【書籍紹介/海外SF】めちゃめちゃ地味なX-MEN
暖冬と言われていたけど、ついにドカ雪になってしまった。家から出られないM.K.です。
突然ですが、MCU映画の『エターナルズ』が大好きで、特にマッカリが大好きなんです。
読書家で引きこもりなところ、いわゆる聾唖者だけど自信たっぷりなところ、そして高速移動の超能力。
他の登場人物に比べて、彼女だけが「友達にいそう」な超能力者でした。普通に街を歩いてそう。
彼女に密かに好意を寄せるドルイグも、卑屈な性格が彼女の前だけは一変するところとか凄く人間臭くて好きでした。
この2人のウブな大学生みたいな関係性が、本当に良かった。
本当に大学生に扮してキャンパスライフを謳歌してほしいと何度思ったことか笑
超能力といえばまずもってX-MENだろと思うのですが、ちょっと共感しにくい部分があって、実はちゃんとは見てないのです。
私が見た作品が偏っていただけかもしれませんが、能力を持つが故に社会からパージされている……という面にことさら焦点が当てられて、可哀想な子供達という印象がずっとついて回る感じがしたのです。
ともかくMCUもDCも、超能力を持ったヒーローが普通に街中を彷徨いていますが、なんだかそんな日常と非日常が入り混じった世界に、すごく惹かれます。
そんな性癖保持者の私が今回紹介するのはこれです。
チャン・ガンミョン
『極めて私的な超能力』
韓国SF短編集です!
いまやSFの震源地はアメリカではなくアジア、特に東アジアにあり!と思わせてくれる1冊です。
日中韓のSFで比してみると、韓国SFがもっとも文学的な感じがします。
これも私が読んできた本が偏ってる可能性大ですが、中国SFは歴史改変SFが多い気がします。
科学信仰も強く、ディストピアSFが少ないかなと思います。
日本SFは、恥ずかしながらそんなに読んでないのですが、中国SFよりはウェットだけど、近未来SFが多くて、ジャンル横断的なものも沢山あるイメージです。
韓国SFはまさに韓国文学と地続きな感じがします。
人と人との自然な交わり、手厚い心理描写、文間から滲み出る寂寥な雰囲気……そんな感じです。
この記事では、この短編集の中から表題作『極めて私的な超能力』を紹介します。
ものすごく短い作品なので、数分で読めてしまいます。
以下、あらすじです。
こういうお話です。
超能力者が3人も出てくるのに、MCU・DCのような圧倒的なスケールのアクションオペラではなく、素朴で日常的なナラティブに終始するこの感じ、なんだかすごくいいなと思ったのです。
元カノは多分、自分が持つ能力について悩み、リストカットを繰り返していたのでしょう。
やがて能力との付き合い方が分かってきて、世界に対して半ば諦観的な態度を取るようになった。
"僕"はそんな彼女の在り方に惹かれて、しかし自分の能力を隠して付き合った。
この前半部分だけでも、非常に複雑な感情の交錯があり、文学的です。
普通の男女関係に「超能力」という非日常的条件を付与すると、どう変容するのか?といったシミュレーションSF的な感じもします。
後半で、千里眼のせいで元カノを忘れられないのだと思った女性が、自分の能力で元カノの記憶を消してあげようと申し出るが、僕は決断できない。
それは"僕"の千里眼の能力だけではなく、元カノの未来予知の能力の二つが掛け合わさって、"僕"を形作っている……つまり元カノの予言通りに人生を歩んだことが、元カノを特別な存在たらしめているからです。
"僕"に好意を寄せる女性は、それを察して元カノを一刻も早く忘れさせたい。
でも"僕"は、元カノを忘れることで自分自身の存在が揺らぐかもしれない感覚があって、容易に同意できない。
そんなアンビバレントな関係性を匂わせてきます。
超能力と日常的に付き合う超能力者たちの、時には超能力に自分の感情が揺れ動かされてしまう人間的な弱さを、この作品は描いているように思えて、それを描くことで人間の普遍性に言及しているようにも思えます。
文学のアポリアの一つが「人間普遍の真理」なのだとしたら、これはジャンル的には"SF的要素を取り入れた文学"なのかもしれません。
ちなみにこの短編集には『アラスカのアイヒマン』という、とんでもない奇作が含まれていて、正直最初はそちらを紹介しようかと思ったのですが、「あらすじ」をこんなところで紹介するのも勿体無い気がして辞めました。
ナチス・ホロコーストを巡るギミック系SFで、ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』の内容を知った上で読むと、さらにワナワナする作品です。
そうそう、この記事のタイトル、本当は「めちゃめちゃ地味なエターナルズ」にしたかったのですが、本著でも言及されているのでやむなくX-MENにしたんです。
エターナルズ、個人的にはX-MENを超えたんじゃないかと思っているのですが、実際評価も知名度も全然そんなことはなくて、ちょっともどかしい気持ちです。
一つのジャンルを形成した始祖としてのX-MENの存在感は、もはや何にも超えられないのかもしれませんね。
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