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「見せる収納」を英国の暮らしから学ぶ その③


収納を「家事(現状維持)」から「趣味(暮らしを彩る生きがい)」に


隠す収納にこだわる日本に対してイギリス人は、見せて(showing)飾って(decoration)モノを美しく収納しようとします。前回に続き、19歳の時にイギリスを旅行してその美しさに魅了され、以来100回を越える渡英経験を持つ井形慶子さん(『古くて豊かなイギリスの家・便利で貧しい日本の家』等 著書多数)から、イギリス流の収納の知恵を学びます。


第4章 家の中のモノをキレイにしまう

イギリス人に学ぶ小さな「モノ」の収め方

ちょっと気を抜くと、机の上、洗面台周辺はすぐに散らかり、ほこりも溜まってしまします。
それはなぜかと考えてみると、文具、マニキュア、電池など家の中には限りなく細かいモノがあるためです。
これらは、歯ブラシのように毎日必ず使うわけではないのですが、必要な時にないと、家中を探し回ったあげく、コンビニに駆け込み、買ってしまいます。
問題はモノが多すぎることにあります。
イギリスでは通常6ヵ月ごとに身の回りを点検し、モノをコントロールしようとします。定期的にチェックをして、たんすの肥やしを見つけ、それを捨てれば、よりスペースを有効に活用できます。

かつて、多くの人は細々としたモノを引き出しの中にしまっていましたが、近年、モノをたくさん持つ生活が始まると、すべてを引き出しに入れることは不可能となりました。それではどうするのでしょか。
ここにもイギリス人ならではの収納の知恵があらわれています。

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グラモフォンボックスといわれる四角い木箱があります。この箱にはレコード針を入れる小引き出しが側面に付いていて、レコード全盛時代の郷愁を漂わせています。
人々はグラモフォンボックスをアンティークショップで購入し、必要のない中の機械をはずし、仕切りを付け、文具を入れたり裁縫箱にするなどして使います。レコード針を入れるための小引き出しには、クリップなどさらに細かいモノを入れるのです。

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古い時代のこのような箱はそれほど高くありません。価格は店や年代によって5ポンドから上は数百ポンドまでと、日本円で1000円前後から購入できます。

人々は小さいモノを家の中でなくしたくないので、こういう魅力的な箱を工夫して、収納に役立てるのです。
これと同じ発想で、愛煙家がタバコを入れる金のシガレットボックスに、お気に入りの腕時計を入れて箱ごと部屋に飾る工夫もあります。
また、シガーが2本入るシルバー製シガーホルダーに、愛用のペンを入れて持ち歩く人もいます。
このようにイギリス人は、外出する際も身の回りのお気に入りを手放さず、独自の収納スタイルで持ち歩きます。
ここからわかるのは、イギリス人はたくさんのモノを持っていても、それらをもともと入っていた箱にではなく、わざわざ別の年月を経古い箱に入れて愛用することに価値を見いだすという、独特の習慣です。
イギリス人はこれらの小さなモノを、人と会う時も誇らしく見せます。



見せたくない雑貨は家事室に収納

イギリスの家のキッチンは、なぜショールームのように美しく保たれているのだろうかという疑問に、多くの人は「ユーティリティー(家事室)があるからだ」と答えます。
キッチンに置きたくないモノや、オーバーフローした缶詰・調味料などの食品ストック、そしてフリーザー・洗濯機・掃除機などの家電製品はすべて家事室に運ばれ、ここに収納されます。

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いっぽう、日本ではこれらのモノがたいていキッチンに集められています。
外国人が散らかった日本のキッチンを見て、「ここはレストランの厨房のように雑然としている」と驚くのは、キッチンが収納庫になっているからです。

日本人よりモノを溜め込まないとされるイギリス人は、従来、何かを余分に買い置きする「ストック」という発想を持たなかったのですが、最近では大型スーパーを中心にバイワン、バイフリーという、一つ買えば一つおまけが付くセット販売システムが広がっているため、必然的にモノが増えています。
シャンプー、ボディーソープなどがその最たるもので、1本だけほしいのに2本買うともう1本付くからと、ついストックを持ってしまうようです。
また、イギリスでは少子化に伴って、洗剤・シャンプーなどの消費財にファミリーサイズが少なくなっています。これらは、キッチンやバスルームに置いておくと空間が雑然となるため、家の中の家事室が最も適当な置き場所だと考えられています。

こんなことからも家事室は、イギリス人にとって唯一、ゲストに入ってほしくない場所といえるでしょう。ここは収納庫であり、洗濯室であり、アイロンがけスペースでもあるのです。
見せたくないモノを家事室に集めると、キッチンという表舞台をつねにキレイに保つことができ、散らかるというストレスがなくなるのもいい点です。


工具をオブジェのように飾るイギリスの感覚

通常、私たちの感覚では工具箱は隠されるべきモノとなっています。この常識を破って古美術品のように、美しいケースに入れて飾るのがイギリス式なのです。

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日常的に使う道具はなくさないよう、魅力的な箱に入れます。どんなモノにも定位置を決め、使ったら必ずそこに戻す。これが小さなモノを収納するポイントなのです。
イギリス人の家にはシェッドといわれる倉庫が裏庭に設置してありますが、そこには通常、夫の趣味にまつわる道具が収められています。工具はその代表です。

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夫らは倉庫の壁2面に金槌やのこぎりを「ぶら下げ収納」します。その際、工具をかたどった絵を壁に描いているのです。これは、使った工具を間違うことなく同じ場所に戻すためといわれています。
アメリカ人ほど大きな倉庫を持っていないイギリス人にとって、もともとあったモノを同じ場所に戻すこと、そして時には標本のように箱やケースに入れて見せることはとても大切な行為なのです。

さきほど紹介したように、アンティークショップで美しいケースを見つけ、お気に入りの道具を美しく収める習慣はイギリスではめずらしくありません。年代もののガーデニングツールやお菓子の抜き型など、たまに使うモノでも大切な宝物のように見せて保管します。

1970年代に日常の生活用具はデザイン化され、小型化が進み、人と違うモノを誰もかれもが持ちたいと願いました。この流れは80年代にモノを氾濫させ、おびただしい商品が家の戸棚や押し入れを占領していくことにつながります。
ところが、プラスチック製品も自家用車も使い捨てとはいうものの、実際に捨てるのは容易なことではありません。

アメリカ人は気に入ったらとにかく何でも買い、気に入らなければ捨てようとしますが、イギリス人は、気に入っても気に入らなくても、いつまでもモノをとっておく習慣があります。これは単なる節約主義ではなく、めったに使わないモノでさえ、見せ方いかんによっては、インテリアの一部になりうることを彼らは知っているからなのです。

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