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全国共通箱男ランキング

本記事は映画『箱男』並びに原作小説、さらに方々いくつかの作品のネタバレを含みます。

 箱、被りたいですよね。被りたい、被りたい、被りたいなあ。

 2024年8月、安部公房(1924-1993)による同名小説を原作とした映画『箱男』(監督:石井岳龍)の全国劇場でのロードショーが始まりました。WOW!

 安部公房といえば国語便覧にも載っている近代文学の代表作家であり「ノーベル文学賞に最も近い人物、と評されながら急死」「代表作『砂の女』はソ連でもヒット。インテリ層は読む用と並べる用で二冊買った」「日本人として最初期にワープロNWP-10Nでの執筆を行った一人」「ピンク・フロイドのファン」などwikipediaの記述にも事欠かない人物です。

 戯曲も多いその著作群がいくつも上演・映像化されてきた中で『箱男』は今回が初の映画化。1997年に頓挫した同監督・同主演での製作企画が、いったい何がどうなってか実現したという点でも特異な作品と言えるでしょう。

「あー、まあ名前は見たことあるかも」「こうぼう? きみふさ?」「電波少年?」「うるさ型が多そうで関わりたくない」分かります。「いやそんなことはない私はもちろん通読している『箱男』なんて基礎教養だろうそもそも出兵することなく終戦を満州で迎えた公房は」愛憎相半ばの方は早速映画を見に行かれるとよろしいでしょう。奇妙な原作の(ある程度の)再現と現代映画としての翻案・筋道の整理を両立した嬉しい作品であり、あらすじを把握していれば十分に楽しめると思います。

 本当にそうか? 僕が見た公開週の土曜日は八割ほどと上々の客入りでしたが、客席ではちらほら寝息も聞こえました。俺も途中は眠くなった。よく言えば陶酔。画面が暗いと思う。

 さて本稿は感想記事ではありません。ここでポスターをご覧ください。

 箱男……知らん……こわ……という方も、写真で見ると何らかの既視感を覚えるかもしれません。くたくたのダンボール、やけに堂々とした立ち姿、こちらに向けられた(としか思えない)異様な視線……。
 安部公房の生誕から100年、原作小説の発表から50年超が経過した2024年の現代では「ダンボール箱に身を隠しながら確かな存在を主張する人物」という表現にはいくつかの類例があります。頻出・陳腐ではないけれど斬新でもないという微妙なラインになっていると言えるでしょう。

 そこで今回は世に氾濫する箱男っぽいキャラクターが実際どのくらい箱男っぽいのかを調べてみました! 是非参考にしてみてください!



評価基準

 箱男っぽさを検討するに当たり、今回は「カムフラージュ性、匿名性、視認性+機動性、戦闘力、持続力、感染力」の六項目を基準に設定しました。評価は「A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並み D:ニガテ F:超ニガテ」の古式ゆかしい五段階。
 例を兼ねて映画『箱男』の語り手である箱男(わたし/演:永瀬正敏)から始めましょう。よろしくお願いします。


 箱男(2024)/わたし

カムフラージュ性:B 匿名性:A
視認性+機動性:C 戦闘力:B
持続力:B 感染力:A

カムフラージュ性:B
 自称完全な孤立。確かに道行く人の大部分はその存在を気にも留めない。しかし捜索されると結構あっさり見つかる。

匿名性:A
 自称完全な匿名性。これは客観的にも事実。箱を被っている人間がそこにいるとき、その中身が何者であるかは誰にも分からない。

視認性+機動性:C
 箱男は一方的にお前たちを覗く。そのための覗き穴(蓋付き)も空いている。ただし視界は悪い。また路上に鎮座することが多いため他人の顔はほぼ見えず、目に入るのは尻から下ばかりである。それでも箱男は難なく歩行し、回転し、走ろうと思えば走ることもできる。しかも意外に速い。しばしば追跡者(非箱男)を振り切る。

戦闘力:B
 箱男(わたし)は強い。箱を被ったまま平気で人を殴ったり蹴ったりする。その強さは格闘術などに支えられているわけではなく、自衛のためなら人を傷つけることも躊躇しない精神力に依るものに見える。しかしそれは現実なのか?

