Mリーグ2019レビュー⑧ U-NEXT Pirates編
シリーズでお伝えする今期のMリーグの総括編。
8チーム29選手の今期の試合内容を、独自の指標で査定を行います。
第8回目のレビューは今期年間総合優勝、U-NEXT Piratesを特集します。
チーム総評:船頭率いて船頂に登る!好守連発の守備と手数重視の和了ラッシュでチャンスの芽を摘みまくり船首にチャンピオンシャーレを掲げる!
優勝が決まった瞬間、クルー達はなだれこんで来た。レギュラーシーズンは最終日試合なしでドリブンズの結果待ち、猛追を躱しきり6位でセミファイナル行きのチケットを手にする。セミファイナルではスタートダッシュに成功し、格闘倶楽部・雷電を抜き去りポイントはマイナスポイントながらも4位通過、どのラウンドでも殿に位置しながらも最後の最後、致命的な一撃は堪えてファイナリストに名を連ねた。
ファイナルは12戦5勝、打点は低くとも副露で速度のギアを一段上げて和了をモノにするブレない戦いが打点派チームを上回った。最後の最後麻雀の神様の気まぐれ、フェニックスの猛追を薄皮一枚凌ぎ切り、蒼き海賊軍団の航海記第二章は小さな宝箱に眠るシャーレを手にしてその航海日誌を締めくくった。
ご覧のとおり今季118試合で平均打点はチーム最低の6,146点。しかし、和了のスピードがいいリズムを刻んできた。1試合平均2.52和了、和了率は20.31%でチームトップ、そしてファインプレーはリーグトップタイの1試合平均放銃回数1.17回の堅守が刻みの麻雀の効果を倍増。一撃打点指向のMリーグではある意味異色といえるスタッツで2019シーズンを制覇した。
Piratesの代名詞といえばMリーグファンの間ではもうお馴染みとなっている『副露戦法』だろう。Mリーグ全体でのリーチ/副露/黙聴の構成比率が『リーチ51.93%/副露31.23%/黙聴16.84%』(2018~2019シーズン全3653和了)であるが、Piratesの副露和了比率は40%と全体より9%も高い。黙聴は平均並みであるため、リーチより副露をかなり重視している。
また、全体の副露率も特色がある。言うまでもなくチームトップの27.22%の副露率であったが、実は2018シーズンよりは副露率が落ちている。(昨シーズンは29.31%)今シーズンから見始めた方は「Piratesはすごく鳴いている」という印象を持っているかもしれないが、昨シーズンはもっと鳴いていたのである。
それでいながら、副露での和了内訳が上昇しているのは鳴き仕掛けの正確さに他ならない。守備面が脆弱になるリスクを負う戦法だが、見事な守備でデメリットを感じさせない速度感を保ち、昨年からワンランクアップした鳴きが今季のMリーグを席巻した。
来季はディングチャンピオンとしての出場となる。今季のドリブンズに象徴されるとおり徹底的なマークを受ける立場となる。しかし、荒波に揉まれた海賊軍団はまた一つ力をつけ、その選手に輝くシャーレを見事防衛してくれる期待も持てる。船速一杯の鳴き仕掛けが冒険記の第三章をどの様に書き記されるか、凱旋の2020シーズンに期待したい。
選手別総評
小林剛選手:Mリーグ歴代2位タイの16連続ラス回避をマーク。鳴き仕掛けで制圧した空中戦で最高和了率をゲットし、攻守バランス絶妙のシーズンでエース級活躍。
【査定】攻撃B 守備A 加点効率A 運C 総合査定A
レギュラーシーズン最終節。Piratesにとっての第90試合は生き残りか脱落かを分ける大勝負に臆することなく登板。この日の小林選手のプレイにも冷静さが光り、見事ドリブンズより着上のポジションを守って翌日を迎えることとなった。
時は流れファイナルシリーズ。やはり殿の務めは小林選手。フェニックスとABEMASとの条件戦をここも変わらず冷静に打ち切り、王者としてその名を刻んだ。
プレイングはかなり独特。通期平均打点5396点はリーグ最下位。しかし、圧倒的な副露率は通期31.33%でリーグ2位、1試合平均和了回数2.84回もリーグ2位、そして和了率は堂々24.00%でリーグトップを奪取し、手数の多さで他者を圧倒した。
重ねて筆者が述べることだが、この副露戦法は守備が脆弱になるリスクを負う。だからこそ、守備指標が好成績でないと成り立たない戦法だが、こと小林選手にあっては全く問題がない。通期放銃率7.78%、1試合平均放銃数0.92回と、いずれもリーグ2位の指標で速度感を活かすメリットを最大限発揮した。余計な放銃を減らしてラス回避も見事な成績を残す。通期86.84%のラス回避率は道中でMリーグ歴代2位タイとなる16連続ラス回避をマーク。昨シーズンまでの連続ラス回避レコードホルダーとしての威厳を見せつけた。展開で先行する場面を多く作り、流局聴牌率は45%、連荘率は39.68%と親番のアドバンテージも活かしきり攻守速度いずれも最高評価。240.9ptsを積み上げ優勝の立役者となったことは誰の目にも明らかであり、総合評価も最高に査定した。
朝倉康心選手:大スランプに陥った2019シーズン。Mリーグワーストとなる5連続ラスを引き低迷するもののファイナルでは意地の大三元で面目躍如。
【査定】攻撃C 守備B 加点効率C 運E 総合査定D
今季の朝倉選手はどこか「らしさ」が出なかった、そんな印象を持つ。昨季たった一人で4万点を稼いだ聴牌料収支はまさかの+2000点(レギュラーのみ)で大幅に収入減。「形テンは勝負手」の座右の銘を持つ朝倉選手が流局の聴牌が取れない姿を見るのは今期の不調を表していたのかもしれない。
