Mリーグ2020レビュー② U-NEXT Pirates編

Mリーグ2020シーズンにおけるチームレビュー。当方で集計したデータを中心に総合的に判断し、各選手5段階評価による査定を行います。
シリーズ第2弾は年間総合7位・U-NEXT Piratesの特集です。

【チーム総評】手数を多くする戦法は継続。初志貫徹の戦略で戦うも相対的な火力不足でトップを取りこぼし、ディフェンディングチャンピオンがまさかの第1カットラインで沈没

【チーム評価】攻撃:E 守備:A 加点効率:E 運:D 総合査定:E

8位・セガサミーフェニックスと打ち筋データも着順分布も全く対照的なデータとなったU-NEXT Pirates。リーグ最高和了率21.32%放銃率もリーグ最少9.76%の数値をそろえ、堅守速攻・手数で相手の和了を摘み取る戦いに徹したデータは昨季の戦略と全く同じとなる。

★チーム打ち筋確定値

データ上難ありの平均打点について、もう少し掘り下げてみたいと思う。
次の画像は今季レギュラーシーズンにおける個人別の打点分布を表した分布表である。
ご覧いただきたいのは表の右端、和了における満貫以上の和了の割合についてである。
全体統計としては全和了のうち、43.90%が満貫以上の和了となった統計記録であるが、以下の図表をご覧いただきたい。

【Mリーグ2020レギュラーシーズン個人別打点分布表】

レギュラー打点分布

麻雀は倍々ゲームの点数計算のシステムであることから、点数の打ち止めとなる満貫を作ることが最も効率の良い加点となる。満貫を基準にした和了の内訳を見ると、Piratesはリーグワースト2位の36.02%と火力不足は否めない。最終戦の最後の最後までカットラインを争った雷電との差はここで生まれたか。高打点・低放銃率の意識が高いプレイヤーが揃うMリーグにおいて、この戦法を貫くとすると他を寄せ付けない圧倒的な速度が必要となると分析する。

連覇を狙って船出となったMリーグ2020シーズンは、無念の第1カットラインで沈没。選手に掲げたシャーレとゴールドゼッケンのマストは海の藻屑に消える。今季はレギュラーシーズン中、一瞬でもチームトータルスコアにおいてプラスポイントを記録することができず、レギュラーシーズンにおけるチームのプラススコアを記録したのは2019年2月11日を最後に丸一年マイナス生活となってしまった。
来季は王座奪還のチャレンジャーに名を変え、4シーズン目の出航となる。しかも、編成は変えず、8チーム中唯一の『2季連続5位以下強制入れ替えルール』の適用可能性がある状態で、文字通り来季のユニフォームに袖を通すことができるか否か、この部分でのプレッシャーが響いてくるか不確定要素は強い。
青きデジタル軍団は、この不確定要素さえも計算に組み込んで強みに変えるのか、パイレーツクルーの期待を背負い、2021抜錨の時は近い。

【選手別査定】

小林剛選手:驚天動地の31試合1ラス、ラス回避率.968の順位取りで素点は全選手中トップ。オカの負債を見事にカバーして最終盤の皆勤賞で獅子奮迅。

【査定】攻撃B 守備A 加点効率D 運D 総合査定B
◆個人成績
 レギュラー   31試合出場4勝 +337.5pts(3位/30名)
 セミファイナル -
 ファイナル   -
★個人三賞   ラス回避部門(.968)

27小林

驚きの31戦1ラス、手元の集計のMリーグレコードでは3年を通算して集計した連続ラス回避試合数でランキング常連となっている。

【Mリーグレコード(2020シーズン終了時点)】
※黄色網掛けは現在継続中の記録

スクリーンショット 2021-08-01 185515

ご覧のとおり小林剛選手は3年間で区間14試合以上連続ラス回避4度も達成しており、天鳳ルール(ネット麻雀天鳳ではラスのポイントダウンが非常に高い)の傾向が見られる。
雀風は昨季を継続。まるでリプレイを見ているかのように全くブレないシステマティックな高和了率・低放銃率・低打点のセットで戦い抜いた。
昨季レギュラーシーズンの主要指標データと比較をすると