持続力:B
 箱男(わたし)は箱の中で寝食を行う。その気なら何日でも過ごすことができそうだが、体が痒くなったり怪我をするのは困る。箱男(わたし)は一時的に箱を脱いで活動することもある。

感染力:A
 箱男を意識するものは、箱男になる。


 ソリッド・スネークさん

カムフラージュ性:A 匿名性:B
視認性+機動性:B 戦闘力:B
持続力:D 感染力:D

 ステルスアクションゲーム『メタルギア』シリーズの主要登場人物。ダンボールは装備アイテムの一つとして登場。
 長いシリーズの中でその扱いはタイトルごとに変化し、ある程度実用的なこともあればお遊び要素に留まることもありますが、スネークがダンボールに示す愛着は一貫というか時代が進むごとに進行しています。悪ノリ。
 なおタイトルの監督である小島秀夫から、シリーズに頻出するダンボールは『箱男』のオマージュであることが明言されています。

カムフラージュ性:A
 文句なしの箱男超え。姿を隠すダンボールとステルスゲームの親和性は高く、適切に運用すれば敵から存在を隠蔽することが可能。攻略自由度の高いシステム上使わなくてもクリアできるが、逆にタイムアタックで活用されたりもする。

匿名性:B
 ダンボールの存在に気付かれたとしても中身の正体は破壊されるまで認識されない。匿名性は高い。ただしNPCにとってダンボールの中身は敵か敵以外か二択の意味しかなく、またプレイヤーから見れば画面の中央でダンボールを被っている人物=PCという事実は揺らがないため、ゲームとして匿名性に意味がない点は留意が必要。そもそもスネークはダンボール無しでも素性を隠している。

視認性+機動性:B
 箱男と同様ダンボールには覗き穴がある。またゲームは三人称視点で進行するため視界には一切の不備がない。機動の面では普通に歩行できる上、タイトルと状況によっては通常移動以上の速度を出すこともある。

戦闘力:F~B
 初期のダンボールはあくまでもステルス用アイテムでしかなかったが、シリーズが進行するにつれて性能が向上。身を隠す以上の戦闘機能を持つようになった。ただしダンボールを被ったまま格闘することはできない。

持続力:D
 スネークはダンボールを愛している。しかし内部で生活することはできず、被ったままゲームをクリアすることもできない。ダンボールはあくまでも任務を達成するための数ある道具の一つでしかない。

感染力:B
 スネークが折に触れてその素晴らしさを語る甲斐あってか、シリーズが進むにつれて味方や部下など別のキャラクターもダンボールを使用するようになった。タイトルによってはPCを変更できる=誰でもダンボールを被られるという話でもある


 ダンボーさん

写真右がダンボー (C)KIYOHIKO AZUMA/YOTUBA SUTAZIO よつばとダンボー展

カムフラージュ性:E 匿名性:B
視認性+機動性:D~A 戦闘力:E~A
持続力:E 感染力:D

 あずまきよひこによる漫画『よつばと』の登場人物/着ぐるみ/ロボット。2024年現在まで漫画本編での登場は第28話「ダンボー」第69話「さいかい」のみだが、グッズ展開などが充実し世間で広く認知されている。wikipediaに専用のページがあります。

カムフラージュ性:E
 ダンボーは目立つ。手足を取り外し一つの箱に収納することはできるが、その状態で中に入ることはできない。

匿名性:B
 ダンボーの機密性は高く、着用者が外見から察知されることはまずない。しかし実態としては小学生の背丈で設計されており、また夏休みの自由課題として学校に存在を把握されているため、観察者によってはほぼ正体の見当が付くと考えられる。

視認性+機動性:D~A
 歩行は可能。エレベーターの乗り降りに苦労する描写がある。なおwikipediaには以下の記述がある。

戦闘力:E~A
 幼児に破壊されかけたことがある。なおwikipediaには以下の記述がある。

持続力:E
 暑いらしい。

感染力:D
 ダンボーを意識するものがダンボーになることはない。ダンボールを被るだけでは成立せず、工作しなければならない点がネックだ。


 デイブさん

カムフラージュ性:E 匿名性:B
視認性+機動性:E 戦闘力:A
持続力:B 感染力:B

 2017年公開のアメリカ映画「キラー・メイズ(原題:Dave Made a Maze)」に登場する青年。ダンボール迷宮の制作者でありながら自らの迷宮に取り込まれてしまった。居間の真ん中に作ったはずの迷宮内には外観とかけ離れた巨大空間が広がり、デイブを捜索する人々を次々と飲み込んでいく──。

カムフラージュ性:E
 キラー・メイズは風景に溶け込むような代物ではない。ただし発生地の居間から移動することはないため、そもそも世間の目には触れないとも言える。

匿名性:B
 キラー・メイズには少なくとも十人以上が滞在できる。また迷宮に誰がいるのか外からは認識できない。匿名性は高いと言えるが、構造上デイブの滞在だけは常に確定するため評価は一段低くなった。

