、おそらく「答え」は自分の中にある。その境地にいつ辿り着けるかは分からないけれども、問い続けた証が今のあなた自身であることは間違いない。
 私たちが持っているものは、いつかは失ってしまう。それゆえに、すべてが宝物だ。そして、どれも自分を輝かせてくれるもの。私にとって、生きることは楽しさである。授業を行うこと、数学(算数)を解くこと、あなたと話すこと、新しいことを知ること、それらはすべて楽しい。その中でたくさん自分に問かけるのだが、これまた楽しい。これぞ、人生そのもの。
 こんなことを映画『ゲド戦記』の劇中歌「テルーの唄」を聴きながら想い耽る、私…。

누가 맞고 틀린 게 아닌 걸
誰かは正しくて誰かは間違ってるとかじゃないよ  (IVE『Either Way』)

🎵 人生いろいろ。人の色もいろいろ。対話を楽しもう~ 🎵
 
【Color 70】先生の座右の銘は何ですか。
【A】四字熟語でいえば“粉骨砕身”です。頼まれたことは、極力断らない精神でいます。人に物事を頼むときというのは、その人に任せてもいいと思ってくれているわけですから、その思いを無碍にしたくない気持ちが強いですね。さらには、それをこなすことは、私自身のスキルアップにも繋がるので、やれる範囲でやってみたいです。断るのは簡単ですけど、それが他の人のところにいってしまうと考えると、何だか少し空しいですよね。それなら、いっそのこと「覚悟」を決めて、挑んでみることは人生において大事だと思っています。でも、その挑戦こそ、今の私にとって大事なものです。
 
【Color 71】100年後に進化していく予想される数学の求め方、公式などはありますか。
【A】おそらく、大半はAIが計算してくれる時代になるのでしょう。そう考えると、計算力を養ったり、自力で求めたりすることが減ります。だから、求めさせるプログラミングの方が必要になるかもしれませんね。自分で試行錯誤しながら考えることが楽しいのに、答えがパッと出てきてしまうのは便利ではありますが、そんな人生にはどことなく悲しさを覚えます。
 
【Color 72】数学の中で一番“ため”になったことは何ですか。また、数学で一番身になる単元は何ですか。数学を学ぶ上での、コツみたいなものはありますか。
【A】対話型オンラインサロン(勉強会)に1年間参加していたのですが、その参加者の一人にいつも「文章というか、モノの捉え方が数学的ですね。そういう世界観を感じます。」と言われていた。へえ、そうなんだと思いました。書いている張本人は、そんなことは微塵にも思っていません。読む人によって、感じ方が違うんだなと思ったら、面白いですね。一番“ため”になったといえば、教員採用試験で2次試験の個人面接において(ゼミで学習していた)『変分法』について問われたとき、流暢に説明できたことでしょうか。興味を持ってやっていたからこそ、どんどん自分の言葉で説明できました。
 例を挙げます。東京から大阪まで行くとして、どういう列車を開発したら、一番早く行けるでしょうか。リニアモーターカーのような物理的な動力を必要としません。答えは「重力列車」です。地球上の2点を結ぶトンネル内を惑星の重力を利用して移動する構想上の交通機関で、実現すれば地球上の任意の2地点間を42分で移動することができます。
 数学を学ぶ上では、“知りたい”という興味・関心があることは大事でしょうね。そして、問題を解けたときの達成感を十二分に味わうことだと思います。
 「図形」は、ただの計算ではないし、発想力を養うには打ってつけの単元です。何かモノを開発するにしても、「図形」の捉え方が必要ですからね。
 
【Color 73】生きることって、どんなことですか。
【A】あなたはどう考えますか。仏教には「生死一如」という言葉があります。私は死を恐れて、死にたくないと思っています。でも、死があるからこそ、懸命に生きようともしています。そもそも私たちは“生かされている”のです。ある人が「死んだ後の世界を楽しみにしていればいいのよ」と言っていましたが、その境地にはまだ至りません。だから、今は、生かされている世界をいのちある限り、感性溢れんばかりに楽しみたいですね。それが私にとって、生きることです。

2023.11.2

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