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新米駅員の高揚(妄想物語)
電車がK駅に止まった。
人の乗り降りがそこまで多くないその駅は、通常30秒から1分ほどで扉がしまる。
しかしその日は、いつまで経っても扉が閉まらない。
車内がざわつき始めた、何やらホームが騒がしい。
多くの駅員が走り回っていて、そのうち数名が車内に入ってきた。
その時に車内アナウンスが入る
ただいま車両点検のため、停車中です。
しばらくお待ちください。
駅員たちは、車内をキョロキョロと見回したり、人の顔を覗き込んだり、トイレをノックして確認したりしている。
何が起こったんだ⁉️
私はドキドキしてきた。
そんな中、1人の若い駅員さんが目に入った。
心なしか、頬が赤らんでいるように見える。
ここで、私は妄想の世界に入っていく
彼はこの春JRに採用された新米駅員だった。
子供の頃から電車が大好きで、小学生の頃から日本中電車で旅をしていた。
そんな彼が、念願叶って地元のJRに採用され、配置されたのが、ここK駅だった。
しかし彼は、改札の隣の部屋で、お客様の対応や、事務仕事ばかりで、ホームに上がることもほとんどなかった。
たまにホームに行くのは、車椅子の方の乗り降りのお手伝いの時。
それも立派な駅員の仕事だ。
しかし、それだけで満足かと言われたら違う。
いつか、ホームに立ちたい。電車を運転したい。そんな思いで、日々仕事に励んでいた。
以前一度、電車遅延のアナウンスをさせてもらったことがある。しかし緊張しすぎて噛みまくり、その後させてもらっていない。
憧れの駅員には程遠い今の自分だった。
そんなある日、緊急連絡が入った。
ただいま走行中の車両が発煙を探知した。
原因不明。
至急確認するように。
駅内は、急に慌ただしくなった。
今いる駅員全員で、車内を点検して原因を探せ!
彼は初めての緊張体験で、興奮していた。
なんだか特別な任務を任された、特殊隊員になった気持ちだった。
彼は真新しい紺色の帽子をしっかりと被り、制服のボタンを確認した。
それから、先輩の後ろについて、ホームへの階段を駆け上り、ホームに出ると先頭車両の方向に走った。
お前はその車両を確認しろ!
先輩が叫ぶ。
はいっ!
彼は車両の隅々まで確認した。
不審物はないか?
不審なものを持っている人はいないか?
車内に発煙している箇所はないか?
なんとしても発煙の原因を探さなければならない。
周りの乗客の視線を感じる。
皆、何事かとスマホや本を手にしたまま、顔を上げて自分を見ている。
彼は入社後初めての任務に、興奮していた。
こうした任務ができることを誇らしく感じていた。
お客様の安全を守るんだ!
電車の安全を守るんだ!
あったか?
ないです。
そっちは?
ない。
そんな会話が、ホームに集まってきた駅員たちと交わされる。
結局駅員総出で探しても、不審物も煙も確認できなかった。
電車は異常なし。
皆は胸を撫で下ろした。
お待たせいたしました。
発車いたします。
アナウンスが流れる。
彼は、頬を赤くしながら、電車が滑るように走り出していくのをホームで見送った。
いつかきっと、ここで
前方よし、
後方よし、
の指差し確認をするんだ。
この時、何があったのか?
駅員さんたちが何を探していたのか?
私には全くわからず、駅員さんの
「あったか?」
「ない」「ない」
という言葉だけを聞いていました。
ここで電車が止まってしまったらどうしよう。 電車から至急降りて避難してくださいなんて言われたらどうしよう。
何か危険なものを探しているのだろうか?
とドキドキしていました。
しかし、若い駅員の姿を見て妄想に突入しているうちに、電車は走り出し、ほっとしました。
私にとってもちょっとドキドキの体験でした。
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