心お弁当箱
僕の仕事はお弁当を運ぶ仕事だ。
毎朝僕は、僕の中にたっぷりの愛を詰め込んで出かけ、夕方は軽くなった体にありがとうの心を忍ばせて帰宅する。
でも実際に運んでいるのは、心だから
僕は心お弁当箱だ。
ご主人様は、空っぽにすることで、心が伝わると思っている。
僕は、ご主人様の心をどんなに詰め込んで返しも言葉には敵わないと思うのだけど、ご主人様は言葉にはしない。
僕には時々、昨晩の残り物や、冷凍食品が入ることがある。
しかし、僕は知っている。
夕食の残り物ではなく、お弁当のおかずを作った残りを、夕食にしているってこと。
冷凍食品を買う時は、数ある中で、どれが美味しいだろう、どれが好きなのだろう、とご主人様のことを思いながら選んでいるってこと。
もうすぐ、そんな僕の勤めも終わるらしい。
その日、僕は心お弁当箱として、最後の大仕事をした。
昼食後空になった僕に、ご主人様は、小さな花束とメモを添えて帰宅した。
「長い間美味しいお弁当を作ってくれてありがとう」
本文414文字
これは、たらはかにさんの
♯毎週ショートショートnote
の企画に参加したものです。
今回のお題は「心お弁当」でした。
今は自分のお弁当を作るだけの毎日ですが、誰かのために作るお弁当には、どんなお弁当にも心が入っていると思います。
それはお弁当ではなく、普段の食事もそうですよね。
感謝は心だけでなく、言葉で伝えた方がいい。
そんなふうに思います。