見出し画像

エコの視点で 住まいを涼しくする

温暖化の進む昨今、この夏も猛暑が続いています。
そんな日々でも涼しく過ごす知恵があります。
今月はエコの視点で住まいの暑さ対策~パッシブクーリングを考えます。


涼しく暮らすレシピ☆その1~朝の冷気を「蓄冷」する


まず取り組みたいことは、朝の冷気を住まいの中に導きたい、というものです。夜明け前から朝にかけての空気や吹く風は、その日に一番冷たく、清んでいるものです。
これは、雲のない晴れた夏の夜に起きる「放射冷却」という現象によるもので、よく晴れた冬の朝が厳しい冷え込みになるのと同じ現象です。
冬の朝はつらいものですが、夏の放射冷却はありがたいものです。
昼間がどんなに猛暑であろうと、また熱帯夜といわれようと夜空に雲さえなければ、夜中から明け方にかけて地表の熱気が宇宙のかなた(絶対零度の無限空間)に向けて放射されるため、気温はぐっと下がります。晴れた夏の朝の夜明け寸前ぐらいに、外に止めてあった自家用車のボンネットやフロントガラスを観察してください。指でなぞるとわかりますが、うっすらと結露しているはずです。
この無料の冷気を逃す手はありません。早起きをして、窓を開け放って冷気を取り込み、建物全体の熱気を放熱しましょう。

画像1


また、「アクアレイヤー」という水蓄熱システムは、この冷気を床下に設置した水の袋(アクアセル)に「蓄冷」することによって、「水まくら」のように昼間の温度上昇を抑えるものです。
あまり知られていませんが、水は同じ分量のコンクリートや石の2倍の蓄熱容量があり、重さは5分の1という優れた特性を持つ物質です。しかもどこにでもあり、どこに捨てても安全。
下の図は、夏の日差しをしっかり遮熱した高性能住宅にアクアレイヤーを組み込み、クーラーをまったく使わずに一日の室温変化を実測したデータです。

画像2

早朝22℃だった外気温は、午前9時前には36℃を超える真夏日となりました。
明け方の水温26℃から日中最高28℃と、わずか2℃しか変化しないアクアレイヤーの影響で、室温は外気の影響を受けずにゆっくりと上昇し、ピーク時の数時間はエアコンが欲しくなる温度になりますが、大半は許容範囲に収まっていることがわかります。
大幅に熱容量を増やすことで、「放射冷却」という自然現象を利用して涼しく暮らせる住宅になりました。



涼しく暮らすレシピ☆その2~西日には「よしず」、そして「東西に長い家」に

西向きのマンションや、戸建で西向きに大きな窓があるようなお宅の場合、西日がダイレクトに差し込み、室温を激しく上昇させます。
この西日、できるものなら「生垣」のようなもので遮りたいものなのですが、昨今、防犯面などから敷地内の目隠しになるような背の高い生垣を避ける風潮もあり、難しいところです。


そんな戸建や、マンションで特におすすめなのが「よしず」。たいへん大きなものながら、ホームセンターなどで見る限り、びっくりするくらい安いのが「よしず」です。

画像3


背の高い「すだれ」だと思っていいでしょう(実際に「たてすだれ」という呼び方もあります)。『海の家』などの壁面を構成しているのも、多くこの「よしず」です。
「よしず」は、大きいものでは高さ11尺(およそ3メートル30センチ)にも及びます。
なお、マンションに設置する場合、風が強いときに落下の危険があるので、規約等でベランダ置きを禁じているかもしれませんので、よく確認してみて下さい。

画像4


ちなみに、夏の日差しは高度が高い、という特徴があります。

画像5

朝夕は、東西の壁にまともに日が差し、昼間は頭の上にあるので屋根を焼きますが、南北の壁には直射しません。
そして、冬は太陽の高度が低いので南側に直射します。

つまり、「東西の壁は短く、南北の壁を長く」という形状を意識し、夏に備えて屋根や天井の断熱をしっかりする、という設計を心掛けると、「夏涼しく、冬暖かい家」になります。