総じて言うと非常にゲーム展開が苦しい。攻守ともに大崩れしている指標がない中、強いて原因を探るのであれば平均打点の低さが他者へのプレッシャーになりえなかったかもしれない。大スランプのレギュラーシーズンは平均打点5311点でリーグ最下位。小林選手のように手数でカバーできたかと1試合平均2.46回の和了回数で指標上は思えるが、大きなトップが少なく素点を伸ばせていなかったのがスコア低迷の原因。レギュラーシーズンラスト4試合では全ラス、うち2回はノー和了、素点だけで10万点を失いセミファイナルまで引きずる谷底を這いまわった。
しかし、失地回復捲土重来のファイナルシリーズ。舞い降りたチャンスを物にしてMリーグ史上2例目の48000点和了。叩き出したスコアは+94.4ptsとMリーグ歴代10位のハイスコアをマークし、最後の最後に復活の狼煙を上げた。
浮上のきっかけをつかめなかった今シーズンをバネにして、2020シーズンでは粘り腰の強い「らしい」麻雀を見せてもらいたい。
石橋伸洋選手:セミファイナルで覚醒し9試合で280ptsを叩き出す「ポストシーズン野郎」襲名。自団体の大先輩との大一番となったファイナル第11戦は完璧なゲームで優勝への道標に。
【査定】攻撃C 守備D 加点効率C 運A 総合査定B
誰が呼んだか「キング」の称号。その名に恥じない活躍ぶりを見せたのは間違いない。昨季から跨いで10試合トップなしとなっていた今季レギュラー3試合目でトップを獲得すると前半戦は快調にポイントを積み重ね、折り返しの第90節時点では10試合登板3トップ、2着5回、ラス1回と上位戦線をひた走っていた。しかし、後半戦は朝倉選手と共に大失速。3連続ラスを引くと総崩れの6試合連続逆連対・トータルで299.0ptsを吐き出す逆噴射スイッチが押されて▲168.1ptsの24位に沈んだ。
しかし、セミファイナルで一気にV字回復。放銃率は22名中最下位となる17%だったが、29%という圧倒的和了率でゲームを逆転。南場でのメイクミラクルが登板6試合全連対でセミファイナルを制した。
今シーズンの真骨頂・ファイナルシリーズ第11戦、自身3試合目の登板はシャーレを争うフェニックスとABEMASの直接対決、フェニックスには自団体の最高峰タイトル・最高位を一昨年度獲っている近藤誠一選手。Mリーグにおいては鉄壁のガードを誇る近藤選手から和了をもぎ取り、見事第2戦を着順勝負にする殊勲のトップを獲得した。
データをひも解くと、レギュラーではとにかく和了に見放された印象を持つ。和了率17.14%はレギュラー27位、平均打点は中位クラスの6697点をマークするが手数が足りずに後塵を拝した。守備もさほど悪くない数字だったが、親番の平均収支はレギュラー最下位となる▲693点。これは1局親番を経験すると700点近く支払うということであり、連荘すればするほど損な期待値となっている指標である。親番で加点どころか失点をしているのでは流石にゲームを制せられず、苦しいレギュラーシーズンの象徴となっている。
なお、今季は抜群に運指標がよかった。とても昨季では裏ドラが悉く空振りに終わっていたとは思えないほど裏ドラに恵まれ、通期の裏ドラ的中率は42.31%でリーグトップのスコアをマークした。
瑞原明奈選手:遠い和了に苦しみMリーグ仕様のアジャストを宿題に残す。一撃の放銃が致命傷になるゲームもあり、来季は手数を増やせるか。
【査定】攻撃C 守備D 加点効率C 運D 総合査定D
初参戦の今シーズン、終わってみればトータル▲87.3pts、トップ率27.27%は平均をクリアしたものの、連対率・ラス回避率は平均を下回りマイナスポイントでのフィニッシュとなった。
まず、通期和了率が15.92%でリーグ最下位。平均打点は7243点で6位となっており、小林選手・朝倉選手のような手数を刻むタイプではなく、一撃打点タイプとなっているのがPiratesとしては珍しい。高和了率・低平均打点vs低和了率・高平均打点の優位性の検証は今後していくところだが、少なくとも今期の瑞原選手には、もう少し和了が欲しかった印象を持つ。親では高打点を叩いているが、子では中位クラスとゲームを一発で決める勝負手が中々入らずに競り負けた試合が多かった。
また、守備指標で気になるのは平均放銃点。放銃率は通期10%と悪くはないが、一撃放銃点が7441点でリーグ最下位なのはマイナスポイント。しかし、セミファイナル以降のラウンドでは守備指標に改善が見られており、来季の初めから攻守のバランスが取れていれば上位戦線に名乗りを上げることも十二分に考えられる。
そして、瑞原選手で外せないのは「とにかく運がなかった。」この一言が今季を象徴する。なんと、1年間通じて一発での和了がなかったたった1人の選手である。60回リーチ宣言をして、全てが空振りとなる悲運であった。
Mリーグの一発和了率が9.87%であるため、60回連続で一発を空振る確率は90.13%の60乗≒0.196%という紙のように薄い確率である。
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以上、2019シーズン全選手の査定をお届けしてまいりました。
本シリーズを最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。(了)