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「見せる収納」を英国の暮らしから学ぶ その⑤

収納を「家事(現状維持)」から「趣味(暮らしを彩る生きがい)」に/最終回

隠す収納にこだわる日本に対してイギリス人は、見せて(showing)飾って(decoration)モノを美しく収納しようとします。19歳の時にイギリスを旅行してその美しさに魅了され、以来100回を越える渡英経験を持つ井形慶子さん(『古くて豊かなイギリスの家・便利で貧しい日本の家』等 著書多数)から、イギリス流の収納の知恵を学ぶ、最終回です。


第6章 壁・床という平面を使った見せる収納(続)


気に入った皿を絵のように飾って楽しむ

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海外旅行する際、日本人はチョコレートなどお菓子をお土産に買いますが、イギリス人は小さなカップ、皿、置物などオーナメントといわれる記念品を買います。これらを収集して自分の家を飾るのです。

ある女性は海外に出るたび、ふくろうの置物を買い続けていました。それらはリビングの棚や窓枠に飾られています。
また、株の売買に駆けずり回る証券マンは出張で外国に行くたび、赤いクリスタルグラスを買うことが習慣となっていました。このようなコレクションを趣味にするイギリス人はとても多いのです。その原因として、イギリスの家の壁面が日本より広いからだといわれています。

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伝統的な日本の家は障子やふすまで囲まれています。例えば、日本家屋では二つの部屋をふすまで仕切るのに対し、イギリスは壁で仕切ります。そのうえイギリスの古い家は窓が小さいので、広々とした壁に家具を置いたり、絵を飾ることができるのです。

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また、家の形状に凸凹が多いため、室内は狭い階段、出っ張った窓枠、梁(はり)などいたるところに段差があります。
このような家の造りと、イギリス人がオーナメントを収集する趣味は切り離せません。こんなイギリスの家で、細々とした置物を並べ、所狭しと皿や絵をかけてある様子を見るたび、掃除が面倒ではないのかと心配してしまいます。

数年前、井川さんがイギリスの古い住宅に興味を持つ日本の人々を、イギリスの一般家庭十数軒に案内した時のこと。
見学し終わって、どの家が最も気に入ったかと尋ねたところ、意外なことに日本の家に最も近い新築の英国住宅に人気が集まったそうです。その理由は、「家の中がスッキリしていて掃除がいちばん楽そうだから」とのこと。
さらに、築400年以上経つというわら葺き屋根の古いコテージを訪れた時には、英国の田園を象徴するような魅力的な外観に参加者から歓声が上がりました。
でも、時間をかけて世界中から収集した民芸品やアンティークで飾られた室内を見学した後、「見る分にはいいけど、実際住むとなったらどうかしら」という感想が続出したそうです。


これに関連して、興味深い話があります。一般的にイギリスの室内は日本ほどほこりが溜まらないというのです。
その理由としては一日何度も雨が降り、日本より家の周辺に草木が多いため、ほこりが発生しにくく、セントラルヒーティングの完備によって、窓を閉めきっていることなどが挙げられます。
あるイギリス人は日本に来るまで、室内置きの観葉植物の葉に付いたほこりを取ったことがなかったそうです。

そもそも石で造られているイギリスの古い家を購入した人々は、リフォームの際でも、趣ある壁をできるだけ壊したくないという思いが強いようです。そこで断熱工事をする際、外壁と内壁の間の空洞部分にムースのようにフワフワした発泡剤(polystyrene)を注入します。この発泡剤はどんなすき間にも入り込み、時間とともに固まって最後は発泡スチロールのような素材となります。
築100年以上も経過した古い家は、一見掃除が大変そうですが、住環境や家の造りでほこりの量は違ってくるのです。

イギリス人は美しいマナーハウス(中世ヨーロッパにおける荘園=マナーにおいて、地主たる荘園領主が建設した邸宅)を見て「ここに住みたい」といい、日本人は「掃除が大変そう」とため息をつきます。
飾り戸棚、暖炉の枠にほどこされた凹凸の装飾など、イギリスの古い家には、「掃除しやすい」を優先させると、大変そうなものばかりがあります。でも、ホームリーで居心地のいい家が、最もいいと考えるイギリス人にとって、少しずつコレクションしたものを公然と並べることは最高の収納法だったのです。


子どもが安心して眠れるベッド周りの収納法


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井形さんによれば、イギリスの子ども部屋には「もの」が多いそうです。
例えば、暖炉の前にグリーンのマットが敷かれ、その上にぬいぐるみや人形が並べられている。「遊んだらこのマットの上におもちゃを戻す」という、親子の約束がうかがえるこのスタイルは、とてもシンプルで箱型収納に匹敵するほど簡単です。

でもそれ以上に興味深いのは、暖炉の周りにこれだけのぬいぐるみが並べられているということです。
イギリスで暖炉といえばサンタクロースの出入り口、マジカルドアといわれ、子どもにとっては別世界への入り口なのだそうです。その周辺に夜怖くないようにと人形を並べている点が興味深いですね。

幼い子どもたちは夜になると、部屋の中に何かがうごめいているように感じるものです。一人暮らしを始めたばかりの若者でさえ、ベッドの下に誰かが潜んでいるのではないかと、怖く感じるそうです。まして幼い子どもたちにとって、床に放置されたボールや、たんすの半開きのドアが、不気味な幽霊のように感じることを大人たちは忘れてしまっているようです。


ところで医者は、小児喘息になった子どもの親に「体に良くないからおもちゃをベッドの近くに置かないように」と言うそうです。確かにおもちゃに付着したダニやほこりは問題ですが、ベッド周りにお気に入りのぬいぐるみやおもちゃを置くのは、子どもが怖がらず安心して眠るためだそうです。
そもそもイギリスでは、おもちゃは子ども部屋をかわいく見せる小道具と考えられています。例えば、アメリカからやって来たテディーベアは家族の一員とまでいわれ、その他多くのおもちゃとは別格扱いで、つねに抱きしめられるよう枕元やチェストの上に飾ってあります。これはおもちゃが、ガラクタ扱いされる日本とは違うところです。


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イギリスの子ども部屋が、よりファンタジックにおもちゃを飾るように収納しているのは、おもちゃが「怖くない子ども部屋」を作るアイテムだと思われているからです。
その背景には、新生児の時から親と別々に寝るという、個人主義にのっとった教育観があったのです。 (連載終り)

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