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秋桜

秋桜畑には今日も彼女がいた。
同じクラスの羽根田さんだ。
秋桜が咲き出した頃から、僕は何度もここで彼女を見かけた。
そんなにコスモスが好きなのかな?

そのうち彼女は、ここで何かを探していることに気づいた。
一体何を探しているのだろう?

ある日僕がいつものように、秋桜畑の横を歩いていると、彼女が突然
あった!
と大きな声で叫んだ。
思わず、僕は
何が?
と言ってしまった。
彼女はびっくりしたような顔をしてフリーズしていた。
何があったの?
僕がもう一度聞くと、彼女はうれしそうに僕の近くまで小走りで来て、手にした秋桜を見せた。

このコスモスを探していたの?

うん、そう。このコスモスね、花びらが9枚あるでしょう。
花びらが9枚のコスモスを見つけたら恋が叶うんだって。

ヘェ〜 そうなんだ。

僕は、そんなの初めて聞いたな、と思った。
すると彼女は続けた。

花占いするときに、普通のコスモスは花びらが8枚だから、
好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き嫌い
って、嫌いで終わるでしょう?
でも9枚あったら
好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き
って、好きで終わるでしょう?

彼女は花びらを数えながら言った。

なるほど…

そういう僕に、彼女は
もしかしたら、本当に当たるかもしれないね。

と言うと、そのコスモスを
はい
と僕に渡して、走り去ってしまった。

僕は帰宅すると、ガラスのコップに水を入れてコスモスを入れた。

僕と羽根田さんは、今まで喋ったことはなかったのだけど、その次の日から、時々喋るようになった。
彼女は、実によく笑う、明るい子だった。
無口な僕を相手に、一生懸命話をしてくれる姿が、妙に可愛く感じた。
そしていつしか僕は、彼女を目で追うようになっていた。

そういえば、彼女の恋は叶ったのだろうか?
叶ってないといいな…
なんて事まで考えてしまった。

僕は気になって、ある日彼女に尋ねた。

9枚の花びらのコスモス見つかって、君の恋、叶ったの?

すると彼女は
叶ったのかな?叶わなかったのかな?
と僕の顔を覗き込んできた。

え?
あ…!?
僕は、一瞬驚いたけれど、彼女に言った。

どうやら叶ったみたいだね。


♯シロクマ文芸部

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