涼しく暮らすレシピ☆その3~目にも涼しい「緑のカーテン」

意外と簡単にできるのが「緑のカーテン」です。

画像6

100円ショップで突っ張り棒2本と植物用ネットを購入し、藤の鉢植えにネットを張って、上のほうに伸びるよう誘導すれば、どんどん葉が茂ってきて日に日にカーテン状態となってくれます。
「よしず」と同じような効果が期待できる「緑のカーテン」は、住まいの壁面に直接当たる日光を程よく遮ってくれるだけでなく、家の中から見た人の目を涼しく感じさせてくれる効果もあるのです。
また、気化熱による冷却機能があるため、緑を増やせば天然のクーラーとしての役割も果たしてくれます。
さらに、樹木が発散するフィトンチッドには精神を静める効果があり、木の葉の緑は目を休めて疲労を回復させてくれます。


このほかにも、植物の特性をうまく活用して快適な生活を実現する楽しい工夫があります。

画像7


敷地の西側と北側に常緑樹(1年中葉が茂る樹木)を植えれば、夏の西日対策と冬の北風対策になります。
南側には常緑樹ではなく落葉樹(秋から冬にかけて葉が落ちる樹木)を植えましょう。(図参照)
夏には葉が茂って日光を遮断し、冬には葉が落ちて暖かい日差しを室内に採り入れることができるからです。


また、緑のカーテンとして「ブドウ」の樹を植えるのも一案です。「ブドウ」の葉は夏に茂り、冬には見事に葉を落として日光が差し込みます。

画像8

そして秋にはおいしい「ブドウ」がいただけるのです。
「ゴーヤ」も同じように収穫が楽しめますが、「ブドウ」の樹に比べて葉が落ちる時期が早く、残暑の頃の日射遮蔽にはブドウの樹のタイミングがぴったりします。


もうひとつ、キャンプや農業などで日よけに利用される「タープ」を利用する方法をご紹介します。
「タープ」は緑のカーテンの弱点である、枯れる心配やお手入れが不要なので、安定して使用できます。


画像9

アクアレイヤーを開発した前田誠さん(千葉県我孫子市)は、太陽熱利用や緑が溢れる庭などエコロジーの工夫のひとつとして、自宅2階の広々したテラス(友人とくつろぐ前田さん)


画像10

1階のベランダで「タープ」を上手に使って、夏の暑さ対策をされています。

「タープ」によって直射の日光侵入を防ぐ効果に加え、テラスの床面や地面の温度上昇をおさえて照り返し(輻射熱)の室内侵入を減少させています。


涼しく暮らすレシピ☆その4~「打ち水」で涼しく

画像11

江戸時代の庶民の知恵である「打ち水」が、ヒートアイランド現象に対してどのような効果を持つのか、決められた時間にみんなでいっせいに打ち水をして、その効果を検証しよう、という壮大な社会実験として「打ち水大作戦」というイベントが2003年からスタートしました。
「打ち水大作戦」は、誰もが手軽に楽しくできるヒートアイランド対策として、毎年推定600万人以上が参加する、今だかつてないほどの広がりと深さを持った市民運動です。
実証実験をもとに作成された論文によれば、東京都23区内の散水可能な面積約265k㎡に散水を行うことによって、最大で2~2.5℃程度、正午の気温が低下すると予測されています。
ぜひご家庭でも、お風呂の残り湯などの「再利用水」を使って挑戦してみましょう。


涼しく暮らすレシピ☆その5~「そうじ」で涼しく

あまり知られていませんが、それを行うことによって、家の中がヒンヤリする類のそうじがあります。


一つは、窓拭き。できるだけジャブジャブと水を多めに使い、スクイージー(T字型水切り)で景気よく、汚れ水を拭い、ついでにサッシの周辺も拭きあげてしまいましょう。
窓を濡らしてそうじすることで、窓に溜まった熱が気化されて涼感が得られるのです。


二つ目は、床拭き。こちらはフローリングを傷めてしまいかねないので、硬く絞ったぞうきんで、部屋の隅々から拭き取って行きましょう。掃除機では排気の熱風が粉っぽい上に気温上昇に寄与してしまうくらいですが、床を水拭きする際には床に溜まった熱を気化するのを助け、部屋全体が掃除前よりもひんやり感じられるのです。
ただし、閉め切りの部屋では湿気がこもりやすいので、なるべく窓を開けて換気しながらにしましょう。

三つ目は、電化製品のそうじ。こちらは本体に水気厳禁です。主電源を落として、化学ハタキなどでホコリを取ってから、周囲を床拭きの要領で水拭きし、微細なホコリ汚れごと除去します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?