和了率 2019:23.08%(4位)→2020:26.80%(2位)(+3.72ポイント)
放銃率 2019:8.55%(4位)→2020:9.39%(6位)(+0.84ポイント)
平均打点 2019:5,570点(27位)→2020:5,856点(23位)(+286点)


全くブレのない、己のスタイルを貫くのは正に麻雀バトルサイボーグ。その独特なプレイングスタイルとなるベースはやはり副露。副露率(独自集計)は32.87%で全選手中No.1である。各種の指標データにおいて相対的な立ち位置も変化せず、小林選手流の完成されたスタイルが2年連続オーバー200ptsの大仕事をやってのけた。
要注目ポイントとして挙げるのはリーチ成功率の高さ。守備に注目が行きがちだが、今季のリーチ成功率69.33%(52リーチ和了/75リーチ)は圧巻の一言で、攻撃面でも活躍が光るシーズンとなった。

個人では1/19の第60節からなんと16開催日連続登板という「戦術・一日一剛」で勤続疲労・酷使無双の大立ち回りを演じるもののカットラインクリアまであと一歩に迫りながら最終戦で届かずにチームは姿を消した。本人的には最終戦南3局での放銃は「悪い偶然」という表現が近いだろうか。いい偶然、悪い偶然を受け止め、ブレないサイボーグは更なる進化を目指して2021シーズンの戦いに備えている。

朝倉康心選手:歯車が狂った麻雀界の実写版アミバ。僅か2勝の大不振に陥り、課題は「メンタル」の部分。崩れたリズムを立て直せる技術を持てるかが課題に。

【査定】攻撃D 守備C 加点効率B 運E 総合査定D
◆個人成績
 レギュラー   29試合出場2勝 ▲294.0pts(29位/30名)
 セミファイナル -
 ファイナル   -

28朝倉

昨季のファイナルシリーズの大三元、配牌に恵まれていたとはいえターツの選択からミスなしで一撃必殺を見せつけた記憶が鮮明に覚えているが、今季は火力が全く伸びずに大ブレーキ。和了率17.80%(21位)平均打点5,438点(28位)と攻撃指標が悲惨な数値に。とどめを刺されたのは平均ドラ使用枚数が0.93枚でリーグ最下位裏ドラ的中率20.00%(リーグ28位)でツキも味方せず屈辱のブービースコアに沈むことになった。
今季を象徴するデータはただの1度も跳満の出現が無いという珍事。指標的なところのほかでも、配牌で早くも勝負ありとの印象を持つほどの手バラ配牌で運としてはワーストクラスであったのは間違いない。

スコア的な部分以外で気になってしまったのは、誤ツモ発声で親番を失うという勿体ないポイントがあった。多少厳しい言葉となるが、2018シーズンでの錯チー、今季の誤ツモ発声など和了放棄に関する事項でやたらと目立つシーンが多いのはマイナス評価とせざるを得ない。データ視点ではない技術・所作の観点でのレベルアップと、テクニックではないメンタルの部分での強化が覇権奪還への鍵となる。

石橋伸洋選手:策士策に溺れる。手を捏ねすぎて失った時間は取り戻せずに自滅。3期連続レギュラーマイナスとなり崖っぷちに立たされた。

【査定】攻撃D 守備A 加点効率C 運E 総合査定D
◆個人成績
 レギュラー   21試合出場3勝 ▲189.9pts(24位/30名)
 セミファイナル -
 ファイナル   -