視認性+機動性:E
 キラー・メイズは移動しない。ともかく、そのはずだ。外部とのコミュニケーションは音声のみ描写がある。

戦闘力:A
 キラー・メイズは侵入者を殺戮する。

持続力:B
 おそらく長期間の滞在が可能。ただし無数の殺人トラップと交渉不能の怪物から逃げ延びることができればという条件が付く。

感染力:B
 キラー・メイズは人を引きつける。その入り口を見てしまえば、誰もが足を踏み入れずにいられない……。


 後藤ひとりさん

画像右のダンボールが後藤ひとりさん ぼっち・ざ・ろっく! #1より

カムフラージュ性:D 匿名性:B
視認性+機動性:D 戦闘力:-
持続力:D 感染力:E

 漫画及びTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』の主人公にして劇中のバンド「結束バンド」のギター担当。卓越した演奏技術と突き抜けたコミュニケーション不全を併せ持つ怪人物。装着するダンボール「完熟マンゴー」は第一話「転がるぼっち」から登場。成り行きで人生初ライブを迎えた主人公の精神的防壁として機能するも、ステージを終えた本人は「人生で一番みじめかも!」と振り返った。

カムフラージュ性:D
 ステージ上のダンボール(縦に繋いだ二箱)にカムフラージュ性はない。普通にいるより目立つ。目的が違うので仕方がない。

匿名性:B
「誰?」結果として正体を隠す効果も機能したが、本人にその意図はない。完熟マンゴーの主目的は人の目に耐えることである。

視認性+機動性:C
 視認と機動に支障はない。開閉式の窓があり、ギターの演奏が出来る程の広さも確保されている。必要十分の機能美。

戦闘力:-
 ここ何か書かなきゃダメですか? 後藤ひとりさんに人類がまだ知らない戦闘能力がある可能性は否めないものの、完熟マンゴー自体はありふれたダンボールである。

持続力:C
「(押し入れなど)いつも弾いてる環境と同じです!」という発言があり快適性は好評。箱男のように倒してしまえば寝ることも可能だろう。

感染力:E
 物語が進むにつれて結束バンドと後藤ひとりさんは認知されていくが、箱を真似する人は……特に……。


 大沢瑠璃乃さん

写真中央のダンボールが大沢瑠璃乃さん

カムフラージュ性:D 匿名性:B
視認性+機動性:E~C? 戦闘力:ー
持続力:B 感染力:D

 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ所属の103期生。2024年現在は高校二年生。誰に対しても優しく明るい性格の人物であり、反面、気を遣いすぎて疲れてしまうことも。"充電切れ"からの回復手段は一人の時間を過ごすこと。そのために友人たちが考案したアイデアが特製ダンボール「ぼっちハウス」である。なおこの呼称は定着しなかった。

Link! Like!!ラブライブ!第9話『ルリ・エスケープ』より。貴重な初期状態

カムフラージュ性:D
 仲間たちによるイラストやステッカーの施された非常に個性的なダンボールが風景に馴染むことはない。ただし箱の形のまま屋内で運用されることが基本となるため、生活の中で目を惹くことはあっても人に違和感を与えることはない。

匿名性:B
 個性的な外観から「箱が安置されている=大沢瑠璃乃さん滞在中」と推理されがちだが、実際には誰でも入ることができ、また誰も入っていない場合もあり得ることが描写されている。あるいは完全な匿名性に最も近い存在かもしれない。

りんく!らいふ!ラブライブ!【第53話】

視認性+機動性:D~C?
 体力回復のための閉鎖空間という特性から外部と繋がる穴は小さく、移動も想定されていない。友人にして大ファンのメンバーから機能向上の方策を提案されたこともあるが、実用に至ったかは不明。可愛さ余って趣旨を外れているような気はする。

りんく!らいふ!ラブライブ!104期【第11話】

戦闘力:ー
 言及の価値もない。大沢瑠璃乃さんや友人たちが暴力や悲劇とは無縁で生きられる世界にしていかなければならない。何が箱男だ。

持続力:B
 生活を営むレベルではないと思われるが、大沢瑠璃乃さんにとっては極めて快適な空間のようだ。それ以上に何を望むことがあるのでしょうか。

感染力:D
 箱、環境ともに比較的模倣しやすい部類だが、根源的な動機・必要性の論理が独特なためか追随者は見当たらない。友人や同校の生徒たちから個性を尊重されているということでしょう。


いかがでしたか?

 豊かな箱男の世界を垣間見ることで、箱男の箱男らしさを比較検討することができました。いかがでしたか? 様々な作品に影響与えたり与えなかったりした小説を原作とする映画『箱男』は全国で絶賛上映中。君も劇場で箱男の箱男性を確かめよう! 以上です。


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