Mリーグ2020レビュー④ KONAMI麻雀格闘倶楽部編

Mリーグ2020シーズンにおけるチームレビュー。当方で集計したデータを中心に総合的に判断し、各選手5段階評価による査定を行います。
シリーズ第4弾は年間総合5位・KONAMI麻雀格闘倶楽部の特集です。

【チーム総評】エース・佐々木寿人選手の魔界大行進。必殺のビッグゲームを炸裂させるものの2人目が現れずチーム力としての弱さが最終的に命取り。若返りに舵を切ったチームは吉と出るか凶と出るか。

【チーム評価】攻撃:C 守備:D 加点効率:C 運:D 総合査定:D

2020シーズンの大躍進、誰が呼んだか「魔王」の称号。元々攻撃的なスタイルを掲げる格闘倶楽部に完璧にマッチした戦いをしたのが今季MVP佐々木寿人選手であった。

★シーズン通算チーム打ち筋データ

★シーズン通算個人打ち筋データ

格闘倶楽部の武器は麻雀の華と言ってもいいリーチ戦術。チームのリーチ率は8チーム中トップの24.79%。4局に1局はリーチを宣言する雷電とはまた異なる門前戦法である。1試合平均のリーチ回数は勿論トップの平均3.05回。腕を振るチームの是を最大限表現した。

今季、リーチのメリットを最大限料理したのが佐々木寿人選手と言っても過言ではない。湯水の如く投げたリー棒は延べ151本。たった一人で格闘倶楽部の46.7%のリーチ棒を捧げた。手の中に跳満があろうがなんのその、積極果敢なリーチ戦術がレコードの13翻、実況陣も唖然茫然大絶叫のリーチ、ツモ、嶺上、ダブ東、赤、ドラ7を生み出した。
しかし、残念ながら2人目が現れなかった。エースの救援役となる前原選手の不調、中継ぎ役となる高宮選手もあと一歩が伸びず、クローザーとして期待された藤崎選手も守備戦術が嵌まらず終わってみれば14試合連続ノートップで終戦。1人が良くても援護がもらえず、チーム成績はカットラインすれすれという所が精いっぱいだったか。セミファイナル最終日、格闘倶楽部は全日程を消化しての抜け番。風林火山の逆連対、他力条件とは言え条件を残していた。しかし、最後の最後執念の条件クリアを仕上げた勝又選手、座順でアシストを行いやすくトップがほぼ確約された状況を確信した多井選手の前に3年ぶりのファイナルは届かず5位で終戦となる。

来季は前原雄大選手、藤崎智選手が退き、チームは若返りとなる。団体内の桜蕾戦覇者・伊達朱里紗選手、そしてMリーグ史上初の移籍となった滝沢和典選手が加わりフレッシュな顔ぶれがそろう。

「前も申し上げた通り、悔しがる権利が無い麻雀だったと思います。本当にすいませんでした。」(前原雄大選手 2020/11/13 第1試合4着インタビューより)

敗戦でも前のめり、腕を振りまくるのはファミリーも託したチームの是。プロフェッショナルとして敗北を悔しがるための麻雀をすること、この言葉に胸を打たれた格闘俱楽部ファンは多かっただろう。
前原雄大選手は3年間、藤崎智選手は2年間、果たせなかった約束と無念と期待が皺となってユニフォームに刻まれた。オーナー、スポンサー、背後の大応援団のファミリー、そして戦いの舞台を去る2選手のから託された期待は並大抵ではない。生半可な決意では袖を通すことすら許されないユニフォーム、戦う決意と覚悟を背負い込んで、伊達朱里紗選手と滝沢和典選手は2021シーズンにトリコロールを身に纏う。
4人一心同体、雀力の運命共同体は全てを焼き尽くす太陽となるか。明鏡止水の青空の下、高々と人差し指を天に突き刺して、終わらないコナミの夏が今始まる。

【選手別査定】

佐々木寿人選手:疾風怒濤・魔王の宴!Mr. All my turn が仕掛けた業火のリーチ攻勢で圧巻の個人MVP!

