【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第6話(終)
6 お面の正体は?
今日は家族で遊園地に行く日だ。
ボクはもう数週間前から、今日の日を楽しみにしていた。
お姉ちゃんは、そこのジェットコースターに乗るのが楽しみだと言っていたけど、僕はジェットコースターは怖いから乗りたくない。
ボクは空中ブランコが大好きだ。
風を切って、空に舞い上がる感じが好き。
空から釣り下がったブランコに乗っている気分だ。
お母さんが、おにぎりをたくさん作ってくれた。
お父さんが大好きな、明太子おにぎり、
お姉ちゃんが大好きなシーチキンおにぎり、
ボクが大好きなおかかおにぎり、
お母さんは昆布おにぎりが好き。
4種類のおにぎりには、どれが何かわかるように、海苔から出ているご飯のところに、中に入れたものをちょっと付けてある。
ボクは、今すぐ食べたい気分だった。
おにぎりをバックに入れて、それぞれ水筒をもって、さあ出かけよう!
としていた時だった。
ガチャーン
大きな音がした。
みると、あのおじいさんのお面が、粉々に割れて辺りに散らばっていた。
ボクは唖然とした。
ボクを何度も助けてくれたあのお面が、割れてしまった。
この前お面を戻したときに、しっかりくっついていなかったのかも?と思って焦った。
でも今は、遊園地に行く時間が遅くなることの方が気になっていた。
お母さんは、
「なんでこんな時に・・・」
と言いながら、箒と塵取りで、破片を集め始めた。
ボクとお姉ちゃんは、
「危ないから近寄っちゃダメ!」と言われて、遠くから見ていたけれど、あの不気味で、不思議で、ボクにしか聞こえない声で笑うお面が粉々になってしまった姿を見ると、やっぱり寂しい気がした。
ようやく片付けが終わり、お母さんが、
「なんで突然落ちたのかしら・・・出るの遅くなっちゃたわ。」
なんてブツブツ言いながら、車に乗り込んだ。
さあ、ようやく出発だ!
ところが、高速道路に乗ってすぐに、今度は大渋滞にはまってしまった。
ついてないなあ・・・
サイレンの音が聞こえる。交通事故のようだ。
もう少し早く家を出られたら、こんな渋滞にはまらなかったかもしれないと思うと、あのお面がまるで意地悪したように感じて、ボクはちょっと腹が立った。
お父さんがラジオを付けた。
すると、30分前に、この先の高速道路で十数台がまきこまれた大きな交通事故があったという。
「もし、あの時何事もなく家を出ていたら、その事故に巻き込まれていたかもしれないなあ。」
とお父さんが言った。
ボクたちは、顔を見合わせた。
「よかったわ。あの時すぐに出なくて。
ひいおじいちゃんが守ってくれたのかもねえ。」
とお母さんが言った。
「ひいおじいちゃんが守ってくれたってどういうこと?」
ボクが聞くと、
「あのお面は、ひいおじいちゃんが誠が生まれたときにどこかのお寺で買ってきたものなのよ。
厄除だ、なんて言っていたけど、本当にそうだったわね。」
お母さんが言った。
ボクのひいおじいちゃんは、ボクが2歳の時に亡くなっているので、ボクにはまったく記憶がなかった。
「ひいおじいちゃんって、どんな人だったの?」
「陽気で、面白いことが大好きで、よく笑う人だったわね。」
するとお姉ちゃんが、
「そうそう、2本しかない歯で、ケッケッケッケッと笑っていたね~」
と言う。
ケッケッケッケッ
って、その笑い方は・・・
ボクはお面の笑い声を思い出した。
「ひいおじいちゃんの名前って、なんていうの?」
「耕司よ。」
ボクは、これまでお面が見せてくれた景色のなかで、自分がこうちゃんって、呼ばれていたことを思い出した。
こうちゃんって、ひいおじいちゃんのことだったのかも・・・
ということは、あのお面が見せてくれたものは、ひいおじいちゃんの記憶?
車は一向に動かず、長い間車の中で過ごしたけれど、その間にひいおじいちゃんの話をたくさん聞いた。
誠が生まれたとき、はじめての男の子のひ孫の誕生を、とても喜んでいたこと。
実は子供の頃は、かなりやんちゃで、ガキ大将だったらしいということ。
竹とんぼ作りが得意で、みんなから竹とんぼを作ってほしいと言われていたこと。
ボク、それ知ってるよ、
思わず口から出そうになったが、信じてもらえるわけがないと思ったのと、ひいおじいちゃんとボクの秘密にしておきたくて、黙っていた。
ひいおじいちゃんは、魚とりも、木登りも、上手だったよ・・・。
それに、とっても努力家だったんだ。
高速道路は通行止めになってしまったし、時間も遅くなってしまったので、結局その日は遊園地には行けなかった。
でも僕は、お面のなぞが解けて、ひいおじいちゃんの話がたくさん聞けてうれしかった。
ひいおじいちゃんは、あのお面を通して、ずっと僕を見守っていてくれたんだ。
家に帰ると、お面がかけてあったところが、ぽつんと空いている。
ボクは急にさみしくなった。
もう、あのお面はないから、ひいおじいちゃんの見た景色は見れないし、笑い声もきけないのか・・・
数日後、お母さんが
「割れたお面、不燃物回収のところに持っていこうと思ってみたら無くなってたんだけど、どこにいったのかしら…
誰が捨ててくれたの?」
と聞いていた。
聞くと、カケラを入れていた袋はあるのに、割れたお面のカケラがないという。
ボクは、ひいおじいちゃん、捨てられる前に逃げたのかな?
なんて思った。
ボクはつぎはぎだらけのお面が、逃げていく姿を想像して、一人笑った。
でももう、あの声は聞けないのかな・・・
と思いながらふと鏡を見ると、
鏡に映った自分の顔に、あのお面が張り付いていた。
つぎはぎだらけではなかった。
思わず声を出しそうになった時、
ケッケッケッケッ
と笑い声が聞こえた。
ひいおじいちゃんだったんだね。
ボクがいうと。
お面は、ふっとボクの顔を離れて数秒頭の左上に浮かんだ後、誠の後ろに隠れるようにして消えた。
でもそれは、おじいちゃんの
お別れじゃないよ、見えなくても誠のそばでいつも見守っているよ、
というメッセージのような気がした。
<終>
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