29石橋

昨季セミファイナル爆発の"キング"は鬼門のレギュラーシーズンを攻略できず、データとしては朝倉選手とほぼ同じような傾向データが並ぶ。
守備については放銃率8.76%とリーグ3位の成績を残しA査定。昨季の10.48%から▲1.72ポイントと見事に失点をシャットアウトした。守備が光った半面で、攻撃指標はやはり物足りない。和了率19.71%はリーグ12位で平均をクリアしたものの、リーチ成功率39.06%はあまりにも失敗しすぎた。また、平均打点は全体5,170点でリーグ最下位。これは昨季が6,697点であったため、昨季比▲1,527点とストップ安並の大暴落となる。この1,500点余りの下落は想像できない程大きい。毎回の和了でリーチ棒1.5本分昨季と比べて損していると考えると、ゲームにおいて相手に与える脅威は小さかった。
そして、運指標も厳しい。平均ドラ使用枚数は1.02枚でリーグブービー赤ドラに恵まれず1和了あたりの枚数は0.31枚でリーグ最下位。手を捏ね、相手の裏をかく赤切りリーチが不発に終わり、どうにも考えすぎて導いた一手が実らずに終わってしまった。
来季はユニフォームに袖を通すことができるかの戦いが控える。鬼門のレギュラーシーズンの成績を参照すると

2018レギュラー:▲162.4pts(17位/21名)
2019レギュラー:▲168.1pts(26位/29名)
2020レギュラー:▲189.9pts(24位/30名)


と、3年連続大幅な3桁マイナスはいただけない。崖っぷちのキングは起死回生の復活を遂げられるのか、2022シーズン契約を勝ち取るために正念場の4期目を戦う。

瑞原明奈選手:逆転の女神は今季は微笑まず。リーチの積極性は見えるものの決定打を放てずに高火力選手の餌食となる。

【査定】攻撃C 守備C 加点効率A 運D 総合査定C
◆個人成績
 レギュラー   21試合出場3勝 ▲117.9pts(21位/30名)
 セミファイナル -
 ファイナル   -

30瑞原

2年目を戦う瑞原選手は随所に健闘が光るもトップ率、連対率、ラス回避率の全てで平均を下回り不完全燃焼に終わる。
データ面に注目するとそこまで悪いデータが並んでいるわけではない。瑞原選手はパイレーツには珍しい一発長打タイプで、他の3選手と比べると和了率は多少犠牲にしながらも高打点を作るスタイルで副露よりは門前寄りのプレイングスタイルとなっている。それを踏まえて見てみると、和了率18.30%はボトムハーフながらも18位、平均打点は7,014点でリーグ9位と上位陣に付ける。
バランスを取る指標で守備の放銃率を見ても放銃率10.64%はリーグ13位でまずまずの成績を残した。
主要な3データについては、昨季から劇的にデータを改善している。

和了率 2019:16.67%(28位)→2020:18.30%(18位)(+1.63ポイント)
放銃率 2019:11.57%(20位)→2020:10.64%(13位)(▲0.93ポイント

平均打点 2019:7,047点(9位)→2020:7,014点(9位)(▲33点)

プレイングスタイルは変わらずも、課題だった和了率、放銃率の指標を改善して内容的には昨季からの成長は見ることができた。
敗戦の要因を探るとなると打ち合いのゲームに巻き込まれてツモで削られたゲームが多かったのが挙げられる。今季の瑞原選手の対戦相手との相対的なポイント差が下表となる。

【2020レギュラーシーズン瑞原選手vs相対ポイント】

30瑞原

相性の悪かった選手は近藤選手、堀選手、白鳥選手
この3者のデータの特徴はいずれも平均打点が高い傾向を持つ。(近藤選手8,067点/1位、堀選手7,335点/5位、白鳥選手7,298点/6位)
一撃高打点同士の打ち合いとなると一歩火力が及ばず削られて順位点を落とすゲームが多かった。特に顕著なのがこちらのゲームである。

画像9

ご存知「東場は夢芝居、南場は大魔王タイム」第56節第1試合、伝説の箱下27,300点から34,500点へ大復活した佐々木寿人選手、辛くも逃げ切った近藤誠一選手、この巻き添えを喰らったのが瑞原選手で4和了1放銃でラスを引くという悪夢以外の何物でもない巻き込まれ事故だった。

全体的な展開として打ち合いに負けてしまったシーズンだったが、パイレーツに持ち合わせていない爆発力を秘めている。高火力スタイルを磨くか、捌きの副露を研ぎ澄ませるか、逆転の女神はどの様な航海図を描くのか楽しみにしたい。

---------
次回は年間総合6位 TEAM雷電のシーズンレビューをお届けいたします。