見出し画像

ハルカ 2

ハルカは、堀田先輩と付き合い出したけれど、今までと全く変わりなく、休み時間になると、僕のところにお喋りに来た。

部活中も、やはり4階の美術室から、時折校庭を眺めていて、僕が見上げると、小さく手を振った。

変わったことといえば、学校帰りに会わなくなった事だ。
どうやら先輩と一緒に帰っているようだった。

ハルカは、先輩とどんな話をしているんだろうか…

とはいえ、今までと全く変わりないハルカに、僕も、ハルカが先輩と付き合っていることを忘れてしまいそうだった。

そんなある日、僕は先輩から呼び出された。

お前、どういうつもりだ!

どういうつもりかと言われても…
クラスメートとして普通にしゃべっているわけで…

僕自身、先輩からハルカを奪おうなどという気もないし、話しかけられれば、普通に話すだけ。

そもそも、ハルカはあなたの所有物ではない!
縛り付ける権利もない!

そう言いたかったけど、
意気地のない僕は、
俯いて
すみません、すみません、
全然…ただの友達です。
でも、あんまり話しないようにします。

などと言ってしまった。

何も知らずに、今まで通り話しかけてきたハルカは、なんとなくよそよそしい僕の態度に

どうしたの?
悩みごとでもあるの?

と心配してきた。

ハルカ…
ごめん…

その後もよそよそしい僕を見て
ハルカはだんだん、話しかけなくなった。

これでよかったのだ

でも、寂しい。
やっぱり寂しい。

ハルカとのおしゃべりは、
僕の楽しみであり、癒しなんだ。

先輩に何も言えず、
あまり話さないようにすると言ってしまった自分を呪った。

何をしても楽しくない。
考えてみたら、ハルカの他に、
そこまで喋る友達もいなかった。

そんなしょぼくれた僕だったけれど、
それ以上に、ハルカがそれ以降元気がないことが心配になった。

先輩とうまく行ってないのかな…

ハルカは時々、何かもの言いたげに僕の方を見ている。
僕は目を合わさないように、ハルカの方を見ないようにした。

でも、これでいいのか?
ハルカはSOSを出しているのではないのか?

僕はふと
ハルカが8年間、どんな思いで過ごしてきたのか、
どんな思いで、僕にハガキを出し続けていたのか、考えた。

この地に越してきたのは、やっぱり僕がいたからじゃなかったのか?

それなのに僕ときたら…

僕は、パッと立ち上がらり、ハルカのところに行った。

ハルカ、よそよそしくしてごめん。
大丈夫?

ハルカは顔をあげ、僕を見て、心なく笑った。
私、エネルギー切れたみたい…

充電してくれる?

僕は、できるだけ明るく笑って答えた。

もちろん‼︎

その時、次の授業の始業を始めるベルがなった。
僕たちは、お互いにこっと笑って席に戻った。

その日終礼が終わると、僕はハルカに声をかけた。
今から部活?

行きたくないな…

サボっちゃう?

サボっちゃおうか!

でも、先輩は?

先輩は部活だろうから、先に帰っちゃえば、大丈夫じゃないかな…

そして僕は、中学以来初めて部活をサボった。

帰宅部に紛れて校門を出た僕たちは、そのまま歩いて、(僕は自転車を引いて)近くの公園に向かった。

僕たちは、公園のベンチに座った。

木陰のベンチは、暑くなってきた日差が遮られ、涼しい風が心地よかった。

なんか久しぶりな感じだね。
うん。

最近元気ないね

ショウタが喋ってくれないから

彼氏いるのにさー

関係ないじゃん

関係あるよー
やっぱり、彼女が、他の男と仲良くしてたら、
彼氏は嫌じゃん。

ショウタは、特別だもん。
ショウタは、違うから。

何が違うのか?
どう特別なのか?
ショウタにはわからなかったけれど、
悪い気はしなかった。

それにね、
私だってそんないつもいつも元気なわけじゃない…

僕は、ハルカが何を言いたいのかわからなくて、ハルカの顔を覗き込んだ。

その時、

おい! 何やってんだ!

目の前に現れたのは、堀田先輩だった。

堀田先輩の大きな声に、ハルカは身体を
ビクッとさせた。

先輩は、今にも殴りかかるかと思うような勢いで、まくし立てるように言った。

ハルカ、
部活サボって他の男と何やってんだ。
ショウタ、
お前はハルカとあまり喋らないようにすると、約束したよな。

お前が、ショウタとコソコソ先に帰っていくのを見たから
追いかけてみたら、こんなところで2人で、
何してるんだ!

まさかハルカ、お前二股かけてるのか?
おい! なんとか言え!

はるかの体が、小刻みに震えている。
見ると真っ青な顔をしている。

そのうち
ヒッ ヒッ ヒッ
と呼吸が荒くなり、ハルカはしゃがみ込んだ。
過呼吸になったようだ。

僕は、
やめてください。
お願いします。
とハルカの背中を擦りながら、言った。

お前、偉そうに何言ってんだ!
俺はハルカの彼氏だぞ。
お前の方こそ、とっとと、1人で帰れ

先輩がそう言った時、ハルカが僕の手をぎゅっと握った。

帰らないで!

ハルカはそう言いたいのだと思った僕は、
勇気を出して言った。

大きな声を出さないでください。
僕がハルカを送って行きます。
今日のところは、このまま帰ってください。

はあ?
その時先輩は、ハルカが僕の手を握っていることに気づいた。
結局お前ら、そういう関係なのかよ。
俺を騙したんだな。

僕が黙って、苦しそうなハルカの背中をさすり続けていると、先輩は

馬鹿にするな

吐き捨てるように言って、帰っていった。

少しして、ハルカは落ち着いてきた。
ごめんね、ショウタ…

うちまで送るよ

うん。

横を歩くハルカは、
学校で見る、元気で明るいハルカではなかった。

先輩が怒るのも、当然かもしれない。
自分だって、彼女がそんな行動を取ったら、腹が立つかもしれない。

だけど僕は、ハルカを守りたい。



僕たちは無言で歩き続けたけれど、
それは気まずさではなく、
静かで穏やかな時間だった。

ただ横にいる
それだけでいいと思った。



これまでのお話はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?