ひまわりヘブン
ひまわりヘブンに行きたいの
彼女の希望で、僕は彼女に言われるまま車を走らせた。
その場所は、まさにその名にふさわしい、
辺り一面黄色に染まったひまわり畑だった。
ひまわりが大好きな彼女は、嬉しそうにひまわり畑の中を駆け回り、花を眺めたり、写真を撮ったりしている。
ねえ隆志、一緒に写真撮ろうよ。
彼女は僕の手を引き、僕をひまわり畑の真ん中に連れて行き、ピタリの僕の横にくっついて、右手を前に突き出した。
見て見て!
彼女が撮った写真を見て僕は驚いた。
周りのひまわりの花が、みんなひまわりのような人になっていた。
彼女の顔の周りにも、黄色い花びらがついている。
え?
僕がスマホから目を離して辺りを見回すと、たくさんのひまわりのような人(ひまわり人と呼ぼう)が、僕らを取り囲んでいた。
ようこそ、ひまわりヘブンへ。
姫様、この方が姫様のフィアンセなんですか?
姫様、この方とどこで知り合ったの?
姫様…姫様…
姫様?
彼女は皆に姫様と言われていた。
何が何だかわからない。
あなた、姫様とどこで出会ったの?
と聞かれて僕は、
彼女が働いていたお花屋さんに、僕がひまわりの花を買いに行った時だよ。
と言った。
すると彼女は、
そうなの。
ひまわり2本くださいっていうから、プレゼントですか?
って聞いたら、いえ、自分の部屋に飾ろうかと…
って言ったのよ。
きゃー! 素敵❤️
ひまわり人は顔をあからめた。
男が、自分の為に花を買って一人の部屋に飾る事の何が素敵なんだ。
寂しい男なだけじゃないか…
と僕は思った。
でもね、素敵なのはそれだけじゃないの。
隆志はね、小学生の頃、夏休みに、水やり当番でもないのに毎日花壇のひまわりに、水をあげにきてくれていたのよ。
きゃー!きゃー!
ひまわり人たちが、黄色い声をあげる。
なぜ彼女はそんなことを知っているんだろう…
そんなこと、僕も忘れていたのに。
ねえ、いつプロポーズするの?
隣のひまわり人が、耳元で囁いた。
今晩ディナーの時にするつもりだよ。
僕は。ポケットの中の指輪に服の上からそっと触れた。
今しなさいよ!
ひまわり人はそういうと、叫んだ。
みんなー!始まるわよー!
あっという間に、ひまわり畑の真ん中が丸く空いた。
周りのひまわり人は、まるで僕たちが太陽になったかのように、みんな僕らの方を向いていた。
ひまわり人たちが見つめる中、僕は彼女にプロポーズをした。
彼女が涙を浮かべてうなづくと、僕はイエローサファイヤがひまわりの形に散りばめられた指輪を、彼女の薬指にはめた。
おめでとう
おめでとう
おめでとう
その声が、ひまわりを揺らす風の音でかき消された。
気づくと僕らは、ひまわり畑の真ん中にいた。
しかし彼女の指には、その晩渡すつもりだった指輪が光っていた。
こうして僕らは、結婚をした。
その日の写真は、今も僕のリビングに飾られている。
それはひまわり畑でくっついて笑う二人の写真だった。
誰に聞いても、ひまわりヘブンというひまわり畑があることどころか、そのあたりにひまわり畑がある事も、知らないと言った。
そして僕らも、それ以降ひまわりヘブンへ行くことはなかった
しかし僕は気づいている。
時々彼女が、誰もいないはずの写真の前で誰か複数の人と楽しそうにおしゃべりしている事。
時に僕の愚痴も言っている事。
♯シロクマ文芸部
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