【査定】攻撃A+ 守備C 加点効率A 運C 総合査定A
◆個人成績
 レギュラー   30試合出場13勝 +494.1pts(1位/30名)
 セミファイナル  7試合出場1勝 ▲80.8pts(17位/22位)
 ファイナル 
  -
★個人三賞    MVP(+494.1pts) 
         半荘最高スコア(+114.0pts)
☆レコード    Mリーグ歴代ハイスコア(+118.2pts)
         1和了ドラ使用枚数(9枚)
         1和了翻数(13翻)

12佐々木

12佐々木

これを圧巻と呼ばずして何と呼ぶか。見る者を惹きつける攻めっぷりは麻雀ファンならば爽快感すら覚えてしまう、そんな棒攻めを展開した。
レギュラーシーズンでのスタッツは攻撃指標は非の打ちどころのない完全制覇。和了率・1和了平均和了回数・平均打点・全てが高順位と元々のオフェンス能力が高い素質と立ち回りが完璧にマッチした。

和了率 2019:18.36%(19位)→2020:24.81%(3位)(+6.45ポイント)
放銃率 2019:12.05%(23位)→2020:10.03%(10位)(▲2.02ポイント)
平均打点 2019:6,906点(12位)→2020:7,789点(3位)(+983点)


主要指標は全て上向き。攻撃は上位、守備も中位へ数値が伸びて平均打点はほぼ1,000点アップという驚愕の伸びを見せつけた。
冒頭に申し上げたとおり、1シーズンで投げたリーチ棒は延べ151本。1試合当たりのリーチ回数はたった1人4.00回を超えるレギュラー4.20回を記録する。兎に角攻める。攻めなければ始まらない。世界一千点棒を点箱に入れたくない男・佐々木寿人選手のリーチ攻勢を裏付けるデータは3シーズン通算のデータでも表れている。3シーズン通算のリーチ回数は延べ423回。この指標2位の瀬戸熊直樹選手が303回。ぶっちぎりである。この時点で点棒にして12万点分差を付けてリーチ棒を叩きつけている。

一度「ずっと俺のターン状態」となってしまっては手を付けられない。所謂「点棒の壁」を最大限に活かす圧倒的な棒攻め麻雀でビッグゲームを数多く作る。

【Mリーグレコード(2020シーズン終了時点)】
※表中黄色網掛けは継続中の記録

レコード

1試合獲得スコアの項目をご覧いただきたい。歴代十傑に佐々木寿人選手が4回も登場しており、一撃の破壊力・ビッグゲームを仕上げる力を持ち合わせているかが分かる記録を残している。

ガラリー共同戦線の御大将・前原雄大選手、東北ラインの盟友・藤崎智選手の意志をMVPの勲章に沁み込ませ、2021シーズン・新生格闘倶楽部をどう引っ張っていくか非常に楽しみである。己のファイティングスタイル、プレイスタイルのブレは一切ない。妥協無しのリーチ攻勢は2021シーズンでどんなドラマを生み出すか、徹底マークを振り払い記録も記憶も残すことができるか。

高宮まり選手:対戦相手を火傷させる彩の花。攻めたい心理と裏腹に訪れない攻め手。攻守のバランスを崩し立て直せず沈黙のレギュラーシーズン。

【査定】攻撃E 守備E 加点効率C 運D 総合査定E
◆個人成績
 レギュラー   20試合出場3勝 ▲246.0pts(28位/30名)
 セミファイナル  4試合出場2勝 +118.0pts(2位/22位)
 ファイナル 
  -

13高宮

13高宮

昨季のレギュラーシーズン和了率2位・23.70%のデータを残した高宮選手の大ブレーキはチームとしては誤算だった。前へ前へと腕を振る意識が先行し過ぎたか、今季は和了を逃す展開が連発。勝負手が悉く決まらず攻撃指標の大暴落がレギュラーシーズンの成績に直結してしまった。

和了率 2019:23.70%(2位)→2020:15.77%(28位)(▲7.93ポイント)
放銃率 2019:12.96%(26位)→2020:13.28%(28位)(+0.32ポイント)
平均打点 2019:6,577点(17位)→2020:5,808点(24位)(▲769点)

