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爪を切りながら歩く人(妄想物語)

朝出勤途中、何やらパチンパチンと音がする。
何だろう?とあたりを見回すと、前から歩いてくる男性が、爪を切りながら歩いてくる。

え?
爪切りながら歩く人、初めてみた。
歩きながらで、うまく切れるの?
切った爪ばら撒き方式?
何で、わざわざ朝歩きながら爪を切るのだろう…

こうして又私は妄想の世界に突入した。

彼はとても几帳面
というか神経質。

爪も、いつも爪先の白い部分は1.5ミリにしていなければいけないと思っている。
しかし、今朝家を出る時、爪先が2ミリになっていることに気がついた。

しまった!油断した。
しかし、もう爪を切っている時間はなかった。

ただ彼はこんな時のために、携帯用爪切りを持っている。
会社まで歩いて10分。
この間に切ればいい。

彼は慣れた手つきで、爪を切り始めた。しかし、爪切りに気を取られ、危うく前から走ってくる自転車に気が付かなかった。

うわっ
と思った瞬間
パチン
あっ!

何と爪先を切り過ぎて、0.5ミリになってしまった。

何ということだ。切りすぎだ!
しかし、切ってしまったものは、どうすることもできない。

それから爪が1.5ミリに伸びるまで、彼は毎日自分の爪を見ては
ため息をついていた。

彼のこだわりは、当然爪切りだけではない。
彼の家も、靴箱の靴の並び順、タオルや衣類の色別収納。食器の入れ方など、いろんなところにこだわっていた。

こだわりが強すぎて、彼女ができても、長く続かない。
しかし、何と言っても、彼女に対しても、爪先1.5ミリを強要するのが、1番の理由かもしれない。

そこで彼は、女性を見るときはまず爪先から見ることにした。
初めから。爪先1.5ミリの女性を探せばいいのだ。

爪を伸ばしている人、キラキラと飾り立てたネイルをしている人は、好きにならないぞ!
彼はそう思っていた。

ああ、それなのに
会社の飲み会の時、隣の部署の彼女に一目惚れしてしまった。
彼女の爪は、細長くキラキラしていた。

彼は葛藤する。
爪か、彼女か…

でも、彼女のことが忘れられない。

いくら告白して付き合えても、爪先1.5ミリと言った瞬間、終わりだろうな…

そう思いつつ、彼女を目で追う。
しかし、職場ですれ違ったとき、彼女の爪は、カラフルどころか、なんの飾り気のない爪先1.5ミリだった。

思わず、爪切ったのですか?
と尋ねた。

すると彼女は
この前は飲み会だったから、ちょっとおしゃれしてつけ爪をしてみたの。
普段は、爪は短い方が好きで、基本何もしないんです。
女気ないですよね。
と笑った。

彼は、心の中で歓声を上げた。
僕は彼女を待っていたんだ!

しかし、その後の彼女の言葉に、男は愕然とする。

それに爪が長いと、子供をうっかり傷つけちゃうかもしれないし…

け、結婚していたのか…?

爪先ばかり見ていて気がついていなかったのだが、よくよく見ると、彼女の薬指には、結婚指輪が光っていた。



久しぶりの妄想物語でした。
街で見かけた、気になる人から私の頭の中で膨らむ妄想を、お話にしています。

今までの作品は、下のマガジンにあります。
妄想は
自由だぁ〜‼️

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