見出し画像

改正種苗法がもたらす将来的なリスクとは?種子法廃止と農業競争力強化支援法と一緒に考える。

2022年4月から改正種苗法が施行されます。

種苗法とは1998年に公布され、新たに開発された品種を国に登録しておくことでその品種を育成する権利を占有することができるという、知的財産を守る法律の一種となります。※『育成者権』とも言います。

今回の改正の最大の目的は"国に登録されている品種が海外に流出することを防ぐこと"だと言われています。

例えば、ぶどうの「シャインマスカット」が中国や韓国に持ち出され、無断に栽培され諸外国に流通してしまい、日本の生産者の脅威になっているという事実があります。

日本の貴重な知的財産でもある品種が海外で無断で流出してしまうことを防ぐために、農家がタネの自家採取をする行為を許諾制にすることで、目の届かないところでタネが勝手に増殖されないようにする。というのが今回の改正のポイントとなります。

ちなみに、この法律を破ってしまった場合は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が下されてしまいます。

私としても"品種の海外流出を防ぐ"ということ自体には賛成しています。

ですが正直なところ、改正種苗法単体では良いか悪いかはっきりさせるのは難しいと感じています。

ですので、以前記事にもした種子法廃止と農業競争力強化支援法も絡めながら、近い将来私たちの農業を取り巻く環境にどのような影響がもたらされるかを考えてみたいと思います。

農業に対する知識の足りなさと主張を裏付けるデータが充分に取得できないことにもどかしさを感じながらこの記事を書きました。誤っているところなどあればご指摘いただけると幸いです。

シャインマスカットの海外流出は防げた?

農家によるタネの自家採取を許諾制にすることで、"品種の海外流出を防ぐ"ことに役立つことには異論ありません。

ですが、そもそも種苗法を改正しなくても国内の品種が海外で無断に栽培されることを防ぐ枠組みはすでに存在していました

それがUPOV(ユポフ)条約というものです。

これは植物の新品種の保護に関する国際条約で、日本含め2021年時点で78か国が加盟しています。

UPOV条約に基づき各国で品種を登録することができるのです。

シャインマスカットが海外に流出して無断で取引がなされたのは、農林水産省が適切な対処を怠ってしまったからだという見方もあります。

大前提として、海外でも生産可能で且つブランド力を持てるほど品質が高い品種であれば、市場に出回る前に外国にて品種登録をすべきなのです。

よって、改正種苗法によってのみ不正な海外流出と取引を防ごうという論調には少し違和感があります。

またタネを無断で持ち出したのは日本の農家ではなく、流通業者なのではないかという話もあります。

いずれにせよ一概に農家だけが悪者かというと決してそうではないように思います。

ですが実際のところは農家に対してのみ規制をかけ、許諾料という形で金銭を負担させるというのはいかがなものでしょうか。

自家採取を禁止にすることの影響

今回の改正種苗法の対象となるのは「登録品種」と呼ばれる国に届け出がなされているもので、すべての品種が対象というわけではありません。

それ以外の在来種や品種登録されていないものを「一般品種」と呼び、それらについては自由に自家採取しても問題ありません。

登録品種は全体の1割程度なので影響はないと言われていますが、例外はあります。

青森県で栽培されている米の98%、北海道の小麦の99%、沖縄県のサトウキビのほぼ100%が登録品種のものです。それ以外にもほとんどが登録品種だという作物は探せば見つかるでしょう。

自家採取をしている農家の割合については信頼に足るデータが見つからなかったのですが、50%ほどが自家採取しているとも言われています。

自家採取するよりもタネを買った方が安くつくし問題ないという声もありますが、自家採取ができなくなることで問題があるかないかについては、個々の農作物の生産方法によりそうです

例えば「イモ」や「イチゴ」は、タネイモやツルから自家増殖して育てるのが基本のような農作物ですので、登録品種を育てている場合、毎回タネを買わなければならなくなるため、生産方法などに大きな変更を加える必要が出そうです。

「一般品種」は本当に大丈夫か?

今回の改正種苗法はあくまで「登録品種」に対してのみかかる規制であり、
「一般品種」は関係ないと言われていますが、果たして安心しておいても本当に大丈夫なのでしょうか?

