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ボクのカブトムシ君 1

夏休みが始まってすぐの頃、ボクはお父さんと近くの山にカブトムシを取りに行った。

去年お父さんのお友達にカブトムシをもらった時に、嬉しくて、今度は自分で取ってみたい!
と言って、お父さんに連れて行ってもらったんだ。

暗い山に入って行くと、木や草むらがザワザワして、ちょっと怖い。
ボクはお父さんにくっついて、山に入っていった。

クヌギ林は確かこの辺だよな、
お父さんが言った時、
ブーンと、何かが近くを飛んでいった。

ひゃっ!
僕は首をすくめて、お父さんの影に隠れた。
お父さんが、
カブトムシかもしれないよ、
と言ったので、ボクは懐中電灯で照らされたあたりを見た。

ザワザワザワ
懐中電灯で照らされた木の影が揺れる
カサカサ…ゴソゴソ…
どこかで音がする。

やっぱりちょっと怖い。

その時お父さんが、
いたぞ!と小声で言った。

ボクは息を呑んで、お父さんが照らす方向を見る。
カナブンやコクワガタがいる。
その下には、見たこともないような大きなカブトムシがいた。

ボクはお父さんに手伝ってもらって、虫取り網をカブトムシに上から被せるようにして伸ばした。
驚いたカブトムシは、飛び上がって飛び込むようにボクの網の中に入った。

しまった!油断した!

そんな声が聞こえた気がした。

僕たちはその後も、オスを1匹、メスを2匹捕まえた。

4匹もいたら、大きい飼育ケース買わなきゃな。
ボクはお父さんと、ホームセンターに出かけ、お店で売っている一番大きな飼育ケースと、昆虫マットや昆虫ゼリー、止まり木になる木などを買った。

飼育ケースには、昆虫マットの上に、買ってきた木だけではなく、森でとってきた枯葉なども入れて、森っぽくしてみた。

ボクはケースを、家の日が当たらない廊下に置き、毎日、昆虫ゼリーをやったり、霧吹きで水をかけたり、と甲斐甲斐しく世話をした。

カブトムシたちは、時々ブンブンと羽をばたつかせて暴れていたけど、大きいカブトムシは、観念したように落ち着いていた。
そして餌は誰よりもたくさん食べた。

しかし、1ヶ月位で、小さい方のカブトムシは死んでしまった。
ボクは、最後に残った大きいカブトムシが死んでしまう前に山に帰してあげたいと思った。

日曜日、僕は山に行って、大きなカブトムシを放した。

ありがとな。

そんな声が聞こえた気がした。

カブトムシがいなくなった飼育ケースを片付けようと思った時、ふと土の中に、何か白いものがある。
もしかして卵?

それも、パッとみただけで7〜8個あるようだ。
うわぁ、卵だ!
ボクは歓声をかげた。
絶対にカブトムシになるまで、育てるぞ!
ボクはそう決心した。

その時、あれ?
一つだけピンクの卵がある。
他の卵より少し大きい。
卵じゃなくて、何か木の実か何か混じったのかな?
でも確かに、卵のようだ。
突然変異でピンクの卵とかある?

変な生き物が生まれてきたらどうしよう…
などとちょっと心配しつつ、今は触らないほうがいいよ、とお父さんに言われて時々霧吹きで水をやりながらも、そのままそっとしておいた。

お父さんが、育てるなら、昆虫マットたくさん必要だな、
と言った。

僕たちはホームセンターで、昆虫マットを大量に買ってきた。
ホームセンターは、夏がもうすぐ終わるせいか、飼育コーナー半額セールをやっていて、ラッキーだった。

こうして準備を整え、卵の孵化を待った。

2〜3週間ほどした頃、ケースの中に、カナブンの幼虫のような白い幼虫が見えた。
これがカブトムシの幼虫!?
卵が孵化したんだ!

僕は、土の表面にある、ころころした幼虫のフンを取りながら、幼虫が何匹いるか数えることにした。

いち、にー、さん、し…

するとそこに、他の幼虫より一回り大きい薄いピンク色をした幼虫がいた。

うわー、あのピンクの卵から生まれた幼虫かなあ?
どんなカブトムシになるのだろう…

幼虫は。ピンクの幼虫以外に11匹もいた。
いくら何でも多すぎるよな。
そのうちの3匹は、友達にあげることにした。

それから、飼育ケースの7〜8割ほどに、土(昆虫マット)を入れた。
たくさん食べて、大きくなってね。

僕は、週に一度は
霧吹きで水をやったり、フンを取り除いて土を足したりして、だんだん大きくなる幼虫を観察した。

春が近づく頃には、カブトムシの食欲はすごく、あっという間に土がフンだらけになって、それを取り除くと土は3分の1〜半分くらいになってしまうほどだった。
あんなにたくさん買った昆虫マットも足りなくなり、取り寄せまでしてまた購入した。

白い幼虫は僕の手のヒラと同じくらいに大きくなった。
もそもそと動いて。とても可愛かった。
しかし、あのピンクの幼虫は、まだピンクのままだった。
そして、他の幼虫より1.5倍くらい大きかった。


そしてある時、ふとケースの隅に茶色いサナギがあるのを発見した。

サナギになってる!

こうなるともうケース内を触ることはできない。
あのピンクの幼虫がどんなサナギになったのかわからないけれど、きっと立派なサナギになっていることを祈って、ウキウキしながら待っていた。

ある朝ケース内がバタバタと騒がしい音が聞こえる。
とうとうカブトムシになったんだ!

ケースの中には、オスのカブトムシ4匹とメスが3匹。

あれ?1匹足りない。

しかも取った時よりも、少し小さめのものばかり。
ピンクの大きい幼虫はどうなったんだろう…

僕は成虫になったカブトムシを、元の森に帰した。
人間に捕まらないで、元気に過ごしてね〜
と手を振った。

それから、細い棒で土の表面をそっと探ってみた。
その時、

さ、さわるな!

という声が聞こえた気がした。
見ると立派なツノがついた赤黒い大きなサナギがあることに気がついた。

あいつはまだ、羽化してなかったんだ!

もう少し待て

また、そんな声が聞こえた気がした。

僕はそのままケースを持ち帰り、再び家の廊下に置いた。

僕はそのサナギから、どんなカブトムシが出てくるのか、ドキドキしながら、毎朝そのケースをのぞいた。

つづく

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