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ボクのオナラは旅をする

ある日ボクは、教室でオナラがしたくなった。
必死で我慢していたけど、授業の終わりの挨拶で立ち上がった瞬間
ブッ
と出てしまった。

オナラの音は、みんなが立ち上がる椅子の音でかき消された。
その時、
「行ってきまーす!」
小さな声がした。
一瞬臭い匂いがした気がしたけど、すぐにしなくなった。

先生が、慌てたように教室を出て行った。その時
「ただいまー」
と声がして、微かにオナラの匂いがした。
え?
ボクが驚いていると、
「先生ったらあたしが近づいたら、自分がすかしへをしたと思って、慌てて教室を出て行ったよ。
あの先生今朝旦那さんと喧嘩したらしくて、そのことで頭がいっぱいだったわ。」
なんて言ってスッと気配を消した。

何だったんだろう…

しかし今日はなんだかよくオナラが出る。
次の時間、授業のまっただ中またオナラがしたくなった。
僕はお腹に力を入れて我慢していたが、その時スーッとオナラが出てしまった。

「なあーんだ、音出してくるないと、遠くまで旅に出られないじゃない。
じゃあちょっと行ってきまーす。」

また小さな声がした。

すると、前の席のナナちゃんが、周りをキョロキョロしてから、隣のノボルを見ている。
ノボルは少し慌てた様子だ。

ノボル、ごめん

そう思った時また声がした。
「ただいまー
ノボルは、机の下で漫画読んでたから、近くに行ってやったのよ。
ナナちゃんはノボルがおならしたって思ってたのよ、あはは。」
そう言ってまたスーッと気配は消えた。

ボクは誰の声を聞いているの?
ボクのオナラの声なの?
そんなわけないよね

ある時、ボクはお母さんとデパートに出かけた。
エレベーターに乗っている時、又してもオナラがしたくなった。
しかしこの密室でオナラはまずいだろ。
ボクは我慢したけど、降りる瞬間に
プッ
と小さな音を立てて、オナラをしてしまった。
でも誰も気づかないようだった。
その瞬間、エレベータのドアが閉まった。

え、待ってよ!
そんな声が聞こえた気がした。

しばらくして、
「もう、エレベーターの中に置き去りなんて、ひどいじゃないの」
と声がする。
「あの後男の子が、お母さんがオナラしたとか言い出して、お母さん、近くに乗っていたお兄さんにジロジロみられて、私じゃないのに…と思いながら真っ赤になってたわよ。かわいそうに。」

僕は、エレベーターを降りる時に、中に乗っていた親子とお兄さんを思い出した。

「どうやって戻ってきたの?」

ボクが聞いたけど、もう返事もなければ気配も感じなかった。
もう消えちゃったのか…

そんなある日、ボクはお風呂に浸かっている時にオナラがしたくなった。
また、声が聞こえるかな。
ボクは、お風呂に浸かったままオナラをした。

ボコボコと水の中から、オナラの玉が出てきた。

「プハー」
と声がした。
「あら?ここじゃどこにも行けないわね。」

「ねえ、どこにもいかないで話しようよ」
とボクは言ってみた。
目に見えないものに話しかけるのも変だったけど、そこにいる気がした。

「まあ、いいわよ。なーに?」
「君は誰なの?」
「誰って、わかってるでしょ?
あなたのオナラよ。」
「なんでオナラが喋るの?」
「いつだって喋ってるけど、今までキミが聞こうとしなかっただけよ。」
「どうして色んな人のことがわかるの?」
「質問責めねえ、誰かの鼻から入って、ちょっと体を回って鼻か口から出てくる間に、その人がその時思ってことはだいたいわかるのよ。」
「ヘェ〜すごいなあ。」
「普通よ。」
「でもなんで戻ってくるの?」
「行ったから帰ってくるのよ。」
「臭いから戻らなくていいよ」
「臭くなんてないはずよ。たくさんの空気に混じって、薄まって戻ってくるんだから。
匂いがするのは気のせいよ。
じゃあそろそろもどるわ。」
「え、待って、どうやってどこに戻るの?」
「鼻からキミの身体に戻るに決まってるじゃない。」

そうしてお風呂の中は静かになった。
ボクはボクのオナラを吸い込んだの?
いやもう、オナラではなく空気になって吸い込まれていったのか…

その後も何度かオナラの小さな声を聞いたけど、勝手に喋って勝手に消えていくだけだった。
そしていつしかその声も聞こえなくなった。

みんなすぐ、オナラをしたことなど忘れてしまうから、オナラが戻ってくるなんて夢にも思わない。
でも、オナラも、吐いた息も、空気に溶けて、空気になって又戻ってくるのか。

大きな音でオナラをした時、ボクのオナラはどこまで旅に出るのだろう。

それからボクは、大きなオナラをしたら
行ってらっしゃい
と心の中で思う。



身に覚えがない、かぐわしい匂いに、
誰かオナラしたのかな?と辺りを伺ってるあなた、
心読まれてますよ‼️

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