言ってしまえばこれは権利ビジネスにもなりうる可能性があります。

在来種をそのまま登録品種にすることはルール上難しいのですが、在来種に一部改善を加え(例えば必ずまっすぐ育つなど)新品種として登録してしまい、それが在来種より人気が出た場合、市場を奪ってしまう可能性があります。

そしてその開発者には許諾料という権利収入が発生するのです。

これをビジネスチャンスと捉えた民間企業が、様々な手段を使って「一般品種」を「登録品種」にしてしまうということが考えられなくはないのです。

種子法廃止・農業競争力強化支援法と絡めると?

私がこの改正種苗法において最も困惑しているのが、農業競争力強化支援法との矛盾についてです。

一方では権利を守るためと言いながらも、一方ではノウハウを民間に開放せよと言っているのです。

農業競争力強化支援法の「第二章 国が講ずべき施策 第八条」には以下のように記載されています。

四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。

また同じく八条に、

三 農業資材であってその銘柄が著しく多数であるため銘柄ごとのその生産の規模が小さくその生産を行う事業者の生産性が低いものについて、地方公共団体又は農業者団体が行う当該農業資材の銘柄の数の増加と関連する基準の見直しその他の当該農業資材の銘柄の集約の取組を促進すること。

とあり、これは『品種を少なくしていくよ』というようにも読み取れます。

これらのことを種子法廃止からの一連の流れで見てみると、

"種子法廃止によって農業を国の管理下から外し、農業競争力強化支援法によって知的財産の放棄と品種の縮小を行い、改正種苗法の自家採取制限によってタネを自由に選べなくする"というように解釈するのは曲解でしょうか。

言い換えると、日本が積み重ねてきたノウハウを一部の巨大企業に"無料"で手渡し、品種を絞ることで囲い込みを許し、農業従事者の多くを消費者に成り下がらせることを国が後押ししているというように見えなくもないのです。

じゃあ誰からタネを買うのか?

日本にも種苗会社はいくつかあるにはあります。
しかし世界のマーケットシェアでみると、バイエル(モンサントを買収)・コルテバ(ダウ・デュポンから分社)・シンジェンタ(ケムチャイナの子会社)の3社で市場の多くを独占しているのが現状です。

市場の原理から言うと、資本力が大きい方が圧倒的に有利なのは間違いありません。

これまで国が管理していたことで多様性と安全性、高い品質が維持されていました。

それが近い将来、株主のための利益最大化が目的である民間企業にその多くを委ねてしまう可能性があります。

しかも、その株主は日本人でも日本に住んでいるわけでもない人たちです。

またTPPのISD条項によって、民間企業が不利益を被った場合は、国や地方自治体、個人が訴えられる可能性もあるのです。

ちなみに、日本モンサントと三井化学が提携した米に「みつひかり」という種類のものがあります。コシヒカリと比べてどれぐらいの価格差があるか調べたところ、と2.5倍の価格差がありました。

「コシヒカリ」種籾 約2,000円/kg
「みつひかり2005」種籾 約5,000円/kg

いくら許諾料は少額だったとしてもそもそもの値段がこんなに高いのでは困ります。

参照元:株式会社のうけん
https://www.k-nouken.com/htm/suitouuruchi_hyou.html

タネは誰のもの?

種子は、何万年も続く人類の資産であると私は考えています。

しかも戦後から私たち日本人の先祖たちが努力と時間とお金をかけ、良質なタネを残してきてくれました。

それを一部の企業の儲けのためにみすみす明け渡してはいけません。

もちろんタネの海外流出を防ぐ方策は大事ですが、改正種苗法は種苗会社の権利を強化し、農家を単なる消費者にさせてしまう可能性を孕んでいるのです。

そういった問題に気づき、世界各地で在来種を守る条例や法制化の動きも活発になっているようです。

政府の方針に盲目的に従うのではなく、長期的な視点に立って本当に大丈夫なのかを考え、私たちの食の安全と創造する権利を脅かすことがあれば、力を合わせてこれを守っていく必要がありそうです

よかったら以下の記事も覗いてみてください。

種子法について↓

農業競争力強化支援法について↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?