ご覧のとおり攻守ともにデータは厳しい数字が並ぶ。昨季好調だった攻撃指標は一気にワースト3まで落ち込み、気負いが裏目を引き沈黙の2020シーズンとなったと言わざるを得ない。
象徴しているのはリーチ成功率の指標。格闘倶楽部のバロメーターとも言えるリーチに関する項目であるが、高宮選手は1試合平均リーチ回数が2.70回と、リーグ30人平均2.60回を上回っている。即ち、リーチに行ける様な手までは入っているのだが、その成功率があまりにも悪すぎた。
昨季のリーチ成功率が61.43%でリーグ3位の高指標、今季は33.33%でリーグワースト。一気にリーチ成功率が半減したとなっては勝てる勝負は相当少ない。
1試合の平均リーチ回数を比較すると、昨季が3.33回/1試合に対し、今季は2.70回/1試合と、昨季から分母の要素となるリーチ回数自体が減っている。分母が減ればパーセンテージが上がるものだが、リーチでの和了回数を見ると43回→18回とほぼ半減している。聴牌料収支が+17,500点とツモ和了も効かずにリーチ棒を消費した結果、相手方に和了を重ねられて後手を踏んだ。
課題の守備についても、今季も昨季同様下位に低迷したのは痛い。放銃率はほぼ横ばいで下位を脱せず、攻撃力が半減、守備力は維持となってはリーグ下位の成績は残念ながらこの位置に落ち着いてしまう可能性が高い。

しかし、短期決戦のセミファイナルでは4戦2勝と序盤からトーナメントリーダーとして引っ張るなど、勝負強さを見せつけた。長期戦を戦い抜くための戦略の確立が必須となる中で、触るとやけどをする卓上に咲く彩の花は2021シーズンで満開の花を咲かせることができるか注目したい。

前原雄大選手:凍結された火炎放射器。ガラリー界のグランドマスターはもがき苦しみ抗い戦い抜き、シャーレの悲願を後輩に託してユニフォームを脱ぐ。

【査定】攻撃D 守備D 加点効率B 運D 総合査定D
◆個人成績
 レギュラー   21試合出場4勝 ▲251.8pts(26位/30名)
 セミファイナル  3試合出場0勝 ▲8.3pts(13位/22位)
 ファイナル 
  -

14前原

14前原

カンチャン・ペンチャン・単騎・シャボ・亜両面・ノベタン・中膨れ、麻雀のプレイヤーとして馴染みの深いこの「悪待ち」を、ノータイムでリーチに打って出ていともやすやすツモりあげる。待ちも悪い、打点もない、先行リーチであれば勇猛果敢に一番手でリーチを宣言するガラリー界のグランドマスターは、勇退の2020シーズンでも繊細で大胆な麻雀を心がけた。

和了率 2019:25.11%(1位)→2020:20.00%(9位)(▲5.11ポイント)
放銃率 2019:13.62%(27位)→2020:10.80%(16位)(▲2.82ポイント)
平均打点 2019:6,264点(22位)→2020:5,374点(29位)(▲890点)

『沢山アガって沢山振る』シンプルに表現された前原選手の戦いとして昨季が正にそのスタイルを象徴するデータが並んでいたが、今季はすこし毛色が違う。
昨季の和了率王者が今季は揺り戻しで落ち込むものの平均をクリアする和了率20.00%。気になるのが放銃率であり、昨季比2.82ポイント減少する10.80%となったのは数値としては高評価だが、裏を返せば手と手がぶつかり合う機会が少なかったか。その証拠に平均打点は今季ブービーとなる5,374点昨季比約900点の平均打点ダウンは血気盛んな攻めっ気溢れる格闘倶楽部としてはやや物足りない。
和了のデータを掘り下げると和了内容の内訳で副露和了が40.00%、昨季37%から約2ポイント少々アップした。リーチ手数が減少し、鳴いた捌き手が増えたことにより平均打点は減少。以下のデータもご覧いただきたい。

【2020レギュラーシーズンチーム/個人別打点統計】

レギュラー打点分布

前原雄大選手は全体の和了に対する満貫以上和了内訳が28.00%リーグワースト2位。麻雀の得点のうち最も効率的な満貫打点を作ることが今季は特に苦戦した印象となる。この指標は昨季から10ポイント以上も落ち込んでしまい、火力が特に弱火となったシーズンで涙を飲んだ。

思い返せば開幕戦直前、開会式直後のインタビューで前原選手が語っていた言葉がリフレインする。

「私には、もう時間が無いんです」

その言葉の真意は本人しか分からない、しかし1シーズンが終わった今となってはその言葉の重みがずしっと重みをもって胸を締め付ける。家族を支える大黒柱として3年間チームに献身してきた。シャーレを掲げることはなかったものの、プロフェッショナルの在り方をチームに植え付けた功績は計り知れない。
そしてまたいつか、2020シーズンのベストショット。あのとびきりのエンジェルスマイルをファミリーへ届けられる時が来てもらいたい。黄龍のユニフォームを脱ぎ、笑顔の勇退で己自身の舞台の幕を下ろす。

【エンジェルスマイル】

画像11

藤崎智選手:気配ZERO・必殺のダマ職人。守備戦法がハマらずトップが遠く、悔しい14戦連続ノートップとなり不完全燃焼のシーズンで悔しい契約満了。

【査定】攻撃E 守備E 加点効率D 運E 総合査定E
◆個人成績
 レギュラー   19試合出場3勝 ▲164.8pts(22位/30名)
 セミファイナル  2試合出場0勝 ▲43.0pts(15位/22位)
 ファイナル 
  -

15藤崎

15藤崎

RTDトーナメントファイナリスト、鳳凰位獲得、短期決戦にも長期決戦にも強い百戦錬磨のベテランもMリーグのフィールドは苦しい戦いだった。
そのプレイスタイルは一発裏ドラ槓ドラに加えて赤あり麻雀では異例中の異例となる黙聴戦法。手の中で速攻で打点を組み上げ、奇襲戦法で勝ち星を上げる、あるいはラウンド終盤のクローザー、チームのポイントを守る役目のクローザーを期待され2019シーズンから4人目の選手として白羽の矢が立ったが、周囲の高打点に引っ張られてじりじりと力負けした印象である。

和了率 2019:17.43%(25位)→2020:16.59%(26位)(▲0.84ポイント)
放銃率 2019:11.93%(22位)→2020:14.35%(29位)(+2.42ポイント)
平均打点 2019:6,966点(10位)→2020:5,703点(25位)(▲1,263点)

ご覧のとおり和了率はほぼ横ばい。しかしながら、放銃率と平均打点がゲームの内容以上に悪化している。クローザー役割、ポイントを守る役割を担っていた格闘倶楽部で唯一といってもいい守備派の藤崎選手が、放銃率がリーグワースト2位となる14.35%となったのはチームも本人も予想だにしなかったか。
イメージとしては堅守速攻のカウンターアタックを思い描いたのだろうが、平均打点もリーグ中位から一気に急降下昨季比1,200点以上も下がる下落率は火力を落とし過ぎてしまった。

和了の内訳を見るとプレイングスタイルは藤崎選手そのもの。Mリーグ全体の傾向として立直:副露:黙聴の内訳が5:3:2となるのが平均値だが、藤崎選手の黙聴和了内訳が29.73%とじっくり手を作って奇襲戦法を仕掛けるスタイルが見える。しかしながら、懸賞牌がスタートから7枚もあるルールだとリーチが優勢となるのが一般的。手数を増やしてカバーしたいところだが、和了率が伸びずじりじりとゲーム終盤になるにつれ後手位置から一撃を入れようとした前がかりを狙われて放銃率が増えてしまったと分析する。

Mリーグファンでは有名なエピソードであるが、佐々木寿人選手と高校の先輩後輩関係であり、宮城ラインを形成してきた。Mリーグ参戦時期には鳳凰位のタイトルを獲り、実績・ポテンシャルは申し分無しであったが、起用場面と得意とする戦い方が嵌まらずに思うようなスコアが残せずトップも遠のいた。最後に取ったトップは2020年11月30日第2戦、そこから実に14戦トップ無しのMリーグ歴代ワースト3位タイの記録を残したまま契約満了となるのは実に歯痒く悔しいものである。
誰もが記憶に残る昨季セミファイナル最終戦。絶望的大差の逆転条件を目指し、忍の者に乗り移った棒攻めが今でも鮮明に蘇る。ファンの心にその名を刻んだのは間違いない。Mリーグの舞台は去ろうとも、東北宮城の心の兄弟船でファミリーの一員として優勝の瞬間を見守り続ける。

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次回は年間総合4位 赤坂ドリブンズのシーズンレビューをお届けいたします。